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第二〇話 青の光
第二〇話 一
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ぽつり、と一滴の雨があかりの頬を打つ。
「雨……」
あかりの呟きに昴、秋之介、結月も空を見上げる。
「すっかり梅雨だね」
「だな。どうする、ゆづ?」
秋之介が結月を振り向く。あかりが見上げた結月の横顔は厳しいものだった。
「今日の巡回は終わってるし、邸に戻る」
白古家が襲われてから時は流れ、本格的な梅雨に入ったことで雨の日が増えた。司の水に気をつけろという卜占から、雨による東青川の氾濫を警戒している結月は青柳家の邸にいることが多くなった。特に雨が降りだすと今日のようにすぐに自邸に戻ってしまう。
仕方がないとはいえ一緒にいられる時間が減って、あかりは寂しく思っていた。それでも自身の気持ちより人命の方が遥かに優先されるべきことであるとわかっている。
寂しさを押し隠し、あかりは微笑んで結月を送り出した。
「うん、わかったよ。気をつけてね、結月」
「ありがとう」
結月もまたあかりに応えるように静かに微笑んだが、ひと月近く警戒状態にあるせいか疲れの滲んだ微笑だった。
身を翻し北玄山を去る結月の後ろ姿をあかりたちは心配して最後まで見つめていたが、やがて動き出した昴につられてあかりと秋之介はそちらに顔を向けた。
「さて、僕たちも帰ろうか。やるべきことは山のようにあるしね」
「……ああ、そうだな」
「うん……」
あかりは気もそぞろに返事をして、もう一度結月の去っていった方向を見た。雨の匂いを連れた生温い風があかりの頬を撫でる。
「あかりちゃん」
「早く帰ろうぜ。このままだと雨に濡れちまいそうだ」
「あ、うん」
秋之介の言う通り、この場に降る雨は先ほどよりほんの僅かにだが勢いを増していた。この分では夜が近づくにつれ、本降りとなりそうだ。
雨に濡れるのは嫌だとぼんやり考えながら、あかりは後ろ髪を引かれる思いで鈍い一歩を踏み出した。
「雨……」
あかりの呟きに昴、秋之介、結月も空を見上げる。
「すっかり梅雨だね」
「だな。どうする、ゆづ?」
秋之介が結月を振り向く。あかりが見上げた結月の横顔は厳しいものだった。
「今日の巡回は終わってるし、邸に戻る」
白古家が襲われてから時は流れ、本格的な梅雨に入ったことで雨の日が増えた。司の水に気をつけろという卜占から、雨による東青川の氾濫を警戒している結月は青柳家の邸にいることが多くなった。特に雨が降りだすと今日のようにすぐに自邸に戻ってしまう。
仕方がないとはいえ一緒にいられる時間が減って、あかりは寂しく思っていた。それでも自身の気持ちより人命の方が遥かに優先されるべきことであるとわかっている。
寂しさを押し隠し、あかりは微笑んで結月を送り出した。
「うん、わかったよ。気をつけてね、結月」
「ありがとう」
結月もまたあかりに応えるように静かに微笑んだが、ひと月近く警戒状態にあるせいか疲れの滲んだ微笑だった。
身を翻し北玄山を去る結月の後ろ姿をあかりたちは心配して最後まで見つめていたが、やがて動き出した昴につられてあかりと秋之介はそちらに顔を向けた。
「さて、僕たちも帰ろうか。やるべきことは山のようにあるしね」
「……ああ、そうだな」
「うん……」
あかりは気もそぞろに返事をして、もう一度結月の去っていった方向を見た。雨の匂いを連れた生温い風があかりの頬を撫でる。
「あかりちゃん」
「早く帰ろうぜ。このままだと雨に濡れちまいそうだ」
「あ、うん」
秋之介の言う通り、この場に降る雨は先ほどよりほんの僅かにだが勢いを増していた。この分では夜が近づくにつれ、本降りとなりそうだ。
雨に濡れるのは嫌だとぼんやり考えながら、あかりは後ろ髪を引かれる思いで鈍い一歩を踏み出した。
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