【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二三話 昇る朝陽と舞う朱咲

第二三話 九

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 秋之介は降霊術を応用して霊を憑依させた状態で式神と戦っていた。なおもあかりに向かおうとする呪符を昴は結界で弾き飛ばす。結月はあかりの守護をしながら、秋之介の動向もうかがっていて、ときおり秋之介の援護もしていた。
 誰もが目の前のことに必死で余裕がなかった。それが盲点となった。
「我がいることを忘れてはいまいか?」
 音もなく現帝が秋之介の背後に現れる。
 真っ先に気づいたのは結月で「秋、後ろ!」と叫び霊符を放つが、式神の一体に阻まれた。
しかし、俊敏性のある秋之介にはそれだけでも十分だったようで、振り向きざま短刀を振りぬいて難を逃れた。
「式神の相手ばかりでは退屈だろう? 我が直々に遊んでやろう」
 そう言って現帝は懐から短刀を取り出し、その流れで秋之介に斬りかかった。
「危ね……っ」
「これくらいで弱音など……。全く情けないことよ」
 現帝の刀捌きは敵ながら見事なもので、秋之介は必死に食らいついた。危険な攻撃を寸でのところでかわしながら、ときおり襲ってくる式神の一体もいなす。
 結月がもう一体の式神を相手にしているのをちらりと確認して、秋之介は残りの一体がどこに行ったのか視線だけで探した。そして正体を掴んだ時、さあっと血の気が引いた。
「あかりっ!」
 昴の結界術が追いつかない隙に、式神があかりに飛びかかろうとしているところだった。
 秋之介は無我夢中であかりと式神の間に割って入り、攻撃を逸らした。
 なんとか間に合ったと秋之介が息ついた直後だった。
「⁉」
 秋之介の眼前に黒が迫る。振り上げられた短刀の切っ先が鈍く銀色に反射するのがやけに鮮やかに見えた。
(しまっ……)
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