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第一〇話 夢幻のような
第一〇話 一〇
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目的の甘味処は玄舞大路に面している。あかりたちはそのまま南下していった。
小腹は空いていたものの通りに並び立つ店をのぞく余裕はあったので、あかりは気になる店の軒先でときどき立ち止まっては商品を眺めた。
「あっ、これ、きれい!」
あかりが手に取ったのは透き通った青いガラス玉だった。よく見るとガラス玉の中には小さな気泡が浮いている。
隣にいた結月が意外そうに目を丸くした。
「あかりが、赤以外の物を選ぶなんて、珍しい」
あかりは結月に向かって青いガラス玉をかざすと、いたずらっぽく笑って見せた。
「これはまた別なの。ほら、結月の目とよく似てる」
「え?」
濁りなく澄んでいて透明感に溢れている青い玉は、まるで結月の瞳のようだった。
あかりは親指と人差し指でつまんだガラス玉をあらゆる角度から眺めた。外から差し込む光を受けてガラス玉は僅かに風合いを変える。それもまた口よりもずっと雄弁な結月の瞳のようだとあかりは思った。
「うん、でも……」
あかりは満足いくまでガラス玉を観察した後、本物の青い瞳に目を移した。
「こっちの方が断然好きだな」
そうして無邪気に笑った。
ガラス玉は確かに美しいが、結月の瞳には敵わない。様々な感情を乗せて色味を変える青は、あかりにとって特別で、大好きな青だった。
そんな青は今、驚きと惑い、そして最近よく見かけるようになった熱っぽさを湛えていた。涼やかなはずの青を『熱い』と感じるなんておかしな話だと思うが、あかりはどうしてだかその熱さに魅入られたように目を離せずにいた。
先に目を逸らしたのは結月の方だった。
「あの、あかり……」
その弱ったような声にあかりは、はっと我に返って慌てて視線を外した。
「ご、ごめんね! つい……!」
お花見のとき然り、最近は結月を見ると妙に調子が狂うと思う。同じ幼なじみの秋之介や昴を見てもこんなことにはならないのに、一体どうしたというのだろう。
(まさか、何かの術とかじゃないよね……?)
結月にかけられたあかりにしか効かない術か、あかりにかけられた結月をきっかけとする術か。
いま一度確かめようと、あかりは顔を上げるとじっと結月の目を見つめた。
「……」
「どうしたの、あかり?」
見つめた瞳は、今度は当惑一色の青色をしていた。
あかりの方も特に先ほどのような変化はなく、術らしき気配も感じなかった。
「うーん、気のせいだったのかな……?」
「?」
首を傾げるあかりにつられたように結月も向かいで首を傾げていると、店の奥の方を見ていた秋之介と昴が戻って来た。
「なにしてんだ?」
「にらめっこでもしてたの?」
「……ううん、なんでもない」
きっと思い過ごしだと結論付けて、あかりは持ちっぱなしだった青いガラス玉を元の場所に戻した。
小腹は空いていたものの通りに並び立つ店をのぞく余裕はあったので、あかりは気になる店の軒先でときどき立ち止まっては商品を眺めた。
「あっ、これ、きれい!」
あかりが手に取ったのは透き通った青いガラス玉だった。よく見るとガラス玉の中には小さな気泡が浮いている。
隣にいた結月が意外そうに目を丸くした。
「あかりが、赤以外の物を選ぶなんて、珍しい」
あかりは結月に向かって青いガラス玉をかざすと、いたずらっぽく笑って見せた。
「これはまた別なの。ほら、結月の目とよく似てる」
「え?」
濁りなく澄んでいて透明感に溢れている青い玉は、まるで結月の瞳のようだった。
あかりは親指と人差し指でつまんだガラス玉をあらゆる角度から眺めた。外から差し込む光を受けてガラス玉は僅かに風合いを変える。それもまた口よりもずっと雄弁な結月の瞳のようだとあかりは思った。
「うん、でも……」
あかりは満足いくまでガラス玉を観察した後、本物の青い瞳に目を移した。
「こっちの方が断然好きだな」
そうして無邪気に笑った。
ガラス玉は確かに美しいが、結月の瞳には敵わない。様々な感情を乗せて色味を変える青は、あかりにとって特別で、大好きな青だった。
そんな青は今、驚きと惑い、そして最近よく見かけるようになった熱っぽさを湛えていた。涼やかなはずの青を『熱い』と感じるなんておかしな話だと思うが、あかりはどうしてだかその熱さに魅入られたように目を離せずにいた。
先に目を逸らしたのは結月の方だった。
「あの、あかり……」
その弱ったような声にあかりは、はっと我に返って慌てて視線を外した。
「ご、ごめんね! つい……!」
お花見のとき然り、最近は結月を見ると妙に調子が狂うと思う。同じ幼なじみの秋之介や昴を見てもこんなことにはならないのに、一体どうしたというのだろう。
(まさか、何かの術とかじゃないよね……?)
結月にかけられたあかりにしか効かない術か、あかりにかけられた結月をきっかけとする術か。
いま一度確かめようと、あかりは顔を上げるとじっと結月の目を見つめた。
「……」
「どうしたの、あかり?」
見つめた瞳は、今度は当惑一色の青色をしていた。
あかりの方も特に先ほどのような変化はなく、術らしき気配も感じなかった。
「うーん、気のせいだったのかな……?」
「?」
首を傾げるあかりにつられたように結月も向かいで首を傾げていると、店の奥の方を見ていた秋之介と昴が戻って来た。
「なにしてんだ?」
「にらめっこでもしてたの?」
「……ううん、なんでもない」
きっと思い過ごしだと結論付けて、あかりは持ちっぱなしだった青いガラス玉を元の場所に戻した。
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