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第二七話 願った未来
第二七話 六
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翌日、新年祭が執り行われた。
あかりたちは舞と祝詞を披露するために張り出し舞台のそでで待機していた。表舞台では司が新年の挨拶を述べている。
司は現在一三歳である。幼ない頃の容姿は女子のように愛らしいものだったが、今ではすっかり美少年という言葉がぴったりになるほど成長していた。先代までの記憶を受け継ぐ司は元より見た目にそぐわないほど礼儀正しくしっかりしている印象で、もっといえば老成していた。外見に反してその点だけはあまり変化がないといえた。
「悪夢着草木吉夢成宝王」
挨拶の結びに悪夢が吉夢に変ずるよう祈られる夢違えが唱えられる。それから司が締めの言葉を口にして一礼すると、場は拍手喝采となった。
舞台そでに引き上げてきた司は、あかりたちに目配せすると「頑張ってくださいね」と言って奥へと消えた。中央御殿の最上階からあかりたちの舞と祝詞を観賞するのだろう。去っていくその足取りはどこか軽い。
それから舞台が整うと、あかりたちは頷き合って表へ出た。
穏やかな旋律から始まり、荒々しい旋律を経て、再びゆっくりとした旋律に戻る曲調に合わせて、あかりたちは舞う。
「冀くば我が愛すべき者ら全て、心上護神、除災与楽、胸霧自消、心月澄明、祈願円満、円満成就。急々如律令」
この世の平和が永く続くように、祈りを込める。四色の光がわっと溢れて、やがて収束した。
「一心奉送上所請、一切尊神、一切霊等、各々本宮に還り給え、向後請じ奉らば、即ち慈悲捨てず、急に須く光降を垂れ給え」
儀式の締めくくりの詞を唱えて、二礼した後、あかりたちは舞台を後にした。
四家の務めはまだ終わらない。舞と祝詞の奏上の後は、町の見回りがある。例年のようにあかりたちは初詣を兼ねながら、町の様子を観察していた。
清々しいまでの晴天で、大路に立ち並ぶ屋台は賑やかで、道行く人々の顔は明るく、町は活気に溢れている。
そこにはいつか見たような邪気に侵されて暗く淀んだ空気はなかった。
あかりがちらりと隣をうかがえば、結月たちも同じことを思っているのだろう、穏やかな顔つきをしている。
お祭りの明るい雰囲気が邪気を祓うことにつながるのなら、きっとこの陽の国の町の未来も明るいものになるだろうと思えた。
そういった背景もあり、今年の見回りは気楽なものだった。各社に参拝し、ときどきは屋台に寄って祭りを楽しむ余裕もあった。
日が暮れて、これもまた恒例の夕食会に参加した。
この年の夕食会は特に賑やかだったと、別れ際、司は心底嬉しそうに笑った。それはいつもの大人びたような微笑みではなく、年相応の飾らない笑みだった。
あかりたちは舞と祝詞を披露するために張り出し舞台のそでで待機していた。表舞台では司が新年の挨拶を述べている。
司は現在一三歳である。幼ない頃の容姿は女子のように愛らしいものだったが、今ではすっかり美少年という言葉がぴったりになるほど成長していた。先代までの記憶を受け継ぐ司は元より見た目にそぐわないほど礼儀正しくしっかりしている印象で、もっといえば老成していた。外見に反してその点だけはあまり変化がないといえた。
「悪夢着草木吉夢成宝王」
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舞台そでに引き上げてきた司は、あかりたちに目配せすると「頑張ってくださいね」と言って奥へと消えた。中央御殿の最上階からあかりたちの舞と祝詞を観賞するのだろう。去っていくその足取りはどこか軽い。
それから舞台が整うと、あかりたちは頷き合って表へ出た。
穏やかな旋律から始まり、荒々しい旋律を経て、再びゆっくりとした旋律に戻る曲調に合わせて、あかりたちは舞う。
「冀くば我が愛すべき者ら全て、心上護神、除災与楽、胸霧自消、心月澄明、祈願円満、円満成就。急々如律令」
この世の平和が永く続くように、祈りを込める。四色の光がわっと溢れて、やがて収束した。
「一心奉送上所請、一切尊神、一切霊等、各々本宮に還り給え、向後請じ奉らば、即ち慈悲捨てず、急に須く光降を垂れ給え」
儀式の締めくくりの詞を唱えて、二礼した後、あかりたちは舞台を後にした。
四家の務めはまだ終わらない。舞と祝詞の奏上の後は、町の見回りがある。例年のようにあかりたちは初詣を兼ねながら、町の様子を観察していた。
清々しいまでの晴天で、大路に立ち並ぶ屋台は賑やかで、道行く人々の顔は明るく、町は活気に溢れている。
そこにはいつか見たような邪気に侵されて暗く淀んだ空気はなかった。
あかりがちらりと隣をうかがえば、結月たちも同じことを思っているのだろう、穏やかな顔つきをしている。
お祭りの明るい雰囲気が邪気を祓うことにつながるのなら、きっとこの陽の国の町の未来も明るいものになるだろうと思えた。
そういった背景もあり、今年の見回りは気楽なものだった。各社に参拝し、ときどきは屋台に寄って祭りを楽しむ余裕もあった。
日が暮れて、これもまた恒例の夕食会に参加した。
この年の夕食会は特に賑やかだったと、別れ際、司は心底嬉しそうに笑った。それはいつもの大人びたような微笑みではなく、年相応の飾らない笑みだった。
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