【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一五話 希望の声

第一五話 一五

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 注がれる生温かい視線にいよいよ耐えられなくなったあかりは、場をごまかすようにぱんと手を叩いて声を張った。
「あ、秋と昴は⁉ 二人は大丈夫⁉」
 秋之介と昴も大概ぼろぼろだったが、ぱっと見た限りでは結月のような目立った外傷はない。だからといって油断はできない。見えないところに傷を負っているかもしれないし、呪詛も疑わなければならないからだ。
「俺? まあ、ところどころ痛みはするけど、んな心配するほどじゃねえよ」
「僕も大丈夫だよ。怪我よりも妖力が尽きかけてることで疲れてるだけ」
「そ、そっか……」
「僕たちよりもあかりちゃんは何ともないの?」
「あ、うん。私は大丈夫だよ」
 あかりは自身がつくりだした浄化の炎をまとっていたおかげで傷ひとつつかなかった。声に関しても、五か月間発声が困難だったことがまるで嘘のように違和感はない。
 あかりがあっさり頷くと、昴はようやく「良かった」と呟いた。その昴のたった一言が、あかりにはとても重いものに感じられた。
 あかりが声を失ったことに責任感の強い彼はきっと己を責め続けたことだろう。なかなか治療の効果が得られないことに焦りを感じていたかもしれない。しかし、昴はあかりを戦いから遠ざけたいと思いながらも、最後にはあかりの意志を尊重してくれた。
 そういった複雑な思いが「良かった」の一言に集約されているのだと思った。
 思い返せばこの五か月の間にも様々なことがあった。
 戦いに倒れてようやく目覚めたと思ったら声を失っていた。なかなか声が戻らないことで不安に苛まれた。皆を守る力がないことにひどく落胆した。
 おそらくひとりだったらとうに挫けて、諦めていたかもしれない。
 けれど幸運なことに、あかりには支えてくれる人がたくさんいた。結月に秋之介、昴の幼なじみ三人は側で助けてくれた。司はあかりのことを気にかけてくれていたし、民はあかりが町で働くために惜しまず協力してくれた。
 それに辛いことばかりではなかった。こうなったからこそ民の笑顔の尊さを実感することができた。それはあかりの『民の笑顔を守りたい』という思いを一層強めた。
父と何度も繰り返した『何があっても最後まで諦めない』という教えの言葉も、『諦めない限りは希望を信じていい』という結月の言葉も本当だった。
そしてそれが成せたのは側に大事な人たちがいたから。だから頑張ろうと思えたのだ。
「ありがとう」
 支えてくれた数えきれないほどの人々にきっと届くように、あかりは万感の思いを言霊にのせた。
 その言葉は、声は、皆に希望をもたらすことだろう。
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