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第二〇話 青の光
第二〇話 五
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「あかりちゃん、秋くん!」
「昴! 坎の結界は⁉」
秋之介の背からひらりと飛び降りて、あかりも昴に駆け寄った。人間姿に戻った秋之介もあかりの後に続く。
昴は二人を安心させるようにしっかりと頷いたが、その表情は晴れない。
「無効化してきたよ。だけどかえって引っかかるよね……」
その懸念はつい先ほどあかりと秋之介も感じたものだった。
「ゆづが警戒してた割には呆気なくなかったか?」
「うん。だからゆづくんのところに急いで戻ろうと……」
昴はそこで言葉を切った。いや、遮られた。
あかりも緊張を走らせ、思わず息をのむ。
(空気が、変わった……⁉)
あちこちにぼんやりと漂っていた殺気が急に一点に集まり鋭さを増したように感じられる。殺気が纏わりつくような不快感は薄れたが、刺すような殺気はある一点に向かっているようだった。その一点とは言わずもがな青柳家の邸のある方角であり、結月が戦っているところである。
青龍は自身に集う殺気を避け、ときには霊符を放ちながら、噴き上がるような禍々しい気を無力化しようと孤軍奮闘している。
「結月……っ」
無意識のうちに言霊になった想いが赤い光となって弾けて消える前に、あかりは結月のもとに向けて駆け出した。秋之介と昴があかりを追っていることを気配で感じ取りながら、あかりは周辺にも注意を払う。
(何かが、おかしいわ)
そこであかりははっと思い至る。
結月と合流し兌の方角にある青柳門へ向かったとき、ここは交戦の場であり、人の気配があったはずだ。しかし打って変わって、この場は不気味な沈黙に支配されていた。
そして気づいたときには、あかりの視界は敵味方関係なく倒れこんだ人々でいっぱいになっていて、足はいつしか止まり膝が震えていた。
「あ……」
雨にけぶる視界の向こうでは表情こそうかがい知れないが、知っている顔がいくつもある。
その光景はあかりに過去の惨劇を思い出させるのには十分だった。
雨、南朱湖、浮島のような人々……。
(生き、てるんだよね……? 大丈夫、なんだよね……?)
まるで時が止まってしまったかのように当時の光景の幻から抜け出せず、思考は空回りしてものの先を考えられない。
そんなあかりを我に返らせたのは、追いついた昴の「あかりちゃん!」の呼び声だった。
「すば、る……?」
あかりの緩慢な動作と向けられた茫洋とした眼差しに昴は瞬時に察したらしい。昴はあかりの冷え切った手を両手ですくうように取ると、まるで現実はここにあると知らせるかのようにぎゅっと力をこめた。
「大丈夫だよ、あかりちゃん。僕が見た限り、ここにいる人たちはみんな生きてるから。ただこの気に中てられて気を失ってるだけ。それよりもゆづくんのところに行くんでしょ?」
「そ、う……! 結月……っ」
「昴! 坎の結界は⁉」
秋之介の背からひらりと飛び降りて、あかりも昴に駆け寄った。人間姿に戻った秋之介もあかりの後に続く。
昴は二人を安心させるようにしっかりと頷いたが、その表情は晴れない。
「無効化してきたよ。だけどかえって引っかかるよね……」
その懸念はつい先ほどあかりと秋之介も感じたものだった。
「ゆづが警戒してた割には呆気なくなかったか?」
「うん。だからゆづくんのところに急いで戻ろうと……」
昴はそこで言葉を切った。いや、遮られた。
あかりも緊張を走らせ、思わず息をのむ。
(空気が、変わった……⁉)
あちこちにぼんやりと漂っていた殺気が急に一点に集まり鋭さを増したように感じられる。殺気が纏わりつくような不快感は薄れたが、刺すような殺気はある一点に向かっているようだった。その一点とは言わずもがな青柳家の邸のある方角であり、結月が戦っているところである。
青龍は自身に集う殺気を避け、ときには霊符を放ちながら、噴き上がるような禍々しい気を無力化しようと孤軍奮闘している。
「結月……っ」
無意識のうちに言霊になった想いが赤い光となって弾けて消える前に、あかりは結月のもとに向けて駆け出した。秋之介と昴があかりを追っていることを気配で感じ取りながら、あかりは周辺にも注意を払う。
(何かが、おかしいわ)
そこであかりははっと思い至る。
結月と合流し兌の方角にある青柳門へ向かったとき、ここは交戦の場であり、人の気配があったはずだ。しかし打って変わって、この場は不気味な沈黙に支配されていた。
そして気づいたときには、あかりの視界は敵味方関係なく倒れこんだ人々でいっぱいになっていて、足はいつしか止まり膝が震えていた。
「あ……」
雨にけぶる視界の向こうでは表情こそうかがい知れないが、知っている顔がいくつもある。
その光景はあかりに過去の惨劇を思い出させるのには十分だった。
雨、南朱湖、浮島のような人々……。
(生き、てるんだよね……? 大丈夫、なんだよね……?)
まるで時が止まってしまったかのように当時の光景の幻から抜け出せず、思考は空回りしてものの先を考えられない。
そんなあかりを我に返らせたのは、追いついた昴の「あかりちゃん!」の呼び声だった。
「すば、る……?」
あかりの緩慢な動作と向けられた茫洋とした眼差しに昴は瞬時に察したらしい。昴はあかりの冷え切った手を両手ですくうように取ると、まるで現実はここにあると知らせるかのようにぎゅっと力をこめた。
「大丈夫だよ、あかりちゃん。僕が見た限り、ここにいる人たちはみんな生きてるから。ただこの気に中てられて気を失ってるだけ。それよりもゆづくんのところに行くんでしょ?」
「そ、う……! 結月……っ」
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