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第一九話 水無月の狂乱
第一九話 四
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「このあたりから火が弱まってないね」
ごうごうと音を立て、視界を真っ赤に染め上げながら炎が一帯を蹂躙している。ここまで秋之介たちの姿を見つけられず、目の前には攻めたてるように激しい火があがっていることから、おそらく彼らはこの奥にいると思われた。
結月が霊符を使役し雨を降らせ、昴は火を除けるための結界を張り直した。あかりも「朱咲護神、急々如律令」と唱え、火を司る朱咲に加護を祈る。
そうしてあかりたちは燃え上がる火の中を潜っていった。
廊下をさらに進んだ先で、炎の音に紛れるように金属のぶつかり合う音が微かに耳に届いた。音と気配を頼りにあかりたちは最奥の部屋に足を踏み入れた。
「秋っ‼ おじ様、おば様!」
そこでは大勢の陰の国の術使いを相手に秋之介が両親を背に庇うようにして戦っていた。秋之介の後ろでは血の水たまりに倒れた菊助と彼に縋る梓がいる。
昴は瞬時に秋之介たちに向かって結界を張って菊助と梓に駆け寄り、あかりと結月は秋之介に加勢した。
「秋、大丈夫⁉」
顕現させた霊剣を一閃しながらあかりは秋之介をちらりと見た。
秋之介はところどころに火傷と刀傷を負っていて、あたりの熱気かそれとも立ち上る煙かに苦しげな呼吸を繰り返している。加えて彼の上下とも白かった袴姿は端々が黒く焼け焦げていた。見上げた秋之介の横顔に余裕の色は一切なく、白の瞳が異様にぎらついているのが印象的だった。
秋之介はあかりの呼びかけに応えることなく、短刀を手に、敵に飛びかかった。
あかりと結月は秋之介の援護をしながら、顔を見合わせた。
「これって、憑依させて戦ってるんだよね⁉」
「そうみたい。だけど、今までとは様子が、違う……!」
結月にしては珍しく声に焦りが滲んでいる。あかりは敵を斬り伏せながら、結月の言について考えた。
(秋が誰かの魂を憑依させて戦うことは珍しいとはいえ過去になかったわけじゃない。でも、私の呼びかけに反応しなかったことなんて一度もなかったのに……!)
たいていの戦いは白虎姿か秋之介自身が人間姿で戦っていた。それでも力及ばないときに限っては、秋之介は自身に戦いに強い他人の魂を憑依させて戦うことが今までに何度かあった。だから憑依させての戦闘については別段問題があるようには思えない。
ただ、気になるのは秋之介が名前を呼ばれてもそれに反応しないことだった。
ごうごうと音を立て、視界を真っ赤に染め上げながら炎が一帯を蹂躙している。ここまで秋之介たちの姿を見つけられず、目の前には攻めたてるように激しい火があがっていることから、おそらく彼らはこの奥にいると思われた。
結月が霊符を使役し雨を降らせ、昴は火を除けるための結界を張り直した。あかりも「朱咲護神、急々如律令」と唱え、火を司る朱咲に加護を祈る。
そうしてあかりたちは燃え上がる火の中を潜っていった。
廊下をさらに進んだ先で、炎の音に紛れるように金属のぶつかり合う音が微かに耳に届いた。音と気配を頼りにあかりたちは最奥の部屋に足を踏み入れた。
「秋っ‼ おじ様、おば様!」
そこでは大勢の陰の国の術使いを相手に秋之介が両親を背に庇うようにして戦っていた。秋之介の後ろでは血の水たまりに倒れた菊助と彼に縋る梓がいる。
昴は瞬時に秋之介たちに向かって結界を張って菊助と梓に駆け寄り、あかりと結月は秋之介に加勢した。
「秋、大丈夫⁉」
顕現させた霊剣を一閃しながらあかりは秋之介をちらりと見た。
秋之介はところどころに火傷と刀傷を負っていて、あたりの熱気かそれとも立ち上る煙かに苦しげな呼吸を繰り返している。加えて彼の上下とも白かった袴姿は端々が黒く焼け焦げていた。見上げた秋之介の横顔に余裕の色は一切なく、白の瞳が異様にぎらついているのが印象的だった。
秋之介はあかりの呼びかけに応えることなく、短刀を手に、敵に飛びかかった。
あかりと結月は秋之介の援護をしながら、顔を見合わせた。
「これって、憑依させて戦ってるんだよね⁉」
「そうみたい。だけど、今までとは様子が、違う……!」
結月にしては珍しく声に焦りが滲んでいる。あかりは敵を斬り伏せながら、結月の言について考えた。
(秋が誰かの魂を憑依させて戦うことは珍しいとはいえ過去になかったわけじゃない。でも、私の呼びかけに反応しなかったことなんて一度もなかったのに……!)
たいていの戦いは白虎姿か秋之介自身が人間姿で戦っていた。それでも力及ばないときに限っては、秋之介は自身に戦いに強い他人の魂を憑依させて戦うことが今までに何度かあった。だから憑依させての戦闘については別段問題があるようには思えない。
ただ、気になるのは秋之介が名前を呼ばれてもそれに反応しないことだった。
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