【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二三話 昇る朝陽と舞う朱咲

第二三話 六

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 被った外套につく帽子の影になってよく見えないはずなのに、現帝の眼光だけが鋭く妖しく光るのをあかりは見た。考える間もなく、あかりは反射的に声をあげていた。
「朱咲護神、心上護神、身上神護、急々如律令!」
 現帝の命に従って彼の式神が襲いかかってくる。
 あかりは狐火をまとわせたままの霊剣で素早く宙を切り払った。牽制のために剣を振ったのだが、あかりの目論見は外れた。
 式神は自身が傷つくことなど厭わず、がむしゃらに突っ込んできたのだ。剣の切っ先が式神の身体をかすめるが、式神は痛がる素振りさえ見せない。式神はあかりの背後に着地するとあかり目がけて跳躍した。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
「除災与楽、急々如律令!」
 あかりが振り返ったのとほぼ同時に、目の前で黒と青の光が弾けた。
 式神は昴の結界に弾かれるように身を退いたが、結月の攻撃までは避けられなかったらしく地に落ちる。
 すると背後から忌々しいと言いたげな舌打ちが聞こえてきた。
「ほとんど人間であるのに妖に肩入れするお前も、妖のくせに人間の真似事をするお前も我は許せぬ。そこの半妖ともども消し去ってくれよう!」
 現帝は新たに二体の式神を喚びだした。式神は黒い靄をまとっていて正確な姿形はわからない。加えてあかりの側に倒れていた先ほどの式神も意識を取り戻し、ゆらりと起き上がった。
そして瞬きの間に彼らは三方に散る。一体はあかりを、もう一体は司を、残る一体は時人を狙って襲い掛かる。
「朱咲護神、急々如律令!」
 あかりはさすがの反射神経で対応できたが、時人や司はそうはいかない。昴が結界を張り直しながら叫ぶ。
「時人くん! 隙をつくるから御上様を連れて逃げるんだ!」
「……わかりました……っ」
 自分がこの場にいることの方が足手まといになりかねないと時人自身が痛感していた。そこに対する情けなさも惨めさも、司を守り切れるかどうかの大きな不安もある。けれども泣き言を言っている場合ではないのだ。
 命を懸けて戦った親友がいる。彼が繋いでくれた命を無駄にしないためにも今は為すべきを成すのだと時人は自身に喝を入れる。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女。玄舞護神、急々如律令!」
 ほんの一瞬ではあったが、昴が現帝や式神三体の動きを止めた。
「時人くん、今だ!」
 昴が合図するのと、時人が司のもとに駆け寄るのは同時だった。時人は司の手を引いて階段よりも近い窓に向かった。結界術を応用すればこの高さから飛び降りても怪我はしないだろう。
 すぐに身体の自由を取り戻した現帝が式神に命じて時人と司の背中を狙うが、秋之介が「させるかよ!」と間に割り込み、短刀で攻撃を弾き返した。
「時人くん、御上様のこと任せたよ! 君ならできるから!」
「はい……!」
「皆さん、どうかお気をつけて!」
 時人と司はその言葉だけを残して窓の外に身を投じた。
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