醜い皮を被った姫君

ばんご

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祝福の言葉

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見えるものだけが全てじゃない
見えないものにも、愛というものがあるのだと、私はこの時知った

しばらく父と話をした
父と娘の会話を 

話をしてるうちに私は叔父のことを聞いてみた 父の兄の話を

『お父様は、叔父様のことをどう思って
 いらっしゃいますか?兄なのでしょう?』

気まずそうに、父は私から視線を逸らした
あの事件について、気を遣ってくれているのかもしれない

『あの事件のことなら、大丈夫です
 だから、話してください』

父は恐る恐る言葉を口にした
その話は決していい話ではないと物語るように


『私の兄は…とても歪んでいた人だった
 虐げられている人を見ながら微笑み
 家族以外を見下していた 家畜のように

 そして美しい侍女が城にやってくると
 …事に及んだ

 その事に私の父は兄を後継者に選ばず
 私に全てを一任した』

当時を振り返るように、父は遠い目をしていた

『兄はその事に腹を立てた
 あの頃からきっと、私を憎んでいたの
 だろう

 そして国を売った 王族として
 恥ずべき事だ
 あの人は兄ではなく、犯罪者だ

 お前にも危害を加えた
 父として、許せないのだ』

『叔父様とは、お話をしたのですか?』

『…ああ、兄は全て受け入れると
 自分が犯した罪を全て

 きっとお前の愛した人の言葉が
 心に響いたのだろうな
 そして気付かされたと、過ちに気付いたと
 そう言っていた』

愛した人の言葉、それは彼しかいなかった
あの時、彼は言葉だけで叔父を圧倒していた

そんな彼の強さに、私も惹かれたのだ
自然に笑みを浮かべていて、父もつられたように微笑んでいた

『微笑んだ顔が、妻に似ている』

『お母様に?』

『ああ、とても笑顔が素敵な人だった
 どんな困難な時も笑顔を絶やさなくて
 最後の時も微笑むようにして逝った』

懐かしむように父はゆっくりと亡き母を語った
最愛の妻を亡くして、父はどれだけ悔しかったのだろう

その悔しさがあってこそ、私に結びついて
見守りながらの愛を注いでくれた

『お母様はきっと見守ってくれていますよ
 きっと』

『…そうだな』

あの夢の出来事は私とお母様の秘密
お空の上ではお母様に見守られ、地上はお父様に愛されている

私は幸せ者だ

『お前は、王子と結婚するのだろう?』

急に婚姻の話を振られ、私はゆっくりと頷く

『近々挨拶に行くと、伝えておいてくれ
   少し早いかもしれないが…
 幸せになりなさい』

思いを言葉にしてくれたことが嬉しくて 
私は舞い上がったように、父に抱きついた

父は頬を少し赤らめていたが、悪い気はしないようで、その手はとても優しくてあたたかった

言葉って本当に素敵なもの


 
 
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