【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第九話 訪れる転機

第九話 五

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花見を始めて半刻ほど経過したころ。
「ねえ、あかりちゃん」
 素面の香澄と酒の入った梓があかりに絡んできた。
「あかりちゃんはー、どんな人が好みぃ?」
「好み?」
「そうそう。好きな男の子とかいないのー?」
 男性陣は男性陣でかたまっていて、あかりたちの話は聞こえていないようだった。
 ぱっと先ほどの結月の微笑みが蘇ったが、あかりはそれを打ち消すように首を振った。
「いないいない。今はそれどころじゃないでしょ。陽の国に尽くす、御上様の勅命に従う。そのために私は強くならなくちゃいけないんだから」
「もー、あかりちゃんまでまつりみたいなこと言うんだからっ」
「さすが母娘ねぇ」
 母の名が自然に出てきたが、場は暗くならなかった。それだけ母の死から時が経ったということだ。あかりは半年前に降霊した母に会ったが、亡くなったのはそれよりずっと前のことなのだから当然と言えば当然だった。そして、あかりはそのことを悲しいとは思わなかった。母とはきっちりと決別できたからだろう。
「お母様も私みたいなこと言ってたの?」
 あかりが苦笑いで訊くと、香澄と梓はそろって頷いた。
「誰より強くなってみんなを守るのよ、ってよく息巻いていたわ」
「まあ、実際うちの旦那より強かったしね」
「そっか。お母様らしいや」
 若いころの母の姿が目に浮かぶようだった。あかりは小さく微笑んだ。
 すると突然、梓があかりの肩に腕を回した。
「そんなことより、本当にいないの~?」
 にやにやして問い詰めてくる表情は秋之介とよく似ていた。これは完全に面白がられているときの顔だとすぐに気が付いた。
「うちの息子……にあかりちゃんはもったいないかー。あ、昴くんなんかどう?」
「どうって……昴はお兄ちゃんみたいなものだし、ないかなぁ」
 呆れながらも一応は答える。すると今度は香澄が膝を寄せてきた。
「だったらうちの結月なんてどうかしら?」
「ええ? 結月だって私にとってはお兄ちゃんみたいなものだよ。大体、昴も結月も私をそういう対象には見てないでしょ」
「そうかしら? 少なくとも結月はあかりちゃんのことがかわいくて仕方ないみたいだけど」
「もう、香澄おば様までからかわないで」
 あかりがため息をつきながら二人をあしらっていると、男性陣でかたまっていたはずの菊助が突如として乱入してきた。
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