醜い皮を被った姫君

ばんご

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素敵な贈り物

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御母様の耳飾りはとても綺麗で身につける事が勿体ないと感じてしまった

けれど御母様の言葉を思い出して、それを身につけた

彼は耳飾りをつけた私を見て、褒めてくれた

『綺麗な耳飾りですね、とても
 似合ってます』

『王妃様…御母様貰ったものなの』

『母に? ずいぶん親しくなったのですね
   私も負けていられません』

母に対抗心を見せる彼がとても可愛らしくて
少し笑ってしまった

その瞬間を見逃さない彼は、私の手を取り

『もっと笑ってください
 貴女の笑顔はとても素敵です
 私でさえ魅了されてしまうものですから』

そんなことはない、と言うつもりだったが
先程の御母様の言葉を思い出して、頷いた

自信は今もないけれど、彼の言葉を否定はしたくない 堂々と胸を張れる自分でいたいと思った

『ですが先にやられてしまいましたね
 私も貴女に贈り物をしようと思って
 いましたのに…』

悔しそうに言う彼 彼の面白い一面を見れてまた私は笑った

『私は王子にたくさんのものを
 貰ってますよ』

そして彼の唇に自分の人差し指を触れる

『貴方は私にたくさんの言葉をくれた
 その言葉の一つ一つに言霊が宿って
 私を何度も支えてくれました

 あの時の私にとっては
 素敵な贈り物です』

それは紛れもない本心、あの頃の私にとっての唯一の心の居どころだったもの

彼の言葉を思い出す度に、心が温かくなって
前を向いていられた日々

あの頃の私は、彼に対する感情を
『慕っている』と思っていた

気づかないうちに、『愛している』に変わっていたのに

小さい頃、世話係が言ってたことを思い出した
非難の言葉を浴び続け、心を閉ざしていた時
世話係だけは私の味方でいてくれた

泣いている私に、彼女だけは私を優しく慰め、愛を注いでくれた
私はそれを素直に受け取れなかった

それをわかっていても、彼女は私を愛し続けた

『姫様、いつかきっと貴女のことを理解して
 くれる、支えてくれる方が訪れますよ』

『そんなことない…だって皆、私のこと!』

『私は信じております その時姫様は
 知るでしょう 人の素晴らしさを』

『今の私にはわからないわ』  

否定し続けても、彼女は優しい瞳で私を慰めるように、言葉を紡ぐ

『大丈夫ですよ
 その時にはもう貴女の心はその人を
 受け入れ、愛しているのですから』

きっと彼女は気休めで言ったんじゃない
もうその時には、私と彼は出会ってたから

私の中で彼に対する思いが芽生えていたのを
知っていたのかもしれない

その時、彼女は言っていた

『姫様、恋はするものではなくて
 落ちているものなのですよ』

(今、わかったわ 彼女の言葉の意味が)


彼は私の言葉を聞き、頬を赤く染めた
そんな表情は、とても可愛らしくて母性がくすぐられるようだった

『私は…思ったことを言ったまでです
 けれど、それで姫が喜んでくれるなら
 たくさんの言葉をいっぱい贈りましょう』

私の手の甲にキスを落とす
まるで、物語に出てくるワンシーンのようだ

この人と添い遂げたい
私たちの道は最初から困難続きだったが
彼がいてくれる限り、前に進んでいける

誰かが隣で支えてくれるって、こんな気持ちになるのね

あたたかくて、嬉しくて、くすぐったい気持ち
けど、自分に自信が持てる、勇気をもらっているよう

彼は私の左手の薬指にキスをして
『絶対に、この指に指輪を贈りますからね
    貴女に似合う美しい指輪を』

お互い微笑み、それが合図のように
彼と口づけを交わした
このあたたかさ、愛しさを手放したくない
失いたくない
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