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第二六話 繋がる想い
第二六話 三
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昴を先頭に竹林の奥へと進む。滅多に来ない竹林にあかりは興味を持ったようで、きょろきょろとあたりを見回していた。あかりの後ろを歩く結月が「あかり、前見て歩かないと、危ない」と注意する。するとあかりは立ち止まり、振り返ると結月に手を差し出した。
「え、っと……?」
困惑する結月に向かってあかりは「て」とだけ言った。
あかりに合わせて足を止めた昴がくすりと小さく笑う。
「いつものゆづくんの真似じゃない?」
最後尾、結月の後ろで秋之介が「あー、そういうことか」と頷いた。
「要するに、手を繋いでたら転ぶ心配はないだろうって言いたいんじゃねえの」
「なんか、立場が逆な気もする、けど……」
そうは言いながらも結月はあかりの手をとった。
「これで、いいの?」
「て、つなぐ。あんしん」
道幅は狭いので並んで歩くことはできない。あかりが結月の手を引いて半歩前を歩き出したので、結月も遅れないように後をついていく。秋之介ものっそりと歩き出し、昴も前を向き直して先を行く。
細道を抜けた先は開けた竹林となっていて、大事に扱われてきたことをうかがわせるようにきれいな墓石がいくつも建っていた。中でも特に立派な墓に昴たちは近づく。
「ここだよ」
結月があかりを呼びにっている間、昴と秋之介があらかたの掃除などは済ませていたらしい。墓石は磨かれ、新しい花と果物が供えられている。
皆に倣って、あかりも手渡された線香をあげ、手を合わせて目を閉じる。何を考えればいいかわからないあかりに代わって、昴が声をあげた。
「今日であかりちゃんも成人しました。戦いが終わって無事……とはいえないけれど、こうして僕たちは今日も元気に生きています。お父様とお母様もどうかそちらで仲良く、僕たちのことを見守っていてくれていると嬉しいです」
昴の思いに答えるように優しい風があかりたちの頬を撫でる。つられるようにしてそっとまぶたを上げた昴が三人を振り返る。
「みんな、付き合ってくれてありがとうね」
「ううん。次は、菊助様の、ところ?」
「ああ。お袋は香澄様のところに行くって言ってたから今は邸にいねぇだろうけどな」
「いいんじゃない。まつり様たちのところへ行ってから、春朝様たちに挨拶すれば。そこで梓様にも会えるだろうし」
「うん。もし入れ違いで会えなくても、今晩の夕食会には来るんでしょう?」
話はまとまり、あかりたちは次に西の地へ行くことにした。
西白道には青々とした緑の葉を茂らせた木々が林立している。日なたは痛いくらいの陽射しが降り注ぎ、夏特有の蒸し暑さに汗が吹き出るが、西白道に入ると木々のおかげで少しひんやりと感じられた。
四人でしゃべりながら歩いていると、ふとあかりが樹上を振り仰ぎ、足を止めた。
「どうしたの、あかりちゃん」
昴たちもあかりの視線の先を追うが、そこには他と変わらない木があるだけだった。昴と結月は不思議がっていたが、秋之介は違った。
「あの木……」
緊張にやや顔を強張らせた秋之介はあかりの顏を見上げた。あかりはじぃっと木を見つめたまま「あそこ。やくそく……」と呟く。
「……あかり、憶えてんのか……?」
「……わからない」
秋之介に答えたというよりは自問自答に近い響きだった。
何か大事なことがあった気がする。『約束』の二文字があかりの脳裏に浮かび上がる。あそこで、約束を交わしたということだろうか。けれど肝心の内容が思い出せない。
しばらくそうしていたあかりだったが、やがて諦めたように歩き出した。
「あ……! あかり、待って」
結月があかりを追いかける後ろで、昴は秋之介に「何か知ってるの、秋くん」と尋ねた。
秋之介はかつて白古家の邸が焼けた後、結月に当り散らした日のことを話した。ちょうどこの木に登っていた秋之介が頭を冷やしているときにあかりがやってきて二人で約束を交わしたということを。
「そっか。だからあかりちゃんはこの木を見上げてたんだね」
「約束したんだ。あかりはいなくならない、一緒に強くなろう、って」
「……あかりちゃんは、きっと約束を守ってくれるよ。じゃなきゃ、さっきみたいに急に立ち止まって何もない木を見上げない」
