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第一三話 守りたいもの
第一三話 四
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朝食後、昴は政務のため自室に戻っていった。任務開始時間にはまだ少し余裕があるため、結月と秋之介は各々の邸に戻ることなく、何をして待っていようかと話し合っていた。
(訊くなら今……!)
あかりは二人に駆け寄ると、右手で結月を、左手で秋之介を捕まえた。
秋之介は驚きに目を丸くしていた。
「な、なんだよ急に……! 驚いたじゃねえか」
一方の結月はそれほど驚いた様子は見せなかった。もともと表情に出にくいのもあるが、あかりの必死な顔を見て、勘の鋭い結月は何かを感じ取ったのかもしれない。
「何か、あった?」
こくこくとあかりは頷いた。そして携帯していた紙と筆を取り出すと『昴のことが訊きたいの』と書きつけた。
ここまで言われればさすがの秋之介にも思い当たる節があったらしく、すっと目を細めた。
「昴には訊いたのか?」
『訊いたよ。だけど大丈夫だってはぐらかされちゃった』
「まあ、昴ならそう言うか……。確かに最近の昴は変だなとは思うけど、俺にはよくわかんねえな」
肩をすくめた秋之介は今度は結月を見遣った。
「ゆづは何か知ってるか?」
結月は一度まぶたを伏せた後、「……そう、だね」と答えた。
「だけど、昴が教えたくないことなら、あんまりおれが話すのも、よく、ない」
そう言われてしまってはあかりも追及することを躊躇ってしまう。しゅんと肩を落としたあかりを前にして、結月は困ったように眉を下げた。そしてとうとうぽつりと小さな声で呟いた。
「全部は話せない、けど……。昴は怖いんだと、思う」
『怖い……?』
あかりが復唱すると、結月は「そう」と頷いた。
「家族も家臣も、昴は大事な人たちをたくさん失ってるから、臆病になってるんだと、思う。だから、あかりまでいなくならないか、不安でいっぱいになってる」
(私が……?)
「それで、迷ってる。……おれが言えるのは、ここまで」
そう締めくくると結月は再びまぶたを伏せた。
『昴は私がいなくなることが怖くて……だから、何かに迷ってるってこと?』
あかりが結月に確認すると、結月は相違ないと首肯した。
その事実にあかりは申し訳なくなり、そんな資格がないと思いながらも胸を痛めた。
三年前も今も、どれほど昴に心労をかけているのだろう。原因が自分にあるのなら、どうにかして昴の迷いや憂いを払えないだろうか。
様々な思いがあかりの中をめぐる。
知らずうつむきかけたあかりだったが、隣から肩を叩かれて顔を上げた。秋之介だった。
「俺にも昴の全部がわかるわけじゃねぇ。様子がおかしいとは思ってたけど、ゆづみたいに気づけなかったし」
そう語る秋之介は少しだけ悔しそうに顔を歪めたが、次いであかりを見る目は澄んだものだった。
「やっぱりさ、本人に訊くしかねぇんじゃねえの?」
(でも……いいの?)
あまり無理に聞き出すのは気が進まなかった。自分が原因だと言われればなおさら後込みしてしまう。自分が無茶をした故に昴を追いつめている現実にあかりは負い目を感じていた。
黙り込んだあかりに、結月はそっと声をかけた。
「あかりが昴を想うように、昴もあかりのことを想ってる。このまますれ違うのは、悲しい」
「俺もゆづの意見には賛成。けんかとは違うけどさ、ぎくしゃくするのは嫌だしな」
間を置いてから、あかりは紙に筆を走らせた。
『少し、考えてみるね』
そう答えるあかりは顔を曇らせたままだった。
(訊くなら今……!)
あかりは二人に駆け寄ると、右手で結月を、左手で秋之介を捕まえた。
秋之介は驚きに目を丸くしていた。
「な、なんだよ急に……! 驚いたじゃねえか」
一方の結月はそれほど驚いた様子は見せなかった。もともと表情に出にくいのもあるが、あかりの必死な顔を見て、勘の鋭い結月は何かを感じ取ったのかもしれない。
「何か、あった?」
こくこくとあかりは頷いた。そして携帯していた紙と筆を取り出すと『昴のことが訊きたいの』と書きつけた。
ここまで言われればさすがの秋之介にも思い当たる節があったらしく、すっと目を細めた。
「昴には訊いたのか?」
『訊いたよ。だけど大丈夫だってはぐらかされちゃった』
「まあ、昴ならそう言うか……。確かに最近の昴は変だなとは思うけど、俺にはよくわかんねえな」
肩をすくめた秋之介は今度は結月を見遣った。
「ゆづは何か知ってるか?」
結月は一度まぶたを伏せた後、「……そう、だね」と答えた。
「だけど、昴が教えたくないことなら、あんまりおれが話すのも、よく、ない」
そう言われてしまってはあかりも追及することを躊躇ってしまう。しゅんと肩を落としたあかりを前にして、結月は困ったように眉を下げた。そしてとうとうぽつりと小さな声で呟いた。
「全部は話せない、けど……。昴は怖いんだと、思う」
『怖い……?』
あかりが復唱すると、結月は「そう」と頷いた。
「家族も家臣も、昴は大事な人たちをたくさん失ってるから、臆病になってるんだと、思う。だから、あかりまでいなくならないか、不安でいっぱいになってる」
(私が……?)
「それで、迷ってる。……おれが言えるのは、ここまで」
そう締めくくると結月は再びまぶたを伏せた。
『昴は私がいなくなることが怖くて……だから、何かに迷ってるってこと?』
あかりが結月に確認すると、結月は相違ないと首肯した。
その事実にあかりは申し訳なくなり、そんな資格がないと思いながらも胸を痛めた。
三年前も今も、どれほど昴に心労をかけているのだろう。原因が自分にあるのなら、どうにかして昴の迷いや憂いを払えないだろうか。
様々な思いがあかりの中をめぐる。
知らずうつむきかけたあかりだったが、隣から肩を叩かれて顔を上げた。秋之介だった。
「俺にも昴の全部がわかるわけじゃねぇ。様子がおかしいとは思ってたけど、ゆづみたいに気づけなかったし」
そう語る秋之介は少しだけ悔しそうに顔を歪めたが、次いであかりを見る目は澄んだものだった。
「やっぱりさ、本人に訊くしかねぇんじゃねえの?」
(でも……いいの?)
あまり無理に聞き出すのは気が進まなかった。自分が原因だと言われればなおさら後込みしてしまう。自分が無茶をした故に昴を追いつめている現実にあかりは負い目を感じていた。
黙り込んだあかりに、結月はそっと声をかけた。
「あかりが昴を想うように、昴もあかりのことを想ってる。このまますれ違うのは、悲しい」
「俺もゆづの意見には賛成。けんかとは違うけどさ、ぎくしゃくするのは嫌だしな」
間を置いてから、あかりは紙に筆を走らせた。
『少し、考えてみるね』
そう答えるあかりは顔を曇らせたままだった。
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