醜い皮を被った姫君

ばんご

文字の大きさ
上 下
21 / 31

夢から覚める時

しおりを挟む
母の話を聞き、私は涙した
ずっと母に愛されないでいたと、きっと恨みながら逝ってしまったに違いないと

けど、違ったのだ
母だけは私の味方でいてくれて、私を愛してくれた
それが嬉しくて、私は母に抱きついた
抱きつきながら、子供のように泣いた

母はそんな私に、慰めるように髪を撫でてくれた 
その温もりだけでも涙腺が崩壊していく

これは悲しい涙じゃない、嬉しい涙だから余計に心に響くのだ

思いっきり泣いた後、母は一瞬ためらかったように見えたが、ゆっくりと口にする

『貴女は、お父さんのことどう思ってる?』

お父様、ずっと視界に入らないようにしてきた
それが最善だと思った
私と話す時も目線を合わせることもなかったから

『…わからないです
 ずっと関わるのを遮断されて、知ろうとも
 しなかったから…』

『あの人はきっと、貴女と関わるのを
 怖がっているだけ』

『お父様が…?そんなわけないです
 だって好きにすればいいって
 言うだけで…』

俯きながら否定すると、母が首を横に振った

『あの人は臆病なの 口では娘じゃないって
 言ってる割に、心と体は理解してるのよ
 
 そして貴女に関わりたいと思っている
 顔によく出るのよ、あの人』

懐かしむようた小さく微笑む母

『言葉も足りないのよ
 私に対してもそう、だから余計に
 あの人は後悔してると思うの
 貴女にしてきたことを、悔やんで
 自分を責めてる』

そんな母の言い分に理解できなかった
けど父のことを知らない私にとって、否定することはできない

父のことを愛している母だから、理解できることなのかもしれない
 
『お父様は…私と向き合ってくれますかね』

自信なさげに言うと、母は笑顔で頷いた

『貴女がほんの少し勇気を出せばきっと
 あの人も答えてくれるはず
 
 いままであの人がしてきたこと
 許せとは言わないわ
 けれど、あの人は貴女のことを娘として
 見てること、それだけはわかってほしい』

小さく頷くと、母は寂しそうに微笑み

『もう時間みたいね』

すると母の姿がどんどん透けていった
手を伸ばすが、先ほどまで触れ合った感覚がなくなるように、すり抜けていく

虚しさと焦りが私の中で燻るようだ

『嫌です、せっかく会えたのに
 さよなら、したくないです!』

『愛しい子、別れは必ずあるものよ
 それが私と貴女には早すぎただけ

 私はいつでも貴女を見守っている
 それを忘れないでね』

涙目になりながらも、頷く
そして最後に母は、優しく私を抱きしめ
耳元で囁いた

私の本当の名前を

『さぁ、貴女を待っている人がいるわ
 夢から覚める時間よ

 愛してるわ、ずっと』

『お母様、大好きです
 私絶対にお母様のこと、忘れません!』

母は透けていてわずかに見える程度になってしまったが、その表情は笑顔で美しかった

それが母と最初で最後の思い出だった



 
 



しおりを挟む

処理中です...