【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一五話 希望の声

第一五話 一一

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(力が、欲しい。大切なものを守るだけの力が……!)
 そこではっと思い至った。新年の折、朱咲から力を授けてもらったではないか。朱咲はあとはあかり次第だと言っていた。
(朱咲様からの力……これをうまく使うには……)
 解決の糸口を見つけたことでだんだんと冷静さを取り戻していく。そうして思い出したのは今朝見た夢だった。
(力が強いだけじゃ駄目。それに応じた想いが必要。……想い……)
 あかりが考えだそうとした瞬間、秋之介が派手な音を立てて横に飛ばされた。ほぼ同時に昴が膝をつく。その肩は激しく上下していた。結月もいよいよ霊符の発動が追いつかず、左腕には狗の式神が嚙みついていた。動きを制限された彼らに、とどめとばかりに三体の飛燕が舞う。狙うは心臓、ただ一点。
(もう失うことなんてしたくないんでしょう⁉)
 思いに呼応するように身体がじわりと熱くなっていく。
(私は、大切なものを必ず守るって決めたんだから……っ‼)
瞬間、熱は炎に変わり、あかりを覆った。敵味方、皆の視線が一気に集まり、式神は膨張するあかりの気配に怯えを見せた。
「あかり……⁉」
「あかり⁉」
「あかりちゃん!」
幼なじみたちの声が遠くに聞こえる。
まるで火を飲んだかのようにあかりの喉は燃えるように痛んだ。あまりの激痛に意識が朦朧としかけ、目尻には生理的な涙が浮かぶ。
(痛みが、何よ……っ。いっそ呪詛ごと燃やし尽くしてやるわ!)
 あかりを中心に炎が勢いよく輪になって広がる。不思議なことにあかりの発した炎が触れると、それまでの火事の炎は消えてしまった。
「……熱く、ない」
 あかりの炎がかすめたらしい結月が呟いた。むしろ温かくて心地よいとすら感じる。
 辺り一帯があかりのつくりだした火で舐めつくされると、陰の国の式神使いから悲鳴があがり、式神は札に戻って魂が還っていった。式神使いは熱い熱いとしきりに叫んでいるが、結月をはじめ、秋之介も昴も全く熱くは感じなかった。
「一体どういう……」
 秋之介の疑問は、しかし懐かしい声によって遮られる。近くに寄り集まった結月と昴も目を大きく見開いていた。
「奇一奇一たちまち雲霞を結ぶ、宇内八方御方長南、たちまち急戦を貫き、南都に達し、朱咲に感ず」
 凛とした少女の声が朗々と木立の中にこだまする。こめた強い想いを朱咲から与えられた力にのせると、一瞬にしてあたりの空気が浄化されていった。
「奇一奇一たちまち感通、急々如律令!」
 激しくも温かな炎をまとい、天に霊剣を掲げる様は神聖で。そんな彼女はさながら戦女神のようだった。
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