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第一三話 守りたいもの
第一三話 一
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あかりが目覚めてから数日が経った。声こそ戻らないものの持ち前の丈夫さであかりは体力も妖力もみるみる回復させていった。
過保護な幼なじみたちはあかりにはまだ休んでいてほしいらしかったが、じっとしていることなどできないあかりは今日も朝早くに起床した。
「―」
今日こそは声が出るのではないかと淡い期待を抱き息を吸い込むも、吐き出した息は音を紡がず、あかりはがっくりと肩を落とした。声が出ないので言霊は操れないけれど、妖力はあるので霊剣は顕現させられるのが唯一の救いだ。
あかりは気を取り直すと今日の稽古を始めるべく玄舞家の稽古場に足を進めた。
朝早いこの時間の稽古場にはまだ誰もいなかった。
あかりは霊剣を喚び出すと心の中で謡いながら舞い始めた。
(天地の父母たる六甲六旬十二時神・青柳・蓬星・天上玉女・六戊・蔵形之神、我が母神たる朱咲に願い奉る……)
静謐な場に自身の衣擦れの音と霊剣が空気を裂く音がやけに大きく響くように感じられる。
(……我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ……)
自身の立てる音すらも耳に入らなくなってくるころには、稽古場の空気は完全に清められていた。あかりは仕上げとばかりに心中で祝詞の最後の文言を唱えながら、禹歩を踏んだ。
(青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女。急々如律令!)
あかりが反閇を締めくくると同時に赤い光の粒が舞い散る。稽古場に射しこむ朝陽を受けて、光の粒はより一層輝いて見えた。あかりが手を伸ばして光の粒に触れると、それはぱちりと弾けて消えてしまった。
きれいだと思うけれど、どこか切なくなるのはあかりの現在の心境のせいだろうか。
(声さえ出れば元通りなのに……)
現在あかりは任務から外されている。病み上がりというのもあるだろうが、言霊が操れないあかりは連れていけないというのが昴の主張だった。結月も秋之介も昴の意見に賛成のようで、あかりは粘ったが結局この決定を受け入れるしかなかった。
(確かに言霊なしじゃ前みたいに強大な力は使えないけど……)
常に人員不足なのだから本来なら今のあかりでも任務に出たところでおかしくはない。それを認めてくれないのは単に戦力が弱まったからということだけが理由ではないことをあかりは薄々察していた。
昴をはじめ、秋之介も結月も頑として首を縦に振らないのは、それだけ『葉月の凶事』が堪えたということだろう。あかりだって立場が逆なら同じように考えたかもしれないと思うから、渋々現状を受け入れているのだ。
(だけど、このままってわけにはいかないはず)
そんな予感があるから、あかりは今できる稽古に励んでいた。
声の治療は昴の宣言通り、彼自身が手を尽くしてくれている。あかりも諦めるつもりはなく、いつかは声を取り戻し、また任務に参加できるようになりたいと考えていた。
過保護な幼なじみたちはあかりにはまだ休んでいてほしいらしかったが、じっとしていることなどできないあかりは今日も朝早くに起床した。
「―」
今日こそは声が出るのではないかと淡い期待を抱き息を吸い込むも、吐き出した息は音を紡がず、あかりはがっくりと肩を落とした。声が出ないので言霊は操れないけれど、妖力はあるので霊剣は顕現させられるのが唯一の救いだ。
あかりは気を取り直すと今日の稽古を始めるべく玄舞家の稽古場に足を進めた。
朝早いこの時間の稽古場にはまだ誰もいなかった。
あかりは霊剣を喚び出すと心の中で謡いながら舞い始めた。
(天地の父母たる六甲六旬十二時神・青柳・蓬星・天上玉女・六戊・蔵形之神、我が母神たる朱咲に願い奉る……)
静謐な場に自身の衣擦れの音と霊剣が空気を裂く音がやけに大きく響くように感じられる。
(……我を喜ぶ者は福し、我を悪む者は殃せらる。百邪鬼賊、我に当う者は亡び、千万人中、我を見る者は喜ぶ……)
自身の立てる音すらも耳に入らなくなってくるころには、稽古場の空気は完全に清められていた。あかりは仕上げとばかりに心中で祝詞の最後の文言を唱えながら、禹歩を踏んだ。
(青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女。急々如律令!)
あかりが反閇を締めくくると同時に赤い光の粒が舞い散る。稽古場に射しこむ朝陽を受けて、光の粒はより一層輝いて見えた。あかりが手を伸ばして光の粒に触れると、それはぱちりと弾けて消えてしまった。
きれいだと思うけれど、どこか切なくなるのはあかりの現在の心境のせいだろうか。
(声さえ出れば元通りなのに……)
現在あかりは任務から外されている。病み上がりというのもあるだろうが、言霊が操れないあかりは連れていけないというのが昴の主張だった。結月も秋之介も昴の意見に賛成のようで、あかりは粘ったが結局この決定を受け入れるしかなかった。
(確かに言霊なしじゃ前みたいに強大な力は使えないけど……)
常に人員不足なのだから本来なら今のあかりでも任務に出たところでおかしくはない。それを認めてくれないのは単に戦力が弱まったからということだけが理由ではないことをあかりは薄々察していた。
昴をはじめ、秋之介も結月も頑として首を縦に振らないのは、それだけ『葉月の凶事』が堪えたということだろう。あかりだって立場が逆なら同じように考えたかもしれないと思うから、渋々現状を受け入れているのだ。
(だけど、このままってわけにはいかないはず)
そんな予感があるから、あかりは今できる稽古に励んでいた。
声の治療は昴の宣言通り、彼自身が手を尽くしてくれている。あかりも諦めるつもりはなく、いつかは声を取り戻し、また任務に参加できるようになりたいと考えていた。
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