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第一三話 守りたいもの
第一三話 八
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「せっかくお会いできたのです。もう少しだけ貴女の時間をいただいてもよろしいですか?」
今、昴たちは任務中なので玄舞の邸に戻ったところですぐには確かめられないことに思い至ったあかりは、戸惑いながらも頷いた。
(わざわざ引き留めるなんて、何かあるのかな……?)
緊張が顔に出ていたのだろう。司はあかりの顔を見てくすくすと笑った。
「堅苦しい話なんてしませんよ。言ったでしょう、お忍びだと」
あかりがぎこちなくも頷くと、司は嬉しそうに目を細めた。
「昴さんとはよく話をしますが、貴女や結月さん、秋之介さんとはあまり話す機会がないので寂しく思っていました。昴さんから聞く貴女たちは楽しそうで、羨ましく思っていたのですよ」
『昴が?』
「はい。最近だと夏祭りのことやあかりさんのお誕生日祝いのことなどを聞きました」
司の瞳は好奇心に輝いていて、このときばかりは年相応の少年のようだとあかりは思った。その期待に応えたくて、あかりはそれらの日にあったことを丁寧に話して聞かせた。
夏祭りは結月と巡回していたが、途中小春という迷子の少女ともお祭りを楽しんだこと。誕生日にはあかりの行きたいところややりたいことに幼なじみたちが付き合ってくれたこと。
そこであかりはふと思い出した。
『そういえば、御上様は金平糖を知っていますか?』
あかりの誕生日に駄菓子屋に寄ったときのことだ。赤、青、白、黒の金平糖に加え、黄の金平糖を見たときに、司は金平糖を知っているのだろうかと考えたことが思い出されたのだ。
司は「砂糖菓子ですよね」と頷いた。
『私、金平糖が好きなんです。食べると元気になれる気がして』
特に任務終わりに結月がくれる金平糖は格段に美味しく感じる。そんなことをあかりが頭の片隅で考えている間、司は思案気な顔をしていた。あかりがそれに気づいて首を傾げると、司は意外にも真剣な面持ちで呟いた。
「もしも余が今金平糖を持っていたら、貴女を笑顔にすることができたでしょうか」
目を見開くあかりを司はじっと見つめる。
「あかりさんは先ほどから明るく振る舞ってくださっていますが……それでも笑ってはくださいませんでした」
「……」
「現状を考えれば当然かもしれませんね。それでも余は貴女の笑顔が見てみたいのです」
どうしてと目線で訴えれば司にも伝わったようだった。
「昴さんが言ったのです。貴女の笑顔はまるで希望の光そのものだと。だから余も見てみたいと思いました。気鬱な毎日に少しでも安らぎが欲しかった……」
卜占の結果が芳しくないのだろう。残酷な現実は御上である司をも苛んでいた。
否定できずにあかりが困り顔で佇んでいると、司は「困らせてしまいましたね。ごめんなさい」と苦笑を浮かべた。あかりは恐縮しながらふるふると首を振った。
『私の方こそごめんなさい。今は笑う気になれなくて……』
書きつけた文字はどこか弱々しく見えるような気がして我ながら情けなく思った。一方で司はじっと紙面上を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
今、昴たちは任務中なので玄舞の邸に戻ったところですぐには確かめられないことに思い至ったあかりは、戸惑いながらも頷いた。
(わざわざ引き留めるなんて、何かあるのかな……?)
緊張が顔に出ていたのだろう。司はあかりの顔を見てくすくすと笑った。
「堅苦しい話なんてしませんよ。言ったでしょう、お忍びだと」
あかりがぎこちなくも頷くと、司は嬉しそうに目を細めた。
「昴さんとはよく話をしますが、貴女や結月さん、秋之介さんとはあまり話す機会がないので寂しく思っていました。昴さんから聞く貴女たちは楽しそうで、羨ましく思っていたのですよ」
『昴が?』
「はい。最近だと夏祭りのことやあかりさんのお誕生日祝いのことなどを聞きました」
司の瞳は好奇心に輝いていて、このときばかりは年相応の少年のようだとあかりは思った。その期待に応えたくて、あかりはそれらの日にあったことを丁寧に話して聞かせた。
夏祭りは結月と巡回していたが、途中小春という迷子の少女ともお祭りを楽しんだこと。誕生日にはあかりの行きたいところややりたいことに幼なじみたちが付き合ってくれたこと。
そこであかりはふと思い出した。
『そういえば、御上様は金平糖を知っていますか?』
あかりの誕生日に駄菓子屋に寄ったときのことだ。赤、青、白、黒の金平糖に加え、黄の金平糖を見たときに、司は金平糖を知っているのだろうかと考えたことが思い出されたのだ。
司は「砂糖菓子ですよね」と頷いた。
『私、金平糖が好きなんです。食べると元気になれる気がして』
特に任務終わりに結月がくれる金平糖は格段に美味しく感じる。そんなことをあかりが頭の片隅で考えている間、司は思案気な顔をしていた。あかりがそれに気づいて首を傾げると、司は意外にも真剣な面持ちで呟いた。
「もしも余が今金平糖を持っていたら、貴女を笑顔にすることができたでしょうか」
目を見開くあかりを司はじっと見つめる。
「あかりさんは先ほどから明るく振る舞ってくださっていますが……それでも笑ってはくださいませんでした」
「……」
「現状を考えれば当然かもしれませんね。それでも余は貴女の笑顔が見てみたいのです」
どうしてと目線で訴えれば司にも伝わったようだった。
「昴さんが言ったのです。貴女の笑顔はまるで希望の光そのものだと。だから余も見てみたいと思いました。気鬱な毎日に少しでも安らぎが欲しかった……」
卜占の結果が芳しくないのだろう。残酷な現実は御上である司をも苛んでいた。
否定できずにあかりが困り顔で佇んでいると、司は「困らせてしまいましたね。ごめんなさい」と苦笑を浮かべた。あかりは恐縮しながらふるふると首を振った。
『私の方こそごめんなさい。今は笑う気になれなくて……』
書きつけた文字はどこか弱々しく見えるような気がして我ながら情けなく思った。一方で司はじっと紙面上を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
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