【本編完結】朱咲舞う

南 鈴紀

文字の大きさ
上 下
28 / 389
第四話 希望の光と忍び寄る陰

第四話 五

しおりを挟む
 昴が直々に淹れた緑茶を飲み、一息ついていると「それで」と、昴が切り出した。一瞬で引き締まった空気に、彼がこの後何を話そうとしているのかわかって、あかりは居住まいを正した。
「お察しの通り、この二年間に何があったのか、お互いの話をしよう」
 あかりが視線を落としたのを見て、昴は柔らかくも芯の通った声で付け加える。
「酷なことを言ってる自覚はあるし、無理にとは言えないけど。でも、できれば話してほしいんだ」
 昴の声に促されて顔を見上げれば、彼は痛みを堪えるような微笑みを浮かべていた。それだけで、この二年の間に昴に悲しいことがあったとうかがい知れた。そして、それを自身の口から話す覚悟もしているということも。
 そんな昴の誠意に正面から向き合いたいとあかりは思った。自分だけ逃げるような真似はしたくない。
 あかりは慎重に頷いた。
「わかった。私から話すね」
 あかりは朱咲の屋敷へ駆けて行ったところから、順を追って説明した。
 南朱湖の惨状、母の死、謎の符を目にしたこと。両親からのお守りをなくし、おぼれて気を失ったこと。半月後に目が覚めたら陰の国の牢中であったこと。それから粗末な食餌、暴言、暴力に加え、式神に下そうと何度も襲われたこと。それでも修行は続けていたこと。
 三者三葉に途中不機嫌そうな顔はしていたが、結月たちは一言も口を挟まずに、最後まであかりの話を聞いていた。
 話を聞き終えて最初に口を開いたのは昴だった。
「辛いこと話してくれてありがとう。それから……ごめんね」
「昴……」
 彼の言う「ごめんね」は話をさせたことだけでなく、早く助けに行けなかったことを悔やむような響きがあった。現実主義で、過去だと割り切って引きずらない昴にしては考えられない言葉だった。
 困惑したあかりは助けを求めて結月と秋之介を見たが、彼らもまた沈痛な面持ちで黙り込んでいる。
 焦りに駆られて、引き留めようとした結月の手をかいくぐったのはあかりだ。その上囚われて、迷惑も心配もかけ続けて、謝るべきは自分の方なのに、これでは立つ瀬がなくなってしまう。あかりは必死に言葉を紡いだ。
「謝らないで。勝手をして謝らなきゃいけないのは私だよ。みんなは助けに来てくれたじゃない。ありがとう、本当に」
 あかりの思いかあるいは言霊でも伝わったのか、昴たちはようやく顔を上げた。
「あかりちゃんは強いね」
 昴が目を細めてあかりを見つめた。あかりは首を傾げるばかりだ。
「強い?」
「そう。希望を見失わず、己を見失わず。いつでも真っ直ぐな君が変わらないでいてくれて、本当に良かった」
 昴の瞳が一瞬翳る。しかし深呼吸をひとつして、不穏な色を飲み込んだ。
「あかりちゃんがいない間にこっちであったことは僕から話すね」
 特に異論を差しはさむ者はおらず、話は進んだ。
 南の地の人々はほぼ全員亡くなり、葬式は直後に執り行われたこと。あかりの父の亡骸は未だ見つかっていないこと。結界巡回は三人で行っていて、時折あかりの声や気配は感じていたこと。陰の国が再侵攻してきて、標的の結月と秋之介を守っていた昴だったが、その間に昴の父や母、玄舞家の術使いの半数が殉死したこと。現在の四家当主はあかりも含むここにいる四人であること。
 自分がいたら何か変わっていたのだろうか。詮ない自問に答えは出せないままだった。
 代わりにあかりは別のことを口にした。
「私の声、届いてたんだね……」
 結月がゆっくりと頷いた。
「あかりが諦めないで頑張ってくれてたから、おれたちも頑張れた」
「やっぱあかりがいないとな。張り合いがなくてつまんないぜ」
「改めて、あかりちゃん、おかえりなさい」
 やっと、心から帰りたかった自分の居場所に戻ってくることができた。胸を震わせる安堵と喜びのままに、あかりはぱっと花咲くように笑った。
「待っててくれて、迎えに来てくれてありがとう。ただいま!」
 太陽みたいに眩しく明るい笑顔は、結月たちにとって希望の光そのものに映った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

処理中です...