【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第一〇話 夢幻のような

第一〇話 五

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文月七日。この日はあかりの一七歳の誕生日である。梅雨はまだ明けず、ぐずついた天気の日も多かったが、今日は珍しく晴れて、まるであかりの誕生日を祝ってくれているようだった。
 一三歳まで毎年祝ってくれた家族は、もういない。そのことはあかりの胸を少しばかり重くさせた。一四歳の誕生日の前日にあの戦いが起きて、一四歳当日は陰の国に気を失ったまま囚われていた。当初よりは落ち着いたものの、三年経った今でも胸がちりと痛んだ。
 そんなことを考えながら自室前の外廊下に佇んでいると、背後から三人分の声がした。
「おはよう、あかりちゃん」
「はよー!」
「おはよう、あかり」
「あ、おはよう、みんな」
 あかりは沈んだ気持ちを振り払い、三人に笑顔を向けた。三人は珍しく袴姿ではなく、私服の着物姿だった。上手く笑えたと思ったのに、結月だけが思案気にあかりをじっと見た。
 しかし結月はそのことには触れずに、意外な提案を口にした。
「あかり、今日は遊ぼう」
 まるで小さなころに戻ったかのような台詞だった。一つしか年の違わない結月とは、昔こうしてよく一緒に遊んだものだ。あかりは懐かしさに目を細めた。
「いいよ。何しようか」
 今日は特に予定はない。任務が重ならないように昴が気を配ってくれたのかもしれなかった。昴をちらりと見れば、彼と目が合った。昴は微笑んで、小さく頷いた。
 あかりの問いに答えたのは秋之介だった。
「あかりはなんかやりたいこととかないのか?」
「やりたいこと? うーん、そうだなぁ……」
 あかりは右上に視線を滑らせると、宙を見て考え込んだ。
 真っ青な空に二羽の雀が戯れながら泳ぎ飛ぶ。自分もあの雀たちと同じように気ままに過ごしたいと思ったら、答えは案外早くに出た。
「巡回なんかは気にしないで街に遊びに行きたいな。あ、おじ様たちにも会いたいかも」
 結月が「うん、いいよ」と頷く。
「父様も母様も、あかりに会いたがってたから、喜ぶと思う」
「うちの親父たちもな」
 結月、秋之介に続いて、昴が穏やかに微笑んだ。
「あかりちゃんさえ良ければ、うちの両親にも挨拶してもらっていいかな? 冥界で見守ってくれていると思うから」
「もちろんだよ」
 そうと決まればまずは出かける支度だ。つい普段通りに袴に着替えてしまったが、遊びに行くというなら私服の方がいいだろう。まだ梅雨ではあるが暦は七月で、今日に限っては日射しも眩しく、まるで真夏のようだった。以前の私物は邸ごと水にさらわれてしまったが、昴が気を利かせて新しい物を手配してくれていたので新しい着物一式もきちんと揃っていた。連日警戒態勢でいつでも戦えるようにと袴姿でいたのだが、やっと新しい紗の着物を下ろせそうで、あかりの胸は弾んだ。
 半刻後に昴の部屋に集合ということになり、あかりはいそいそと準備にとりかかった。
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