「……ああ」
約束をしたときから保証なんてどこにもないと知っていた。あるとすればあかりを信じることだけだった。
(そのときに決めただろ、俺は)
約束は必ず果たされる。絶対にあかりを信じるのだと。
「え、っと……?」
困惑する結月に向かってあかりは「て」とだけ言った。
あかりに合わせて足を止めた昴がくすりと小さく笑う。
「いつものゆづくんの真似じゃない?」
最後尾、結月の後ろで秋之介が「あー、そういうことか」と頷いた。
「要するに、手を繋いでたら転ぶ心配はないだろうって言いたいんじゃねえの」
「なんか、立場が逆な気もする、けど……」
そうは言いながらも結月はあかりの手をとった。
「これで、いいの?」
「て、つなぐ。あんしん」
道幅は狭いので並んで歩くことはできない。あかりが結月の手を引いて半歩前を歩き出したので、結月も遅れないように後をついていく。秋之介ものっそりと歩き出し、昴も前を向き直して先を行く。
細道を抜けた先は開けた竹林となっていて、大事に扱われてきたことをうかがわせるようにきれいな墓石がいくつも建っていた。中でも特に立派な墓に昴たちは近づく。
「ここだよ」
結月があかりを呼びにっている間、昴と秋之介があらかたの掃除などは済ませていたらしい。墓石は磨かれ、新しい花と果物が供えられている。
皆に倣って、あかりも手渡された線香をあげ、手を合わせて目を閉じる。何を考えればいいかわからないあかりに代わって、昴が声をあげた。
「今日であかりちゃんも成人しました。戦いが終わって無事……とはいえないけれど、こうして僕たちは今日も元気に生きています。お父様とお母様もどうかそちらで仲良く、僕たちのことを見守っていてくれていると嬉しいです」
昴の思いに答えるように優しい風があかりたちの頬を撫でる。つられるようにしてそっとまぶたを上げた昴が三人を振り返る。
「みんな、付き合ってくれてありがとうね」
「ううん。次は、菊助様の、ところ?」
「ああ。お袋は香澄様のところに行くって言ってたから今は邸にいねぇだろうけどな」
「いいんじゃない。まつり様たちのところへ行ってから、春朝様たちに挨拶すれば。そこで梓様にも会えるだろうし」
「うん。もし入れ違いで会えなくても、今晩の夕食会には来るんでしょう?」
話はまとまり、あかりたちは次に西の地へ行くことにした。
西白道には青々とした緑の葉を茂らせた木々が林立している。日なたは痛いくらいの陽射しが降り注ぎ、夏特有の蒸し暑さに汗が吹き出るが、西白道に入ると木々のおかげで少しひんやりと感じられた。
四人でしゃべりながら歩いていると、ふとあかりが樹上を振り仰ぎ、足を止めた。
「どうしたの、あかりちゃん」
昴たちもあかりの視線の先を追うが、そこには他と変わらない木があるだけだった。昴と結月は不思議がっていたが、秋之介は違った。
「あの木……」
緊張にやや顔を強張らせた秋之介はあかりの顏を見上げた。あかりはじぃっと木を見つめたまま「あそこ。やくそく……」と呟く。
「……あかり、憶えてんのか……?」
「……わからない」
秋之介に答えたというよりは自問自答に近い響きだった。
何か大事なことがあった気がする。『約束』の二文字があかりの脳裏に浮かび上がる。あそこで、約束を交わしたということだろうか。けれど肝心の内容が思い出せない。
しばらくそうしていたあかりだったが、やがて諦めたように歩き出した。
「あ……! あかり、待って」
結月があかりを追いかける後ろで、昴は秋之介に「何か知ってるの、秋くん」と尋ねた。
秋之介はかつて白古家の邸が焼けた後、結月に当り散らした日のことを話した。ちょうどこの木に登っていた秋之介が頭を冷やしているときにあかりがやってきて二人で約束を交わしたということを。
「そっか。だからあかりちゃんはこの木を見上げてたんだね」
「約束したんだ。あかりはいなくならない、一緒に強くなろう、って」
「……あかりちゃんは、きっと約束を守ってくれるよ。じゃなきゃ、さっきみたいに急に立ち止まって何もない木を見上げない」
「……ああ」
約束をしたときから保証なんてどこにもないと知っていた。あるとすればあかりを信じることだけだった。
(そのときに決めただろ、俺は)
約束は必ず果たされる。絶対にあかりを信じるのだと。
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