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第九話 訪れる転機
第九話 九
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昴は一行を、客間ではなく裏庭に案内した。もし少年少女が裏切った場合に躊躇なく対応できるようにということだろう。
座ることもせず、昴は少年少女に話を促した。
少年と少女は互いの顔を見合わせると、頷きあった。
「すぐに信用されるとも思っていませんが、我々はあなた方を裏切りません。その証拠に、名乗らせていただきます」
名前を知られるということはほとんど危ない橋を渡るようなものだった。名前ひとつで呪いをかけられたり、術に利用されたりするからだ。それをわかっていて、彼らは名前を明かすことにしたようだ。
「私は渡瀬千代です」
「自分は渡瀬一樹と申します。千代の兄です」
「……君たちの誠意はわかったよ。とりあえずは信用することにするよ」
一樹と千代は胸を撫でおろすと、どちらからともなく話し出した。
「お知らせしたいのは陰の国の現状についてです」
「話は五年ほど前にさかのぼります」
五年前、陰の国では先代の帝が崩御したという。先代の帝には息子がひとりいたがまだ幼く、国を治めることなどできなかったという。その代わりに帝の座についたのは先代の帝の弟であった。
「それから彼は暴政を敷き始めたのです」
千代が憂い顔で呟いた。
その頃から陰の国は陽の国に侵攻する計画を立てていたらしい。
「彼は人と妖が共存する陽の国を異様に恐れているようでした。当時の国の間の緊張感もあって、彼はもし陽の国が陰の国に侵攻してきたらと怯えているようでもありました」
そしてそれが陰の国が陽の国に侵攻してくる事態につながったという。
昴は納得顔で頷いた。
「確かに五年前あたりから被害が拡大し始めた。話は一致しそうだね」
あかりも当時のことを思い出していた。そのころは結界修復に昴がよく駆り出されていたことが印象強い。任務もあかりと結月、秋之介の三人で行うことが多くて、寂しかったことを覚えている。
一樹と千代の話は続いた。
時は進み、現在の帝と本来の幼帝で派閥争いが生じるようになった。現在の帝は富国強兵を掲げ、妖を式神という名の兵器として利用しているという。一方で幼帝派は陽の国との衝突は避け、慎ましやかな国政を敷きたいと考えている。為政者は半々に分かれたが、国民も同様だった。現在の帝に関してはそれこそが保身につながると信じて疑わない者がいる一方で、悪政だと非難する者もいるらしい。対して幼帝に関しても穏やかな国を目指したいと考える者がいる一方で、幼い上に逃げ腰で信用ならないとそしる者もいるというのだ。
「つまり、陽の国は陰の国の後継者争いに巻き込まれてるってこと?」
「そういうことになります」
昴の確認に、一樹は苦い表情で肯定した。
「現在の陰の国は一枚岩ではありません。陽の国で暴れているのは現在の帝を支持する者たちです。誓って我々幼帝派は手を出していません。むしろ奴らを止めるために必死なのです」
「今日、妖狐を追っていたのも、そのため……?」
結月の静かな声も聞き逃さず、千代は「はい」と頷いた。
「また逃がしてしまいましたが……。でもあの妖狐は危険なので、早く何とかしないと……」
言葉には焦りがにじみ出ていた。あかりは「危険ってどういうこと?」と首を傾げた。
「あの妖狐は現在の帝が直接使役している最強の妖狐なのです」
そこであかりと結月ははたと顔を見合わせた。千代の言を信じるなら、あのとき顔を隠していた式神使いは帝本人ということになる。
「だから気配がおかしかったんだね……」
「うん。……大事に至らなくて、良かった」
あかりと結月が囁き合っていると、「陰の国の現状は以上です」と一樹が締めくくった。続けて千代が話を引き取る。
「皆様にお伝えしたいことはもうひとつあります」
座ることもせず、昴は少年少女に話を促した。
少年と少女は互いの顔を見合わせると、頷きあった。
「すぐに信用されるとも思っていませんが、我々はあなた方を裏切りません。その証拠に、名乗らせていただきます」
名前を知られるということはほとんど危ない橋を渡るようなものだった。名前ひとつで呪いをかけられたり、術に利用されたりするからだ。それをわかっていて、彼らは名前を明かすことにしたようだ。
「私は渡瀬千代です」
「自分は渡瀬一樹と申します。千代の兄です」
「……君たちの誠意はわかったよ。とりあえずは信用することにするよ」
一樹と千代は胸を撫でおろすと、どちらからともなく話し出した。
「お知らせしたいのは陰の国の現状についてです」
「話は五年ほど前にさかのぼります」
五年前、陰の国では先代の帝が崩御したという。先代の帝には息子がひとりいたがまだ幼く、国を治めることなどできなかったという。その代わりに帝の座についたのは先代の帝の弟であった。
「それから彼は暴政を敷き始めたのです」
千代が憂い顔で呟いた。
その頃から陰の国は陽の国に侵攻する計画を立てていたらしい。
「彼は人と妖が共存する陽の国を異様に恐れているようでした。当時の国の間の緊張感もあって、彼はもし陽の国が陰の国に侵攻してきたらと怯えているようでもありました」
そしてそれが陰の国が陽の国に侵攻してくる事態につながったという。
昴は納得顔で頷いた。
「確かに五年前あたりから被害が拡大し始めた。話は一致しそうだね」
あかりも当時のことを思い出していた。そのころは結界修復に昴がよく駆り出されていたことが印象強い。任務もあかりと結月、秋之介の三人で行うことが多くて、寂しかったことを覚えている。
一樹と千代の話は続いた。
時は進み、現在の帝と本来の幼帝で派閥争いが生じるようになった。現在の帝は富国強兵を掲げ、妖を式神という名の兵器として利用しているという。一方で幼帝派は陽の国との衝突は避け、慎ましやかな国政を敷きたいと考えている。為政者は半々に分かれたが、国民も同様だった。現在の帝に関してはそれこそが保身につながると信じて疑わない者がいる一方で、悪政だと非難する者もいるらしい。対して幼帝に関しても穏やかな国を目指したいと考える者がいる一方で、幼い上に逃げ腰で信用ならないとそしる者もいるというのだ。
「つまり、陽の国は陰の国の後継者争いに巻き込まれてるってこと?」
「そういうことになります」
昴の確認に、一樹は苦い表情で肯定した。
「現在の陰の国は一枚岩ではありません。陽の国で暴れているのは現在の帝を支持する者たちです。誓って我々幼帝派は手を出していません。むしろ奴らを止めるために必死なのです」
「今日、妖狐を追っていたのも、そのため……?」
結月の静かな声も聞き逃さず、千代は「はい」と頷いた。
「また逃がしてしまいましたが……。でもあの妖狐は危険なので、早く何とかしないと……」
言葉には焦りがにじみ出ていた。あかりは「危険ってどういうこと?」と首を傾げた。
「あの妖狐は現在の帝が直接使役している最強の妖狐なのです」
そこであかりと結月ははたと顔を見合わせた。千代の言を信じるなら、あのとき顔を隠していた式神使いは帝本人ということになる。
「だから気配がおかしかったんだね……」
「うん。……大事に至らなくて、良かった」
あかりと結月が囁き合っていると、「陰の国の現状は以上です」と一樹が締めくくった。続けて千代が話を引き取る。
「皆様にお伝えしたいことはもうひとつあります」
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