【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

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第七話 邂逅と予兆

第七話 一

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 新年から十日以上が経ち、日常が戻った睦月中旬のことである。あかりたちは玄舞家に集まり、この日の予定を確認していた。
「今日は結界巡回の当番の日だね」
「組み分けはするの?」
 あかりが尋ねると秋之介が欠伸をしながら答えた。
「最近は結界に問題があるとかって報告は来てないんだろ? だったら適当に二人ずつに分けるんでいいんじゃね?」
「確かに秋くんの言う通りなんだけどさ。それにしたって油断は禁物だよ」
 昴は秋之介の緊張感に欠けた態度に呆れ眼を向けると適当に組み分けをする。組み分けは自然とあかりと結月、秋之介と昴になった。
 玄舞家の屋敷から一番近い坎を開始地とし、あかりと結月は反時計回りに、秋之介と昴は時計回りに巡回していき、南朱湖周辺にある離の結界あたりで落ち合うことを決め、各々目的地へと向かった。
「そういえば、結月と二人で結界巡回なんて小さいとき以来じゃない? 最近までは大体四人で回ってたし」
 結月は静かに頷いた。
「年末年始は陰の国も大人しかった」
 敵国が戦いを仕掛けてこないのは喜ぶべきことのはずなのに、結月の顔は晴れない。それはあかりも同じで、不安そうな顔を結月に向けた。
「嵐の前の静けさみたいだよね……」
「うん。陰の国は何、考えてるんだろうね……」
 陰の国との関係は長年緊張状態が続いていたが、侵攻してくることまではなかった。あからさまに攻めてくるようになったのはここ十年くらいのことである。
 一体陰の国になにがあったのか。なぜ陽の国にまで干渉するようになったのか。実情も理由も目的も、なにひとつわからない。
 その現実があかりの不安を煽るようだった。こぼれた呟きは少しだけ震えていた。
「何か、手がかりでもいいから陰の国のことが分かればいいのにね」
 結月も同じように考えていたのか、それともあかりの抱く恐怖を感じ取ったのか。彼は言葉で何かを伝えることはしなかったが、代わりにあかりの右手を掬い取った。昔から口下手な結月はあまり多くを言葉にしないが、その分行動で優しさを示す。今だってそうだ。あかりは声なき『大丈夫』の声を確かに聞いた。
(そうだ。私にはみんながいる。だから大丈夫。いつか戦いのない日だってきっと……)
 落ち着きを取り戻したあかりが「ありがとう、結月」と小さく呟くと、それに応えるようにつないだ結月の左手に一瞬だけ力が込められた。
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