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第一〇話 夢幻のような
第一〇話 三
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中央御殿の謁見の間に通されたあかりと昴は、いくらも待たないうちに司と顔を合わせた。
「ようこそお越しくださいました」
挨拶もそこそこに司は本題に入った。
「昴さん、幼帝派との一時協定はいかがですか?」
「はい。今のところは問題ありません。渡瀬と名乗った兄妹も偽名ではありませんでした」
「そうですか。それならば良いのです」
昴と司はひとしきり現在の戦況について話していた。あかりに口を挟む余地は一切ない。
(なんで私が呼ばれたんだろう……?)
あかりがぼんやり考え事をしている間に昴と司の話は一段落ついたようだった。今度は、司はあかりに向き直る。
「あかりさん」
「はい」
司に名前を呼ばれて、あかりは居住まいを正した。何を言われるのだろうとはらはらしていると、司はちらりと窓外を見た。四角く切り取られた空は真っ青だった。
「昨晩から良い天気ですね」
「……? そうですね?」
何の脈絡もない話題に、あかりは首を傾げるばかりだ。そんなあかりを見て、司は小さく笑ったが、すぐに真剣な面持ちに変わった。
「実は昨晩、星読みを久方ぶりに行ったのです」
黙って話を聞いていた昴にはピンと来たようだった。しかし何も言わずに司が語るに任せる。
「……こんな卜占ばかり当たっても、仕方ないのに……」
消え入りそうなほどの司の呟きはあかりには聞き取れなかったが、どこか自嘲気味だったのはわかった。司は逸らしていた目をあかりに向けた。
「あかりさん。あなたには葉月の頃に何かしらの凶事が降りかかります。重々、お気をつけください」
「……」
あかりは言葉を失った。代わりに昴が口を開く。
「お言葉ですが、御上様。その凶事というのはどのようなものなのでしょうか」
司は申し訳なさそうに頭を振った。
「そこまではわかりませんでした。ただ余にできるのはこのように忠告するだけ。不甲斐ない身で申し訳ありません……」
「いえ、忠告だけでもありがたいです。出過ぎたことを申しました。お許しください」
話は以上だと告げて司は謁見の間から退出した。あかりと昴もその場を後にする。
玄舞家に帰る道すがら、昴は案じるようにあかりに声をかけた。
「大丈夫、あかりちゃん?」
「驚いたけど……でも、今のところは大丈夫ってことでもあるんだよね?」
「まあ、そういうことになるね」
昴が肯定するとあかりは安堵して微笑んだ。
「だったら大丈夫だよ。それに考えてばっかりいても仕方ないし、私らしくもない」
「あかりちゃん……」
昴は眩しそうに目を細めると、あかりの頭に手を置いて優しく撫でた。
「昴?」
あかりが僅かに昴を見上げると、昴は優しい笑みをあかりに返した。
「何があっても、僕が守るよ」
「……うん。ありがとう」
その一言であかりの抱えていた一抹の不安も振り払われるような気がした。
「ようこそお越しくださいました」
挨拶もそこそこに司は本題に入った。
「昴さん、幼帝派との一時協定はいかがですか?」
「はい。今のところは問題ありません。渡瀬と名乗った兄妹も偽名ではありませんでした」
「そうですか。それならば良いのです」
昴と司はひとしきり現在の戦況について話していた。あかりに口を挟む余地は一切ない。
(なんで私が呼ばれたんだろう……?)
あかりがぼんやり考え事をしている間に昴と司の話は一段落ついたようだった。今度は、司はあかりに向き直る。
「あかりさん」
「はい」
司に名前を呼ばれて、あかりは居住まいを正した。何を言われるのだろうとはらはらしていると、司はちらりと窓外を見た。四角く切り取られた空は真っ青だった。
「昨晩から良い天気ですね」
「……? そうですね?」
何の脈絡もない話題に、あかりは首を傾げるばかりだ。そんなあかりを見て、司は小さく笑ったが、すぐに真剣な面持ちに変わった。
「実は昨晩、星読みを久方ぶりに行ったのです」
黙って話を聞いていた昴にはピンと来たようだった。しかし何も言わずに司が語るに任せる。
「……こんな卜占ばかり当たっても、仕方ないのに……」
消え入りそうなほどの司の呟きはあかりには聞き取れなかったが、どこか自嘲気味だったのはわかった。司は逸らしていた目をあかりに向けた。
「あかりさん。あなたには葉月の頃に何かしらの凶事が降りかかります。重々、お気をつけください」
「……」
あかりは言葉を失った。代わりに昴が口を開く。
「お言葉ですが、御上様。その凶事というのはどのようなものなのでしょうか」
司は申し訳なさそうに頭を振った。
「そこまではわかりませんでした。ただ余にできるのはこのように忠告するだけ。不甲斐ない身で申し訳ありません……」
「いえ、忠告だけでもありがたいです。出過ぎたことを申しました。お許しください」
話は以上だと告げて司は謁見の間から退出した。あかりと昴もその場を後にする。
玄舞家に帰る道すがら、昴は案じるようにあかりに声をかけた。
「大丈夫、あかりちゃん?」
「驚いたけど……でも、今のところは大丈夫ってことでもあるんだよね?」
「まあ、そういうことになるね」
昴が肯定するとあかりは安堵して微笑んだ。
「だったら大丈夫だよ。それに考えてばっかりいても仕方ないし、私らしくもない」
「あかりちゃん……」
昴は眩しそうに目を細めると、あかりの頭に手を置いて優しく撫でた。
「昴?」
あかりが僅かに昴を見上げると、昴は優しい笑みをあかりに返した。
「何があっても、僕が守るよ」
「……うん。ありがとう」
その一言であかりの抱えていた一抹の不安も振り払われるような気がした。
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