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第一四話 交わす約束
第一四話 一六
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一方の結月も戸惑っていた。いままでのあかりなら結月の想いになど微塵も意に介さずのほほんと笑っていただろう。それが今日は全く違う反応を見せたものだから、彼の方も僅かに動揺していたのだ。もっとも顔にはほとんど出なかったが。
なんともいえない空気がこの場を支配する。まるで周囲から切り離されたかのようにこの部屋だけに妙な沈黙が降りていた。
先に沈黙を破ったのは結月だった。
「ねえ、あかり」
その声は予想よりも落ち着いていて、あかりもつられるように少しだけ冷静さを取り戻した。何を告げられるのかわからなくて思わず逃げ出したくなるが、結月の真剣な瞳に縫い留められたあかりは実際身動ぎひとつできなかった。
「おれは、あかりにずっと前から伝えたいことがある。だけど、それは今じゃ駄目で、願わくばあかりが憂いなく笑える世界で、伝えたいって思ってる。だから」
「……」
「だから、おれが今欲しいのはあかりの心じゃなくて、約束。おれの願う通りの未来まで、おれの言葉を待ってて欲しい」
そうして結月は静かに左手の小指を差し出した。
幼いころから変わらない、あかりと結月の約束はいつだってこうして交わされてきた。そして、それは今回も同じことだった。決して安請け合いをしたのではない。結月の固い決意は本物で、あかりは心からそれに応えたいと思ったから指きりに応じることを選んだのだ。
互いの小指を絡め、声の出ないあかりに代わって結月が謡う。
「指切りげんまん、噓ついたら針千本飲ます。指切った」
終ぞ決定的な言葉は出てこなかったものの、あかりも結月もこの時は確かに自身の心が満たされているのを感じていた。
仲良しで大切なかけがえのない幼なじみは、互いにただ一人の特別な幼なじみになった。約束のその時までおそらくこの関係が続くのだろうが、二人ともそれで良いと思った。ただの幼なじみよりは距離が近く、恋人というには少し違う関係性。それもまた自分達らしいと思うから。
秋之介と昴がやってくるまで、互いが互いを想い合っていると知りながら、あかりと結月は『特別な幼なじみ』として笑い合っていた。
なんともいえない空気がこの場を支配する。まるで周囲から切り離されたかのようにこの部屋だけに妙な沈黙が降りていた。
先に沈黙を破ったのは結月だった。
「ねえ、あかり」
その声は予想よりも落ち着いていて、あかりもつられるように少しだけ冷静さを取り戻した。何を告げられるのかわからなくて思わず逃げ出したくなるが、結月の真剣な瞳に縫い留められたあかりは実際身動ぎひとつできなかった。
「おれは、あかりにずっと前から伝えたいことがある。だけど、それは今じゃ駄目で、願わくばあかりが憂いなく笑える世界で、伝えたいって思ってる。だから」
「……」
「だから、おれが今欲しいのはあかりの心じゃなくて、約束。おれの願う通りの未来まで、おれの言葉を待ってて欲しい」
そうして結月は静かに左手の小指を差し出した。
幼いころから変わらない、あかりと結月の約束はいつだってこうして交わされてきた。そして、それは今回も同じことだった。決して安請け合いをしたのではない。結月の固い決意は本物で、あかりは心からそれに応えたいと思ったから指きりに応じることを選んだのだ。
互いの小指を絡め、声の出ないあかりに代わって結月が謡う。
「指切りげんまん、噓ついたら針千本飲ます。指切った」
終ぞ決定的な言葉は出てこなかったものの、あかりも結月もこの時は確かに自身の心が満たされているのを感じていた。
仲良しで大切なかけがえのない幼なじみは、互いにただ一人の特別な幼なじみになった。約束のその時までおそらくこの関係が続くのだろうが、二人ともそれで良いと思った。ただの幼なじみよりは距離が近く、恋人というには少し違う関係性。それもまた自分達らしいと思うから。
秋之介と昴がやってくるまで、互いが互いを想い合っていると知りながら、あかりと結月は『特別な幼なじみ』として笑い合っていた。
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