醜い皮を被った姫君

ばんご

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愛している人の元へ

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どんな状況だと、彼らの思い通りにはさせたくなかった

そんな時室内の扉が勢いよく開き、彼が現れた
埃まみれの一室に、私は両手を縛られ、叔父は私に覆い被さっている始末

そしてそれを傍観する彼の父
その現状に誰もが驚きを隠せない事であろう

醜い姫と言われても、彼女は王族の身
危害を及ぼし、誘拐とも言える現状に
罪は重くなる事であろう

彼の入室が合図と共に兵達が王を縄で縛り上げる 抵抗しているが、王の身であっても許されない事であった

『父上、なんてことを!』

ここまで彼女の身に危害を加えるとは思わず、唇を噛み締める
だが、今は姫の安全確保が大事だ

彼が私の元へ駆け寄ろうとするが、一足遅かったようで叔父はそうはさせないと、私の喉元にナイフを当てがった

『動けばこの姫の命はない』

勝ち誇ったような目で叔父は高笑いした
彼は悔しがる様子も見せず、叔父をその目で貫き通していた

『その行為に責任は取れますか?』

皮膚越しに触れてるナイフが微かに揺れた
動揺しているのだろうか

『今ならまだやり直せるでしょう
 けれど貴方の無謀な行いのせいで
 私の大切な人は貴方にされたこと
 すべて体で覚えています

 加害者よりも被害者の方が
 深い闇に落ちていくのですよ
 それを貴方は、
 理解した上でのことですか?』

ゆっくりと話してはいるが、その声音は怒りに満ちている じわじわと相手を威圧しているようだ

叔父は喉をゴクリと鳴らし、怖気付いたように瞳は揺れていた

『責任が取れない、というなら
 今すぐ彼女を解放してください
    さぁ、どうしますか?』

その言葉を合図に、叔父はゆっくりと私に突きつけていたナイフを離し、私を解放した

両手が縛られていて、方向感覚がわからなくなりながらも、無我夢中で彼の元へと走り出していた 大好きなあの人の元へ

彼は優しく私を抱きしめてくれたが
その体は震えていた いっぱい心配させてしまった事だろう

『姫…無事でよかったです
 怪我は…していませんか?』

『痛みはありますが、大丈夫です
 心配かけて、ごめんなさい』

私は彼がこの場に来てくれたことに、安堵し緊張が解けたようで、そのまま意識を手放した

彼女の手が縛られていた縄を解くと
うっすらと手首に縄が擦れた後があり、血が滲んでいた

どれだけ怖い思いをさせただろう 
一人で心細かっただろう
もう一度、彼女を抱きしめゆっくりと立ち上がり、兵に指示を出しその場を後にした

 
隠密にその場を処理したかったが、母が姫が誘拐されたことを耳にし、訪ねてきた

『王子、あの子は…大丈夫なの?』

『まだ目を覚まさなくて…なんとも
 言えません
 精神的、身体的苦痛が蓄積している
 可能性があるかもしれません』

母はベットで眠っている彼女の髪をゆっくり撫でた
彼の父にも連絡したが、見舞いにすら来なかった
こちらで看病することに対しても、好きにしていい、とそれだけだった

娘が誘拐され、傷つけられたのにそんな様子になんとも言えなかった

『母上、父のことは…』

『わかっていてよ、覚悟はできています
 貴方の決断に私は従いますわ、王子』

母は強い人だ 父には勿体無いくらいだが
彼にとっての母は誇らしくもあった

そして彼は事を勧める 大罪を冒した者達を
罰する準備を 
それを実行するには彼女の意思も必要だ
被害にあった彼女にその権利はある

今は目を覚まさない彼女のことが気がかりで
仕方がなかった



 



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