156 / 388
第一二話 葉月の凶事
第一二話 六
しおりを挟む
「……っ‼」
「あかりちゃん‼」
昴は受け身をとり、素早く体勢を整えると、あかりを抱きとめた。
「……」
あかりは何か言おうと口を動かしていたが、言葉は声にならない。
それもそのはず、あかりは妖狐に喉を裂かれたからだ。
昴の腕の中で、あかりの体が重くなっていくのを感じる。触れた指は急速に冷えていった。
昴の結界が破られた今は昴とあかりは炎に囲まれている。熱される皮膚は熱く乾いていくのに、昴の背中には冷たい汗が流れた。
視界の片隅で妖狐が突然取り乱すように暴れ出した。昴は僅かに残った冷静な判断力でやっと集まってきた家臣に指示を出した。
「時人くん達は妖狐を確保して!」
その間にもあかりの状態はどんどん悪くなっていく。次第に瞳の焦点が合わなくなっていくのがわかった。
「あかりちゃん……!」
呼びかけてみてもあかりからは反応が返ってこない。
すると、炎と煙の向こう側から、結月と秋之介が走り寄ってきた。
「あかり……っ‼」
「昴! 一体何が……⁉」
一部始終を見ていたのか、二人は血相を変えていた。自分も似たような顔色だろうことは自覚していたが、ここは最年長らしく振る舞わなければという義務感だけが昴の口を動かした。
「話は後で。ゆづくんは霊符でこのあたりの鎮火をしてくれる? 秋くんには僕の手伝いをしてほしい」
「わかった」
「ああ」
結月と秋之介は一様にあかりの身を案じていたが、まずは昴の指示に従った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光とともにさあっと細い雨が降り注ぐ。昴たちの周囲は完全に火が鎮まった。
「秋くん、この布を裂いてくれる?」
昴が懐から取り出した清潔な手ぬぐいを、秋之介は言いつけ通りに細く破った。
昴は血に染まったあかりの首に手をあてる。脈動は微かにだが感じられた。
「病傷平癒、玄舞護神、急々如律令……!」
先ほどの妖狐との攻防で霊力も体力もかなり消耗してしまっていた。大きな力を使うことは辛かったが、目の前のあかりのためなら負担にも思わない。効力を上げるため、指についたあかりの血を『水』の力として利用して術を使う。
昴の思いの強さに比例するように、黒い光が輝きを増した。
それでもなお、あかりの首からは出血が止まらない。同時に傷口から瘴気を感じた。
「ちっ……!」
昴は焦燥から苛立ちに駆られていた。
大規模な術をここで使ってしまったら、自力では邸に戻れないかもしれない。しかしそうも言っていられないあかりの傷の深さに、昴は覚悟を決めた。
秋之介から受け取った布で一度指についたあかりの血を拭うと、昴は自身の親指の腹の皮膚を食い破った。たちまち血が流れ出る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
あかりにまとわりつく瘴気を払ってから、昴はもう一度「病傷平癒、玄舞護神、急々如律令!」と唱えた。
黒い光は輝くというよりかは閃くといった表現の方が近く、先ほどよりも眩しかった。
「あかりちゃん‼」
昴は受け身をとり、素早く体勢を整えると、あかりを抱きとめた。
「……」
あかりは何か言おうと口を動かしていたが、言葉は声にならない。
それもそのはず、あかりは妖狐に喉を裂かれたからだ。
昴の腕の中で、あかりの体が重くなっていくのを感じる。触れた指は急速に冷えていった。
昴の結界が破られた今は昴とあかりは炎に囲まれている。熱される皮膚は熱く乾いていくのに、昴の背中には冷たい汗が流れた。
視界の片隅で妖狐が突然取り乱すように暴れ出した。昴は僅かに残った冷静な判断力でやっと集まってきた家臣に指示を出した。
「時人くん達は妖狐を確保して!」
その間にもあかりの状態はどんどん悪くなっていく。次第に瞳の焦点が合わなくなっていくのがわかった。
「あかりちゃん……!」
呼びかけてみてもあかりからは反応が返ってこない。
すると、炎と煙の向こう側から、結月と秋之介が走り寄ってきた。
「あかり……っ‼」
「昴! 一体何が……⁉」
一部始終を見ていたのか、二人は血相を変えていた。自分も似たような顔色だろうことは自覚していたが、ここは最年長らしく振る舞わなければという義務感だけが昴の口を動かした。
