【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第二二話 重ねる約束

第二二話 六

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「あかり、風邪じゃなくて酔ってるんじゃねえの?」
「……まさか」
「運んできたのは清めの水とお神酒だったよな。ゆづは最近疲れてるんだろうし、もしかして取り違えたんじゃねえか?」
 本調子の結月ならまずしない失敗だ。しかし、秋之介の指摘通り最近は疲れ気味だったし、可能性としては十分にある。現にすぐ側にいるあかりは熱いこと以外、不調は見られない。
「……あり得る、かも」
「だろ? まあ、だったらそんなに心配しなくても大丈夫ってこった」
「そ、そうかもしれない、けど……!」
「あー、俺はお邪魔かな」
「秋……っ」
 にやにやし出す秋之介に結月は困窮の声をあげる。あかりはあかりでぴったりと結月にくっつき、機嫌良さそうに笑っている。
「あ、あかり……。一旦、落ち着こう?」
 本音を言えば嬉しいけれどこの状況は困ると、結月がやんわりとあかりを引き離そうとする。卓の向こうでは秋之介が肩を震わせ俯いていた。他人事だと思って目の前のやりとりを面白がっているのか、落ち着くのは結月の方だとでも言いたいのか。平時なら結月も秋之介を軽く睨んでいただろうが、あいにくと今はそんな余裕はない。
「あかり」
 結月がもう一度呼びかけると、あかりはゆっくりと顔を上げて結月の顔を見た。そしてぱちぱちと瞬きをしたかと思えば、あかりは悲しそうに眉尻を下げた。
「どうしても駄目? 迷惑?」
 目を潤ませるあかりに、結月はぐっと言葉を詰まらせる。あかりは結月とつないだ手に縋るように力をこめた。
「私は結月と一緒にいたいよ。ねえ、結月はどこにも行かないよね? ずっと私の隣にいてくれるよね?」
 微かに震える声から、あかりが隠していた本音を見つけた気がした。いつも明るく前向きに振る舞っているあかりだが、恐怖していることは彼女にもあるのだ。
 結月は躊躇いがちにそっとあかりに手を伸ばし、自身の胸に抱き寄せた。
「おれだって、あかりとずっと一緒にいたい。だけど、心配なのはおれじゃなくて、あかりの方」
「私?」
「あかりは、いつもおれたちの先を、一人で駆けて行くから。いくらあかりが強くても、傷つかないはず、ない。あかりがどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって、怖いのはおれの方」
 あかりはふわりと結月の広い背に腕を回した。
「私、約束をちゃんと守りたいの。お母様やお父様、昴に秋、もちろん結月とも、いくつもの約束があるから、それを破るようなことはしたくない。だから結月が怖がる必要もないんだよ」
「あかり……」
「でもね、やっぱりこうして一緒にいられるうちは側にいたいの。ねえ、いいでしょ?」
「……うん」
 結局、結月はあかりのお願いには弱いのだ。「やった」とあかりは小さく笑うと、再び結月に身を寄せた。
(この笑顔を、守りたい。あかりの隣で、ずっと)
 結月は慈愛に満ちた視線をあかりに向けた。その視線の先で、あかりは幸せそうに笑っていた。
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