【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
上 下
248 / 388
第一七話 諦めない未来

第一七話 一一

しおりを挟む
 あかりが霊剣を構え直すと同時に、妖狐はまたも飛びかかってくる。
(まただ)
妖狐の動きを注意深く観察しながら戦っていたあかりはあることに気がついた。彼の命令に忠実に従う動きは、よくよく考えれば単調であることに。
(賭けにはなるけど……、決め手にはなるかもしれない!)
 あかりの予想が当たっているのなら、妖狐の次の動きもある程度は読める。
 あかりは妖狐が再度飛びかかってくるのを慎重に待ち構えた。あかりの表情に察するところがあったのだろう昴が、あかりのもとに飛び出そうとする秋之介を制止する声が遠くに聞こえた。
 そして妖狐はあかりの狙い通り懐に飛び込んできた。
(来たっ!)
「朱咲護神、除災与楽、急々如律令!」
 あかりを中心として目を焼くような赤の閃光が場を満たすと、妖狐は目を瞑った。その隙をついて、あかりは邪気払いになる禹歩を踏んだ。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女。急々如律令!」
 霊剣で四縦五横に九字を切ると、先ほどよりもさらに眩い光が辺りを赤に染め上げる。
「お父様、聞いて! 私、お父様を救うって決めたんだよ。すごく迷ったし、今でも辛い。だけど、それでお父様が苦しみや痛みから解放されるなら、娘の私が止める!」
 赤の光の奔流の中で、妖狐が痛みを堪えるようにうずくまっているのをあかりは見た。
(言霊が届いてる……⁉)
そのまま想いが届くようにと、あかりは語りかけ続ける。あかりと天翔の周囲を赤くあたたかな光が覆い続ける。気づけば辺りには誰の姿もなく、世界から切り取られたかのようにあかりと天翔の二人きりだった。
「私ね、お父様の優しい灯りを灯したみたいな目も柔らかな声も握ってくれた手の温かさも穏やかな笑顔も、大好きだった。……だいすき、だったんだよ」
 最後の方は声が震え、小さくなってしまった。しかし妖狐は聞き逃すまいというように耳をぴくりと揺らすと、ゆっくりと顔を上げた。
「あ、かり……?」
「う、そ……。お父様、なの?」
 正面からぶつかった赤の瞳は正気を取り戻していて、辺りを柔らかに照らす灯火のようだった。それはあかりの大好きな瞳そのものだった。
「あかりのおかげで、少しだけだけれど戻れたようだね」
「……うん」
 これがきっと生きて交わす最後の言葉になるだろうと予感したから、引きとめるような言葉は出てこなかった。代わりに父の想いを取りこぼさないようにと、じっと耳を傾ける。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

殺意の九割は希死念慮!!!!!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

気付いたら、ゲーム世界の顔グラも無いモブだった

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:26

ようこそドルバリス島へ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

人間の定義 ~人は何をもってその人となりうるのか~

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...