「話は後で。ゆづくんは霊符でこのあたりの鎮火をしてくれる? 秋くんには僕の手伝いをしてほしい」
「わかった」
「ああ」
結月と秋之介は一様にあかりの身を案じていたが、まずは昴の指示に従った。
「水神演舞、急々如律令」
青い光とともにさあっと細い雨が降り注ぐ。昴たちの周囲は完全に火が鎮まった。
「秋くん、この布を裂いてくれる?」
昴が懐から取り出した清潔な手ぬぐいを、秋之介は言いつけ通りに細く破った。
昴は血に染まったあかりの首に手をあてる。脈動は微かにだが感じられた。
「病傷平癒、玄舞護神、急々如律令……!」
先ほどの妖狐との攻防で霊力も体力もかなり消耗してしまっていた。大きな力を使うことは辛かったが、目の前のあかりのためなら負担にも思わない。効力を上げるため、指についたあかりの血を『水』の力として利用して術を使う。
昴の思いの強さに比例するように、黒い光が輝きを増した。
それでもなお、あかりの首からは出血が止まらない。同時に傷口から瘴気を感じた。
「ちっ……!」
昴は焦燥から苛立ちに駆られていた。
大規模な術をここで使ってしまったら、自力では邸に戻れないかもしれない。しかしそうも言っていられないあかりの傷の深さに、昴は覚悟を決めた。
秋之介から受け取った布で一度指についたあかりの血を拭うと、昴は自身の親指の腹の皮膚を食い破った。たちまち血が流れ出る。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
あかりにまとわりつく瘴気を払ってから、昴はもう一度「病傷平癒、玄舞護神、急々如律令!」と唱えた。
黒い光は輝くというよりかは閃くといった表現の方が近く、先ほどよりも眩しかった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
龍神様の神使
石動なつめ
BL
顔にある花の痣のせいで、忌み子として疎まれて育った雪花は、ある日父から龍神の生贄となるように命じられる。
しかし当の龍神は雪花を喰らおうとせず「うちで働け」と連れ帰ってくれる事となった。
そこで雪花は彼の神使である蛇の妖・立待と出会う。彼から優しく接される内に雪花の心の傷は癒えて行き、お互いにだんだんと惹かれ合うのだが――。
※少々際どいかな、という内容・描写のある話につきましては、タイトルに「*」をつけております。
佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女
藤井ことなり
キャラ文芸
OLのサクセスストーリーです。
半年前、アメリカ本社で秘書をしていた主人公、佐野千秋(さの ちあき)
突然、日本支社の企画部企画3課の主任に異動してきたが、まわりには理由は知らされてなかった。
そして急にコンペの責任者となり、やったことの無い仕事に振り回される。
上司からの叱責、ライバル会社の妨害、そして次第に分かってきた自分の立場。
それが分かった時、千秋は反撃に出る!
社内、社外に仲間と協力者を増やしながら、立ち向かう千秋を楽しんでください。
キャラ文芸か大衆娯楽で迷い、大衆娯楽にしてましたが、大衆娯楽部門で1位になりましたので、そのままキャラ文芸コンテストにエントリーすることにしました。
同時エントリーの[あげは紅は はかないらしい]もよろしくお願いいたします。
表紙絵は絵師の森彗子さんの作品です
pixivで公開中
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!
昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。
ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。
この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。
------------------------------------
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる