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第一四話 交わす約束
第一四話 一一
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張り詰めていた糸が切れるように、話し終えてしばらくも経たないうちにあかりは意識半分夢の世界にいた。
結月の左肩に重みがかかる。結月が見下ろすと安心しきった穏やかな寝顔がすぐそこにあった。
気を許してくれることは嬉しいのだが、男としてはまるで意識されていないことには複雑な思いでいた。
結月はあかりを引き寄せると、まとっていた羽織を一度脱ぎ、再度あかりにもかかるように羽織り直した。これで少しは寒さがしのげるだろう。
結月は隣に座るあかりの寝顔をちらりと盗み見た。
確かに穏やかではあるものの、そこには隠しようのない疲れも滲んでいるように思えた。さきほどあかりの内心を知ってしまったせいか、余計に痛々しく見える。
普段の笑顔の裏であんなにも葛藤していたなんて思いもしなかった。あかりはいつだって最後まで諦めることはしない。それは幼い頃あかりの父と交わした約束だったからだ。だから希望を捨てない限りは大丈夫だとどこか楽観視していたのだ。
(朱咲様に呼ばれたときは何事かと思ったけど……、来てみて良かった)
それまで結月は彼にとよくあてがわれる客間にひとりでいた。そこに鈴音と聞き間違えるくらいに澄んでいる少女の声で呼びかけられたのだ。
今までだったら、何を訊いてもあかりは『大丈夫』と取り繕った笑みで答えたかもしれない。その点、彼女は成長している。怖いことを素直に怖いと言えるようになった。それは弱さではなく強さだと結月は思う。それにいつまでも付き合える自分でありたいと強く願った。
あかりの隣を独占していたい思いはあったが、いつまでもこのままというわけにはいかない。結月はあかりの肩を軽くつつきながら、そっと声をかけた。
「あかり、起きて」
やはり相当疲れていたのか、起きる気配はまるでない。そのうち起こすのも忍びなくなってきたので、結局結月はあかりを布団まで運ぶことにした。
部屋を出る直前、最後にもうひと目だけあかりの顏を見る。あどけない寝顔に愛しさを募らせて、結月はあかりの部屋を出た。
結月の左肩に重みがかかる。結月が見下ろすと安心しきった穏やかな寝顔がすぐそこにあった。
気を許してくれることは嬉しいのだが、男としてはまるで意識されていないことには複雑な思いでいた。
結月はあかりを引き寄せると、まとっていた羽織を一度脱ぎ、再度あかりにもかかるように羽織り直した。これで少しは寒さがしのげるだろう。
結月は隣に座るあかりの寝顔をちらりと盗み見た。
確かに穏やかではあるものの、そこには隠しようのない疲れも滲んでいるように思えた。さきほどあかりの内心を知ってしまったせいか、余計に痛々しく見える。
普段の笑顔の裏であんなにも葛藤していたなんて思いもしなかった。あかりはいつだって最後まで諦めることはしない。それは幼い頃あかりの父と交わした約束だったからだ。だから希望を捨てない限りは大丈夫だとどこか楽観視していたのだ。
(朱咲様に呼ばれたときは何事かと思ったけど……、来てみて良かった)
それまで結月は彼にとよくあてがわれる客間にひとりでいた。そこに鈴音と聞き間違えるくらいに澄んでいる少女の声で呼びかけられたのだ。
今までだったら、何を訊いてもあかりは『大丈夫』と取り繕った笑みで答えたかもしれない。その点、彼女は成長している。怖いことを素直に怖いと言えるようになった。それは弱さではなく強さだと結月は思う。それにいつまでも付き合える自分でありたいと強く願った。
あかりの隣を独占していたい思いはあったが、いつまでもこのままというわけにはいかない。結月はあかりの肩を軽くつつきながら、そっと声をかけた。
「あかり、起きて」
やはり相当疲れていたのか、起きる気配はまるでない。そのうち起こすのも忍びなくなってきたので、結局結月はあかりを布団まで運ぶことにした。
部屋を出る直前、最後にもうひと目だけあかりの顏を見る。あどけない寝顔に愛しさを募らせて、結月はあかりの部屋を出た。
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