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第一話 崩壊の雨音
第一話 七
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式神使いと式神を倒すのに、そう時間はかからなかった。
しかし予想外の出来事に、三人は足止めを食らっていた。
「くっそ! 南朱湖だけじゃなく、東青川も氾濫かよ……!」
あかりの後を追おうと朱咲大路を駆け出してすぐに、左手に広がる東の地が騒がしいことに気づいた。避難してきた町民が結月たちに知らせてくれたのは、東青川が氾濫したということ、被害状況は未だ確認できていないということだった。
「降雨による被害だとは考えにくいね……」
昴が顎に手を添えて考え込む。
「人為的な感じもするよな。陰の国は式神使いの集団だし」
秋之介と昴がぽつぽつと話している間、結月は町人から大体の話を聞いていた。
「ここらはまだ救いようがありますがね。相生は水ですし、当主様もご健在ですし」
町人はあかりがいないことに気づいているためか、言いにくそうに少し声を潜めた。
「南の地は……ひどい有様だそうで……」
結月はひとつ頷くと、焦れたように切り出した。
「……市太郎さん、迂回路はわかる?」
市太郎は結月の心情を慮って、素直に質問に答えた。
「朱咲大路はもう使えません。ちっと遠回りになるが西奥の白古通ならまだなんとか……」
「ありがとう、市太郎さん。あかりを見つけたらすぐに戻るから。父にもそう伝えておいてください」
結月は軽く頭を下げると、教えられたとおり白古通に向かって駆け出した。途中から話を聞いていた秋之介と昴も同じく駆け出す。
北斗通を西に突き進み、白古通に至る。さらに白古通を下って、玉女通に入った。西の地と南の地の境で、秋之介がほんの僅かに歩を緩めた。
「……あかりの、叫び声」
「急ごう」
駆けに駆けて、ようやく南朱湖の西端に出た。三人は朱咲門、次いで屋敷の方向を眺めて言葉を失った。
屋敷があった場所には何もなく、南の地の民が島のように浮いていた。
あまりに惨い光景に、しばらく立ち尽くしてしまう。
「さっきの叫び声は、これを見て……」
「っ! あかりちゃん! いる⁉」
一番に声を張り上げたのは昴だった。我にかえった結月と秋之介もあかりの名を呼ぶ。
滝のような雨に打たれながら水中を進んでいくと、水深が徐々に増すことがわかって、結月はぞっとした。秋之介と昴も同様に感じたようで、その声に焦りがにじむ。
「お願いだから、おぼれてるなよ……!」
「秋、縁起でもないこと言わないで!」
常の穏やかさはなく、当り散らすように結月が叫ぶ。秋之介の言葉に腹がたったのも事実だろうが、己の不甲斐なさに苛立ちを感じているような思いつめた顔をしていた。
「こんなときにけんかしないの。ちょっと僕、水中見てみるから」
玄舞は水を司るため、昴は泳ぎが得意だ。濁った水に臆することなく、水中に潜った。水底を泳ぎ進めて、数分後、昴が浮上した。その手には赤い何かが握られている。
「おぼれてはいないみたい。ただ、もっとまずいことになったかも」
結月と秋之介の側に戻ってくると、拾ったものを二人に見せた。
しかし予想外の出来事に、三人は足止めを食らっていた。
「くっそ! 南朱湖だけじゃなく、東青川も氾濫かよ……!」
あかりの後を追おうと朱咲大路を駆け出してすぐに、左手に広がる東の地が騒がしいことに気づいた。避難してきた町民が結月たちに知らせてくれたのは、東青川が氾濫したということ、被害状況は未だ確認できていないということだった。
「降雨による被害だとは考えにくいね……」
昴が顎に手を添えて考え込む。
「人為的な感じもするよな。陰の国は式神使いの集団だし」
秋之介と昴がぽつぽつと話している間、結月は町人から大体の話を聞いていた。
「ここらはまだ救いようがありますがね。相生は水ですし、当主様もご健在ですし」
町人はあかりがいないことに気づいているためか、言いにくそうに少し声を潜めた。
「南の地は……ひどい有様だそうで……」
結月はひとつ頷くと、焦れたように切り出した。
「……市太郎さん、迂回路はわかる?」
市太郎は結月の心情を慮って、素直に質問に答えた。
「朱咲大路はもう使えません。ちっと遠回りになるが西奥の白古通ならまだなんとか……」
「ありがとう、市太郎さん。あかりを見つけたらすぐに戻るから。父にもそう伝えておいてください」
結月は軽く頭を下げると、教えられたとおり白古通に向かって駆け出した。途中から話を聞いていた秋之介と昴も同じく駆け出す。
北斗通を西に突き進み、白古通に至る。さらに白古通を下って、玉女通に入った。西の地と南の地の境で、秋之介がほんの僅かに歩を緩めた。
「……あかりの、叫び声」
「急ごう」
駆けに駆けて、ようやく南朱湖の西端に出た。三人は朱咲門、次いで屋敷の方向を眺めて言葉を失った。
屋敷があった場所には何もなく、南の地の民が島のように浮いていた。
あまりに惨い光景に、しばらく立ち尽くしてしまう。
「さっきの叫び声は、これを見て……」
「っ! あかりちゃん! いる⁉」
一番に声を張り上げたのは昴だった。我にかえった結月と秋之介もあかりの名を呼ぶ。
滝のような雨に打たれながら水中を進んでいくと、水深が徐々に増すことがわかって、結月はぞっとした。秋之介と昴も同様に感じたようで、その声に焦りがにじむ。
「お願いだから、おぼれてるなよ……!」
「秋、縁起でもないこと言わないで!」
常の穏やかさはなく、当り散らすように結月が叫ぶ。秋之介の言葉に腹がたったのも事実だろうが、己の不甲斐なさに苛立ちを感じているような思いつめた顔をしていた。
「こんなときにけんかしないの。ちょっと僕、水中見てみるから」
玄舞は水を司るため、昴は泳ぎが得意だ。濁った水に臆することなく、水中に潜った。水底を泳ぎ進めて、数分後、昴が浮上した。その手には赤い何かが握られている。
「おぼれてはいないみたい。ただ、もっとまずいことになったかも」
結月と秋之介の側に戻ってくると、拾ったものを二人に見せた。
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