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第一六話 救いのかたち
第一六話 三
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その直前。
「触るな」
鋭く冷たい一声に伸びかけていた男の手がぴたりと止まる。普段の穏やかな声色ではなかったが、その声にはよく耳馴染みがあり、今一番聞きたい人の声でもあった。
「結月……!」
結月の名を耳にするなり、三人の男はぎくりと肩を跳ね上げた。自分たちの住まう地の現当主の登場に、男たちは顔を引きつらせる。
結月はあかりを自身の背後に回すと、三人の男たちに向かい合った。
「しつこいし、近い。あかり、怖がってた」
結月が睨み据えると、男たちは黙り込んでしまった。先ほどまでの饒舌さはどこへやら、結月のまとう冷え冷えとした空気に三人とも凍えたように身を縮こまらせている。
「あかりを困らせるの、やめて。……わかったら行って」
男たちは冷や汗を流して、そそくさとその場を立ち去った。
彼らの背が雑踏に紛れたのを見届けてから、結月はあかりに向き直った。そのときにはもう先ほどまでまとっていた冷たい雰囲気はなく、あかりのよく知る穏やかで優しい結月に戻っていた。
「なかなか来ないから、心配した。怖かったよね。大丈夫?」
確かに恐怖したが何もされていない。あかりが頷きを返すと、結月は安堵の息を吐いた。
「そう、間に合って良かった……。あ、重いだろうし、おれが水瓶持つ」
水瓶を抱えたままだった腕は疲れ始めていたので、あかりは有難く結月の厚意に甘えることにした。
「ありがとう。結月が来てくれて良かった……」
結月の顔を見て安心し、緊張から解放されたあかりから本音がこぼれる。結月は緩く首を振った。
「ううん。あかりを守れたなら、いい。……行こう。父様と母様も、あかりに会いたがってた。ここまで来たんだし、お茶でも飲んで行って」
「触るな」
鋭く冷たい一声に伸びかけていた男の手がぴたりと止まる。普段の穏やかな声色ではなかったが、その声にはよく耳馴染みがあり、今一番聞きたい人の声でもあった。
「結月……!」
結月の名を耳にするなり、三人の男はぎくりと肩を跳ね上げた。自分たちの住まう地の現当主の登場に、男たちは顔を引きつらせる。
結月はあかりを自身の背後に回すと、三人の男たちに向かい合った。
「しつこいし、近い。あかり、怖がってた」
結月が睨み据えると、男たちは黙り込んでしまった。先ほどまでの饒舌さはどこへやら、結月のまとう冷え冷えとした空気に三人とも凍えたように身を縮こまらせている。
「あかりを困らせるの、やめて。……わかったら行って」
男たちは冷や汗を流して、そそくさとその場を立ち去った。
彼らの背が雑踏に紛れたのを見届けてから、結月はあかりに向き直った。そのときにはもう先ほどまでまとっていた冷たい雰囲気はなく、あかりのよく知る穏やかで優しい結月に戻っていた。
「なかなか来ないから、心配した。怖かったよね。大丈夫?」
確かに恐怖したが何もされていない。あかりが頷きを返すと、結月は安堵の息を吐いた。
「そう、間に合って良かった……。あ、重いだろうし、おれが水瓶持つ」
水瓶を抱えたままだった腕は疲れ始めていたので、あかりは有難く結月の厚意に甘えることにした。
「ありがとう。結月が来てくれて良かった……」
結月の顔を見て安心し、緊張から解放されたあかりから本音がこぼれる。結月は緩く首を振った。
「ううん。あかりを守れたなら、いい。……行こう。父様と母様も、あかりに会いたがってた。ここまで来たんだし、お茶でも飲んで行って」
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