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第一七話 諦めない未来
第一七話 四
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「はいはい、二人とも。僕たちがいることも忘れないでね」
「つーか、いつの間に? 俺、知らなかったんだけど」
(そうだった! 昴と秋もいたんだった!)
余裕をなくしてすっかり意識の外だった。先ほどの言動を見られていたと思うといたたまれなかったが、弁解しようにもうまく言葉が出てこなかった。
対して結月は少し冷静さを取り戻したようで、秋之介に淡々とした口調で応じる。
「うん、言ってないから」
「いや、すっげー大事なことじゃん! 言えよ!」
「あかりと約束したから、あんまり話を大きくしたくなかった。あと、秋も昴も、この手の話は面倒そうだし……」
「後半聞こえてんぞ!」
「ふーん、約束ねぇ」
昴がにやりとした笑みを浮かべるが、結月は静かに見返すだけだった。
「言っておくけど、教える気は、ない。おれとあかりの、二人だけの秘密。ね、あかり」
普段の賑やかさと結月に向けられたいたずらっぽい瞳にあかりも徐々に調子を取り戻してきた。あかりは結月に向けて弾むような頷きを返した。
「そうそう、二人だけの秘密なんだから。秋にも昴にも教えられないなぁ」
「なんだよ、教えろよー」
「教えられないって言われると余計に気になるよね」
「駄目」
「うん、駄目だよ」
先ほどの沈黙が嘘のように、楽しげな笑い声が響く。あかりは結月と顔を見合わせた。あかりが明るく笑いかけると、結月もいたずらが成功した子どものように珍しく無邪気な笑みを返してくれた。
あかりと結月の関係が変化することで、秋之介や昴との関係も変わってしまうのではないかとあかりは心のどこかで危惧していた。だから、こうして変わらず四人で笑い合えることに少なからずほっとしていた。
そんなあかりの傍らでは結月が秋之介と昴に詰め寄られている。
「ゆづはわかってたけど、まさかあかりがなぁ」
「そんなに意外でもないと思うけどね。僕は時間の問題だと思ってたよ」
「……やっぱり、面倒だった」
ぼやく結月を助けようとあかりが「どうしたの?」と訊くも、結月は「ううん、なんでもない」と首を振った。
「それよりも、あかりはごはん食べないの?」
「あ、食べる食べる!」
つい話し込んでしまったが、あかりはまだ箸に手をつけてもいなかった。煮物は味見を繰り返したが、香澄の作ったお弁当は食べられていない。なくならないうちに食べたいものから小皿に取り分けていくあかりを見て、結月たちはやはり笑った。
「やっぱりあかりは花より団子か」
「あかりちゃんらしくていいじゃない」
「うん。おれも、そう思う」
こうして和やかなお花見の時間は過ぎていった。
昨年の願いが今年叶ったように、今年の願いが来年叶うようにとあかりは言霊に想いを託した。
「来年もまた、みんなでお花見ができますように」
聞き届けたと言わんばかりにぱっと赤の光が散る。
桜の下で結月たちと笑い合う、そんな未来が欲しいから。
あかりは今日の思い出と強い決意を胸に刻みこんだ。
「つーか、いつの間に? 俺、知らなかったんだけど」
(そうだった! 昴と秋もいたんだった!)
余裕をなくしてすっかり意識の外だった。先ほどの言動を見られていたと思うといたたまれなかったが、弁解しようにもうまく言葉が出てこなかった。
対して結月は少し冷静さを取り戻したようで、秋之介に淡々とした口調で応じる。
「うん、言ってないから」
「いや、すっげー大事なことじゃん! 言えよ!」
「あかりと約束したから、あんまり話を大きくしたくなかった。あと、秋も昴も、この手の話は面倒そうだし……」
「後半聞こえてんぞ!」
「ふーん、約束ねぇ」
昴がにやりとした笑みを浮かべるが、結月は静かに見返すだけだった。
「言っておくけど、教える気は、ない。おれとあかりの、二人だけの秘密。ね、あかり」
普段の賑やかさと結月に向けられたいたずらっぽい瞳にあかりも徐々に調子を取り戻してきた。あかりは結月に向けて弾むような頷きを返した。
「そうそう、二人だけの秘密なんだから。秋にも昴にも教えられないなぁ」
「なんだよ、教えろよー」
「教えられないって言われると余計に気になるよね」
「駄目」
「うん、駄目だよ」
先ほどの沈黙が嘘のように、楽しげな笑い声が響く。あかりは結月と顔を見合わせた。あかりが明るく笑いかけると、結月もいたずらが成功した子どものように珍しく無邪気な笑みを返してくれた。
あかりと結月の関係が変化することで、秋之介や昴との関係も変わってしまうのではないかとあかりは心のどこかで危惧していた。だから、こうして変わらず四人で笑い合えることに少なからずほっとしていた。
そんなあかりの傍らでは結月が秋之介と昴に詰め寄られている。
「ゆづはわかってたけど、まさかあかりがなぁ」
「そんなに意外でもないと思うけどね。僕は時間の問題だと思ってたよ」
「……やっぱり、面倒だった」
ぼやく結月を助けようとあかりが「どうしたの?」と訊くも、結月は「ううん、なんでもない」と首を振った。
「それよりも、あかりはごはん食べないの?」
「あ、食べる食べる!」
つい話し込んでしまったが、あかりはまだ箸に手をつけてもいなかった。煮物は味見を繰り返したが、香澄の作ったお弁当は食べられていない。なくならないうちに食べたいものから小皿に取り分けていくあかりを見て、結月たちはやはり笑った。
「やっぱりあかりは花より団子か」
「あかりちゃんらしくていいじゃない」
「うん。おれも、そう思う」
こうして和やかなお花見の時間は過ぎていった。
昨年の願いが今年叶ったように、今年の願いが来年叶うようにとあかりは言霊に想いを託した。
「来年もまた、みんなでお花見ができますように」
聞き届けたと言わんばかりにぱっと赤の光が散る。
桜の下で結月たちと笑い合う、そんな未来が欲しいから。
あかりは今日の思い出と強い決意を胸に刻みこんだ。
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