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第八話 喪失の哀しみに
第八話 八
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厨に行き、料理番に声を掛けると料理番は「もうすぐできますよ」と言い、あかりたちには客間で待つように告げた。あかりたちは言われた通りに先ほどの客間に戻った。
「今日のお昼ご飯は何だろうね」
あえて普段のような明るい声でそう言って、あかりは三人を振り返った。
昴のことも和也のことも忘れてはいない。親しい仲間を失って、あかりだって悲しい。しかしここで暗い顔をすることはしたくなかった。あかり以上に辛いはずの昴がいつも通りに振る舞おうとしているから、あかりも彼の意に沿いたいと思った。
その思いは結月や秋之介も同じで、彼らもあかりの調子にあわせて、話に乗ってくれた。
「俺は肉が食いたい」
「さっき見たけど……、今日は、魚」
「……まあ、魚でもいいけどよ」
「お魚かぁ。焼くのもいいけど煮るのも美味しいよね」
あかりたちの会話に聞き入っていた昴だったが、しばらくすると会話の輪に加わってきた。
「今日はサバの味噌煮だよ。さっき教えてもらったんだ」
昴はにこりと微笑んだ。笑ってくれたことも話に入ってきてくれたことも嬉しくて、あかりはぱっと顔を輝かせた。
「わあ! 楽しみ!」
「あかりちゃんがここに来てから、料理番の腕がさらに上がってる気がするよ」
昴はおかしそうに小さく噴き出した。
「美味しいものを食べると元気になるからね。食事って大事だと思うよ」
「うん、そうだね」
徐々にいつもの四人らしさが戻ってきていることに安心したからかもしれない。四人は顔を見合わせて笑いあった。
すると梁を軽く叩く音がした。
「失礼いたします。お食事をお持ちしました」
「どうぞ、入って」
昴の声に膳を持った給仕の者が入室してくる。彼女たちは洗練された動きで食事の場を整えると、きれいな一礼をして客間を出ていった。
膳を見て、あかりは目を輝かせた。
「今日のお昼ご飯も美味しそう!」
つやのあるふっくらした白米に、葱とわかめと豆腐の味噌汁。主菜は昴が教えてくれたようにサバの味噌煮で、副菜には大根と人参の紅白なますときんぴらごぼうの二つの小鉢がついていた。ちなみに柴漬けも添えられている。
一汁三菜がそろった献立は、栄養面はもちろん見た目にも食欲をかきたてられる。
「いただきます!」と手を合わせてから、あかりはさっそく箸をとって味噌汁をすすった。丁寧にとられた出汁の香りと風味豊かな味噌の味に心とお腹がほっと満たされるのを感じ、あかりは目を細めた。
「玄舞家のお味噌汁はやっぱり美味しいね」
「こだわってるみたいだからね」
味噌汁の椀を置いた昴が穏やかに微笑む。
(昴もちょっとは元気になったかな)
白米を咀嚼しながら、あかりは昴を見て、それから向かいに座る結月と秋之介に視線を移した。
結月は箸で器用にサバの小骨を取り除いている。その隣では秋之介がなますの酸っぱさに口をすぼめていた。それを見て、あかりは頬を緩めた。
ありふれた食事時の光景だと思う。だがそこには確かに大事な幼なじみがいて、会話と笑顔がある。
四人一緒なら支え合える。辛いことも乗り越えていける。
なにげないこのひと時が疲れも悲しみも僅かにでも癒してくれたらいいと、あかりは胸の内でそっと願った。
「今日のお昼ご飯は何だろうね」
あえて普段のような明るい声でそう言って、あかりは三人を振り返った。
昴のことも和也のことも忘れてはいない。親しい仲間を失って、あかりだって悲しい。しかしここで暗い顔をすることはしたくなかった。あかり以上に辛いはずの昴がいつも通りに振る舞おうとしているから、あかりも彼の意に沿いたいと思った。
その思いは結月や秋之介も同じで、彼らもあかりの調子にあわせて、話に乗ってくれた。
「俺は肉が食いたい」
「さっき見たけど……、今日は、魚」
「……まあ、魚でもいいけどよ」
「お魚かぁ。焼くのもいいけど煮るのも美味しいよね」
あかりたちの会話に聞き入っていた昴だったが、しばらくすると会話の輪に加わってきた。
「今日はサバの味噌煮だよ。さっき教えてもらったんだ」
昴はにこりと微笑んだ。笑ってくれたことも話に入ってきてくれたことも嬉しくて、あかりはぱっと顔を輝かせた。
「わあ! 楽しみ!」
「あかりちゃんがここに来てから、料理番の腕がさらに上がってる気がするよ」
昴はおかしそうに小さく噴き出した。
「美味しいものを食べると元気になるからね。食事って大事だと思うよ」
「うん、そうだね」
徐々にいつもの四人らしさが戻ってきていることに安心したからかもしれない。四人は顔を見合わせて笑いあった。
すると梁を軽く叩く音がした。
「失礼いたします。お食事をお持ちしました」
「どうぞ、入って」
昴の声に膳を持った給仕の者が入室してくる。彼女たちは洗練された動きで食事の場を整えると、きれいな一礼をして客間を出ていった。
膳を見て、あかりは目を輝かせた。
「今日のお昼ご飯も美味しそう!」
つやのあるふっくらした白米に、葱とわかめと豆腐の味噌汁。主菜は昴が教えてくれたようにサバの味噌煮で、副菜には大根と人参の紅白なますときんぴらごぼうの二つの小鉢がついていた。ちなみに柴漬けも添えられている。
一汁三菜がそろった献立は、栄養面はもちろん見た目にも食欲をかきたてられる。
「いただきます!」と手を合わせてから、あかりはさっそく箸をとって味噌汁をすすった。丁寧にとられた出汁の香りと風味豊かな味噌の味に心とお腹がほっと満たされるのを感じ、あかりは目を細めた。
「玄舞家のお味噌汁はやっぱり美味しいね」
「こだわってるみたいだからね」
味噌汁の椀を置いた昴が穏やかに微笑む。
(昴もちょっとは元気になったかな)
白米を咀嚼しながら、あかりは昴を見て、それから向かいに座る結月と秋之介に視線を移した。
結月は箸で器用にサバの小骨を取り除いている。その隣では秋之介がなますの酸っぱさに口をすぼめていた。それを見て、あかりは頬を緩めた。
ありふれた食事時の光景だと思う。だがそこには確かに大事な幼なじみがいて、会話と笑顔がある。
四人一緒なら支え合える。辛いことも乗り越えていける。
なにげないこのひと時が疲れも悲しみも僅かにでも癒してくれたらいいと、あかりは胸の内でそっと願った。
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