105 / 388
第八話 喪失の哀しみに
第八話 一〇
しおりを挟む
乾の結界は玄舞家と白古家のちょうど中間、北西に位置している。碁盤の目状に整備された道をこのときばかりは忌々しく思う。直線で突っ切れたら最短の道のりになるのに、それができないからだ。
もどかしく思いながら、あかりと結月はひた駆けた。
やがて目的の乾の結界周辺にたどり着いた。そこではまさに秋之介と昴が、式神に囲まれ応戦しているところだった。
気配を消し、木立に隠れながら、あかりは式神と式神使いを確認した。
「式神使いは少ないね」
目算で式神使いは四人。対して式神は十数体はいそうだ。
一人あたりの戦力が強いことが予想されるが、裏を返せば一人でも倒したら式神の数はぐっと減るということだ。
あかりは隣で同じように身を隠す結月に視線をやった。
「遠当法がいい?」
結月が頷く。
「おれが、霊符で式神使いの動きを、止める。その間に、お願い」
「……よし、行こうっ!」
あかりは承知すると、相手の隙を見て木立から飛び出した。結月も追随して、霊符を使役する。
「動静緊縛、急々如律令」
「安足遠、即滅息、平離乎平離……」
あかりと結月の登場に、秋之介と昴も驚いた式神使いの動きを封じては、式神を無力化していく。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
あかりを取り巻く赤い光の奔流が次第に輝きを増していく。
「……絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反」
舞い終えたあかりは、円を描くように周囲を斬り払った。
「急々如律令!」
動きを制され、光の波紋を当てられた式神使いたちが次々と気を失って倒れていく。それで式神も符に姿を変えた。しかし、一体だけ消えない式神がいた。
「主が倒れても消えないか……。ちっ、厄介だな」
式神の包囲から解かれた秋之介が舌を打った。
正面には獅子の式神が身を低くして構えている。いつでも飛び出せる体勢だった。
あかりが一歩前に出る。
「邪気を払えばいいんだよね」
結月たちが頷いたのを見て、あかりは霊剣で相手に向かって宙を斬った。
「朱咲護神、急々如律令!」
邪気を払えば囚われた魂も元の持ち主のもとへ還っていくはず。少なくともあかりはそのつもりで邪気払いを買って出た。しかし、現実は違った。
式神は光を発し、つま先から消滅していっているようだった。
まただ、とあかりは呆然と思った。
昔はこんなことなどなかった。邪気を払えば穢れた魂は浄化され、無事持ちのもとへ還っていった。
だが、最近はどうも勝手が違うことが多くなった。囚われた魂は穢れきり、浄化では済まされなくなる。結果として邪気を払うと、魂ごと消滅してしまうのだった。
もどかしく思いながら、あかりと結月はひた駆けた。
やがて目的の乾の結界周辺にたどり着いた。そこではまさに秋之介と昴が、式神に囲まれ応戦しているところだった。
気配を消し、木立に隠れながら、あかりは式神と式神使いを確認した。
「式神使いは少ないね」
目算で式神使いは四人。対して式神は十数体はいそうだ。
一人あたりの戦力が強いことが予想されるが、裏を返せば一人でも倒したら式神の数はぐっと減るということだ。
あかりは隣で同じように身を隠す結月に視線をやった。
「遠当法がいい?」
結月が頷く。
「おれが、霊符で式神使いの動きを、止める。その間に、お願い」
「……よし、行こうっ!」
あかりは承知すると、相手の隙を見て木立から飛び出した。結月も追随して、霊符を使役する。
「動静緊縛、急々如律令」
「安足遠、即滅息、平離乎平離……」
あかりと結月の登場に、秋之介と昴も驚いた式神使いの動きを封じては、式神を無力化していく。
「青柳、白古、朱咲、玄舞、空陳、南寿、北斗、三体、玉女!」
あかりを取り巻く赤い光の奔流が次第に輝きを増していく。
「……絶命、即絶、雲、斬斬足、斬足反」
舞い終えたあかりは、円を描くように周囲を斬り払った。
「急々如律令!」
動きを制され、光の波紋を当てられた式神使いたちが次々と気を失って倒れていく。それで式神も符に姿を変えた。しかし、一体だけ消えない式神がいた。
「主が倒れても消えないか……。ちっ、厄介だな」
式神の包囲から解かれた秋之介が舌を打った。
正面には獅子の式神が身を低くして構えている。いつでも飛び出せる体勢だった。
あかりが一歩前に出る。
「邪気を払えばいいんだよね」
結月たちが頷いたのを見て、あかりは霊剣で相手に向かって宙を斬った。
「朱咲護神、急々如律令!」
邪気を払えば囚われた魂も元の持ち主のもとへ還っていくはず。少なくともあかりはそのつもりで邪気払いを買って出た。しかし、現実は違った。
式神は光を発し、つま先から消滅していっているようだった。
まただ、とあかりは呆然と思った。
昔はこんなことなどなかった。邪気を払えば穢れた魂は浄化され、無事持ちのもとへ還っていった。
だが、最近はどうも勝手が違うことが多くなった。囚われた魂は穢れきり、浄化では済まされなくなる。結果として邪気を払うと、魂ごと消滅してしまうのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!
昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。
ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。
この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。
------------------------------------
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる