【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一一話 夏のひととき

第一一話 八

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朝食を済ませたあかりと昴は昴の部屋に向かっていた。そこは昴の自室でありながら、あかりにとっては政務のための部屋でもあった。
 障子を引き開けて文机の上を見るなり、あかりは思わず呻いた。昨日減らしたはずの紙の束が元の高さに戻っていたからだ。南の地の復興のことを思えば頑張れるが、それでも楽な仕事ではなかった。
 隣に並べられた昴の文机の上にはあかり以上に紙束が山積していた。
「昴の政務の量は今日もすごいね……」
「あかりちゃんと比べたらね。だけどもう慣れたよ」
 言うなり昴はさっさと文机を前にして腰を下ろしたので、あかりもそれに倣った。そして作業を始めていく。
 静かな部屋には二人分の袂の擦れる音と紙の動く音がよく響いた。遠くからは玄舞家の家臣たちの動き回る足音や稽古の大声が届いてくる。
 それからいくらか経った頃、あかりの隣から大きな物音がした。驚いて肩を跳ね上げたあかりはさっと音のした方を振り返り、そして瞠目した。畳の上には書類が散乱していて、文机の上には昴がぐったりとした様子で倒れかかっていたのだ。
「昴⁉」
 慌てて駆け寄ったあかりが昴の肩を軽く叩くと、昴は薄く目を開いた。どうやら意識はあるようだ。
「良かった……。待ってて、今誰か呼んでくるから」
 あかりは昴の返事を聞くより先に立ち上がると廊下に出た。すると折よく清忠が廊下の曲がり角から姿を現したので、あかりは彼に走り寄った。
「清忠さんっ!」
「あかり様、どうされたのですか。何か慌てているようですが……」
「大変なの。昴が……!」
 それだけで清忠にはあかりの言わんとしていることに察しがついたらしい。途端に目つきを鋭くさせると、清忠は昴の部屋にすぐに向かった。
 清忠が出した布団の上で昴の容態を診ている間、あかりは畳に散らばった紙を拾い集めていた。しかし気が気でなく、自身の作業にはいまひとつ集中できない。ちらちらと昴の方を伺うものの、清忠の後ろ姿が見えるのみで昴の顔は見えなかった。
(昴、大丈夫なのかな……)
 清忠から発せられる黒い光をぼんやり眺めながら、あかりは少しだけ後悔していた。昴が倒れる前にやはり無理矢理にでも休ませるべきだったのではないか。昴が望んでいなくとも倒れてしまっては元も子もないのだから。
 後悔がさざ波となって寄せては返す。あかりはいてもたってもいられなくなって片付けをさっさと済ませると昴の側に寄った。
 清忠は治療の手を止めずにあかりを横目で見ただけで、別段あかりを止めるようなことはしなかった。
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