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第二六話 繋がる想い
第二六話 四
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西白道から白古家の邸の裏に入る。そこには玄舞家のように墓石が建ち並んでいて、やはり一際立派な墓に近づいた。
菊助の墓には新鮮な花と果物がすでに供えられている。梓の調子がいい日に秋之介は母と一緒になって墓掃除をしているのだった。
皆で線香をあげ、墓前に手を合わせる。
あかりの代わりに、秋之介は胸の内で今日があかりの誕生日であることを伝えた。
秋之介が最後だったらしく、あかりたちは静かに待っていてくれた。「待たせたな」と秋之介が立ち上がると、昴と結月は首を横に振った。
それから四人は南朱湖を目指した。
「そろそろお昼時だよね。あかりちゃんはお腹空いてない?」
「すいた」
「相変わらず食い意地はってんなー」
「まつり様たちのところへ行ったら、お昼ご飯にしよう。あかり、何食べたい?」
他愛ない話をしているうちに南朱湖にたどり着く。
五年前の戦いで南朱湖は氾濫した。以降、南の地には邸もその裏にあった墓地もないままだ。だからいつものように南朱湖に向けて祈りを捧げる。
あかりは無心で瞑目し、手を合わせていたが、すぐに目を開けた。結月たちはまだ目を閉じたままだった。
手持無沙汰になったあかりは湖の奥まで眺め渡して、そよ風に揺れる水面をじっと見つめた。
(うれしい、たのしい。かなしい、さびしい)
あかりの意思とは関係なしに胸に去来するのは相反する感情だった。
ちらちらと思い出の影のようなものは見えるのに、はっきりとした輪郭はとらえられない。現実に身を置きながら、夢幻を見ているような感覚だった。
『私は生きて側にいてあげられない。だけど、ゆづくんに秋くん、昴くんがいる。それに朱咲様もあかりの中に。あかりは決してひとりじゃないわ。遠く、私も見守っている。だから、自分とまわりのみんなを愛して、絶対に生き抜くのよ』
『あかり、決して諦めることなく生き抜くんだよ。お父様との約束だ。この姿がなくなっても、側にいられなくても、お父様はあかりを愛していること、どうか忘れないでおくれね』
耳に届いたのではない、ふと蘇る二つの声。
(また、やくそく……)
先ほど西白道で木を見上げたときのことが思い出される。そのときと似たような感覚だったが、明確に異なるのは約束の内容を知ることができたということだった。
(たたかい、いきる、やくそく)
「お、かあさ、ま。おとう、さま……」
気がつけばあかりはぽろりと二人の名前を呟いていた。同時に赤い光が淡く舞う。言霊だった。
柔らかな風が南朱湖の上を吹き渡る。
隣からは祈り終わった三人が息をのむ気配がした。
「あかり、どうしたの……?」
「?」
あかりの頬に一筋の涙が伝う。
優しくてあたたかい。愛おしい二つの声に『あかり』と呼んでもらえたような気がして。
菊助の墓には新鮮な花と果物がすでに供えられている。梓の調子がいい日に秋之介は母と一緒になって墓掃除をしているのだった。
皆で線香をあげ、墓前に手を合わせる。
あかりの代わりに、秋之介は胸の内で今日があかりの誕生日であることを伝えた。
秋之介が最後だったらしく、あかりたちは静かに待っていてくれた。「待たせたな」と秋之介が立ち上がると、昴と結月は首を横に振った。
それから四人は南朱湖を目指した。
「そろそろお昼時だよね。あかりちゃんはお腹空いてない?」
「すいた」
「相変わらず食い意地はってんなー」
「まつり様たちのところへ行ったら、お昼ご飯にしよう。あかり、何食べたい?」
他愛ない話をしているうちに南朱湖にたどり着く。
五年前の戦いで南朱湖は氾濫した。以降、南の地には邸もその裏にあった墓地もないままだ。だからいつものように南朱湖に向けて祈りを捧げる。
あかりは無心で瞑目し、手を合わせていたが、すぐに目を開けた。結月たちはまだ目を閉じたままだった。
手持無沙汰になったあかりは湖の奥まで眺め渡して、そよ風に揺れる水面をじっと見つめた。
(うれしい、たのしい。かなしい、さびしい)
あかりの意思とは関係なしに胸に去来するのは相反する感情だった。
ちらちらと思い出の影のようなものは見えるのに、はっきりとした輪郭はとらえられない。現実に身を置きながら、夢幻を見ているような感覚だった。
『私は生きて側にいてあげられない。だけど、ゆづくんに秋くん、昴くんがいる。それに朱咲様もあかりの中に。あかりは決してひとりじゃないわ。遠く、私も見守っている。だから、自分とまわりのみんなを愛して、絶対に生き抜くのよ』
『あかり、決して諦めることなく生き抜くんだよ。お父様との約束だ。この姿がなくなっても、側にいられなくても、お父様はあかりを愛していること、どうか忘れないでおくれね』
耳に届いたのではない、ふと蘇る二つの声。
(また、やくそく……)
先ほど西白道で木を見上げたときのことが思い出される。そのときと似たような感覚だったが、明確に異なるのは約束の内容を知ることができたということだった。
(たたかい、いきる、やくそく)
「お、かあさ、ま。おとう、さま……」
気がつけばあかりはぽろりと二人の名前を呟いていた。同時に赤い光が淡く舞う。言霊だった。
柔らかな風が南朱湖の上を吹き渡る。
隣からは祈り終わった三人が息をのむ気配がした。
「あかり、どうしたの……?」
「?」
あかりの頬に一筋の涙が伝う。
優しくてあたたかい。愛おしい二つの声に『あかり』と呼んでもらえたような気がして。
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