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第四話 希望の光と忍び寄る陰
第四話 一〇
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仕事着の緋袴から私服の単衣の着物に着替え、それに合わせて巫女のように一つに束ねていた髪もお嬢様結びに変えた。
あかりよりも早く着替え終わった結月たちは、お供え物の花や線香、果物を用意していたらしい。あかりが合流すると早速南朱湖に向かった。
昨日と同じく玄舞大路を通り、中央御殿を通り過ぎる。さらに南に下っていくと朱咲大路に入った。
朱咲大路はかろうじて道だと判じられる程度だった。辺り一帯何もない更地だったからだ。真南を向くと南朱湖が望める。遮る物は何一つない。
住むべき者も治める者もいない南の地を再建する余裕などなかったのだろう。それでも瓦礫や朽ちた家を残さずに管理だけはしてくれていたようだ。あかりにとってはそれだけで十分だった。
あかりの反応を伺うような沈黙だったが、当の本人は「行こうか」と穏やかに言って歩を進めた。三人も後に続く。
朱咲門があったところ、朱咲家の屋敷跡を通過して、あかりはまっすぐ南朱湖に向かった。いつかの惨状が悪夢であったとしか思えないほど、目の前に広がる湖は静かだった。
湖の前にはきれいな花束やまだ新しい果物などが複数供えられている。あかりたちもそれらに倣って持ってきた物をお供えした。
あかりは自身の狐火で火をつけた線香を足元に置くと、固く目を閉じて手を合わせた。
(ただいま、みんな。遅くなっちゃたけどちゃんと帰ってきたよ。優しかったみんなならおかえりって笑って迎えてくれたんだろうね。声が聞けなくて、顔が見られなくて、寂しいな……)
それから二年間の出来事や陽の国に戻ってきてからの出来事を話した。
(御上様の勅命は、私の使命でもあると思ってる。この国を護ることも大事なものを失わないことも、……みんなの仇をとることも)
さらにきつくまぶたを閉じる。ほとんど無意識の動作だった。
(まずは基礎の稽古からだけどね。どうか見守っててください。……また来るからね)
あかりが語り終わるのを結月たちは急かすことなく待っていてくれた。腰を上げたあかりは振り向くと、来たときよりも幾分晴れた顔付きで微笑んだ。
「待っててくれてありがとう」
三人は首を横に振った。朱咲門の方へと踵を返しながら、秋之介が提案する。
「せっかくここまで来たんだし、寄り道して帰ろうぜ」
「いいね。私もまだ見てないところ一巡りしたいな」
あかりが結月と昴の顔を覗き込むと、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「あかりちゃんにおねだりされちゃうと断れないよねえ」
「うん。秋だけなら稽古に連れ戻してたけど」
「ゆづも昴も、あかりに甘すぎねえ⁉」
「あかりはどこ行きたいの?」
「まずは西と東の地かな。できればおじ様たちにも会いたいし」
「じゃあ行こうか」
昴を先頭に、皆は東に向かった。
あかりよりも早く着替え終わった結月たちは、お供え物の花や線香、果物を用意していたらしい。あかりが合流すると早速南朱湖に向かった。
昨日と同じく玄舞大路を通り、中央御殿を通り過ぎる。さらに南に下っていくと朱咲大路に入った。
朱咲大路はかろうじて道だと判じられる程度だった。辺り一帯何もない更地だったからだ。真南を向くと南朱湖が望める。遮る物は何一つない。
住むべき者も治める者もいない南の地を再建する余裕などなかったのだろう。それでも瓦礫や朽ちた家を残さずに管理だけはしてくれていたようだ。あかりにとってはそれだけで十分だった。
あかりの反応を伺うような沈黙だったが、当の本人は「行こうか」と穏やかに言って歩を進めた。三人も後に続く。
朱咲門があったところ、朱咲家の屋敷跡を通過して、あかりはまっすぐ南朱湖に向かった。いつかの惨状が悪夢であったとしか思えないほど、目の前に広がる湖は静かだった。
湖の前にはきれいな花束やまだ新しい果物などが複数供えられている。あかりたちもそれらに倣って持ってきた物をお供えした。
あかりは自身の狐火で火をつけた線香を足元に置くと、固く目を閉じて手を合わせた。
(ただいま、みんな。遅くなっちゃたけどちゃんと帰ってきたよ。優しかったみんなならおかえりって笑って迎えてくれたんだろうね。声が聞けなくて、顔が見られなくて、寂しいな……)
それから二年間の出来事や陽の国に戻ってきてからの出来事を話した。
(御上様の勅命は、私の使命でもあると思ってる。この国を護ることも大事なものを失わないことも、……みんなの仇をとることも)
さらにきつくまぶたを閉じる。ほとんど無意識の動作だった。
(まずは基礎の稽古からだけどね。どうか見守っててください。……また来るからね)
あかりが語り終わるのを結月たちは急かすことなく待っていてくれた。腰を上げたあかりは振り向くと、来たときよりも幾分晴れた顔付きで微笑んだ。
「待っててくれてありがとう」
三人は首を横に振った。朱咲門の方へと踵を返しながら、秋之介が提案する。
「せっかくここまで来たんだし、寄り道して帰ろうぜ」
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あかりが結月と昴の顔を覗き込むと、二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
「あかりちゃんにおねだりされちゃうと断れないよねえ」
「うん。秋だけなら稽古に連れ戻してたけど」
「ゆづも昴も、あかりに甘すぎねえ⁉」
「あかりはどこ行きたいの?」
「まずは西と東の地かな。できればおじ様たちにも会いたいし」
「じゃあ行こうか」
昴を先頭に、皆は東に向かった。
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