醜い皮を被った姫君

ばんご

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笑顔は人を幸せにする

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その日から私は沈んだ気持ちにしかなれなかった
彼は私を慰めるかのように、毎日綺麗な花束を贈ってくれた
今は自分の父のことで、いろんなことで忙しいのに申し訳なかった

けど彼は疲れた顔も見せずに、微笑む
そんな彼に私はぎこちなく微笑むしかできなかった

そんな私の様子を見て、彼は私を抱きしめて

『貴方の痛みを、私が変われたらいいのに』

『いいえ、これは私の心の問題で
 私が弱いから、非難の言葉は慣れてい
 たのに』

彼はゆっくりと首を振る
まるで違うと言ってるように

『あなたは弱くない、強い女性です
 非難の言葉に慣れてはいけません』

彼は私の痛みを、自分の痛みのように受け取っているようで、少しだけ痛みが和らいだ気がした

そんなある日、彼の母が私に会いに訪れた 
私を心配していてくれたらしい

おもてなしをしようと思ったが、逆におもてなしされている始末になってしまっていた

皆、私に優しく接してくれる
嬉しくて自然と笑みを浮かべていた

その表情に御母様は嬉しそうに微笑んだ

『そう、その顔が素敵よ
 貴女の笑顔は人を幸せにするわ』

笑顔は人を幸せにする、それは素敵な言葉
けれどふとした瞬間に過ってしまう
彼の父の心に、言葉が届かなかったことを

『けれど、私…』  

『言葉だけが全てじゃない、そう思わない?
 微笑みかければ、微笑んでくれる
 誰か一人行動すれば、一緒に歩んでくれる
 仲間もいる』

御母様はきっと、夫の話をしているのだろう
あえて名前を出さずに

『確かに言葉は大事よ、人の心に響く
 原動力なのかもしれないわね

 けれど、人によっては原動力は違うもの
 かもしれないわ
 言葉であったり、笑顔、行動、仲間
 そして愛する人とかね』

御母様は遠回しに言いながら、私の手を取り
真剣な瞳で、何かを伝えようとしている

『あの人にとって、あなたの言葉は
 伝わらなかった
 なら言葉ではなくて、あの人自身が
 理解できるような何か他にもあるはずよ』

そこで私は御母様が伝えたかったものが
わかった

難しくて、困難な道のりなのかも
けれど諦めるな、と心が訴えてる

今まで凍てついた心が、ゆっくりとじんわりとあたたかみが増していった

『御母様、ありがとうございます
 私、頑張ってみようと思います』

『貴女は諦めるような人じゃないから
 諦めるなんて、らしくない

 ここからは貴女次第よ
 何かあれば相談に乗るわ』

自分らしくない、そうなのかもしれない
彼からは言葉をもらって
御母様からは、言葉が全てじゃないことを

私はいろんな人に励まされ、支えられている
ほんの少しの勇気があれば、きっと大丈夫

私は駆け出した 未来を掴む為に
彼と、幸せになる為に





 
 

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