15 / 29
叶わぬ恋
しおりを挟む
樹の身に降りかかった経緯を全て語り終わった後、二人の間に沈黙が流れた
言葉を交わすことさえも許されるのかわからない空気の中、陽菜は俺に抱きついた
彼女の急な行動に俺は何も言えなかった
その前に陽菜は言葉を紡いだから
『何も言わなくていいよ、ただ少しの間だけ
抱き締めさせて』
俺は陽菜の言葉に、気持ちに答えるように
抱き締め返したかった
けれど、今の俺にそれはできなかった
きっと陽菜も分かった上でそう言ったのだろう
哀しい気持ちが胸の中で溢れるようだった
しばらくして陽菜は顔を上げて、俺の頬を撫でた
心配そうな瞳で俺を見つめる
その瞳は虚ではなくて、陽菜らしく温かい瞳で溢れていた
その瞳の中に映る俺は、無慈悲な悪魔の姿
滑稽な姿に俺は苦笑いするしかなかった
『樹君、話してくれてありがとう
私の為に、こんな…
辛かったよね、苦しかったよね』
『…陽菜の方が苦しんだろう
俺の苦しみなんて些細な物だ』
『けど、一人ぼっちだったでしょう?
私は両親や、ヘルパーさんがいたけど
樹くんはずっと…』
『…一人じゃないよ』
確かに俺は悪魔になって一人だった
けれど、陽菜の存在が俺を孤独から救ってくれた
『陽菜が生きていてくれたから
俺は今まで自分を保っていられたんだ
確かに陽菜が俺を認識できなくて
触れること、温もりを感じることさえ
できなかった
けど陽菜が一生懸命生きて、笑顔で毎日を
過ごせてるならって
他には何もいらなかったんだ』
陽菜が一生懸命、毎日過ごしてる姿を見るたびに俺は絶望しないよう奮い立たせた
控え目で遠慮がちな陽菜が、健気に毎日を生きてる
なら、俺は陽菜を見守っていこうと
見えなくても心は繋がっているはずだからと
心の繋がりだけは誰にも負けない
悪魔でさえも、心の繋がりの縁は断ち切れないはずだ
『どうして、そこまで私の事を?』
『陽菜が大事だからだよ
陽菜が俺に温かい気持ちを教えてくれた
だから、苦しみから笑顔に変えたかった
こんな形で叶う事になるとは
思わなかったけどな』
陽菜を大事だと思う気持ちはきっと、恋なのだろう
恋に理由などはない、必要ないのだ
だって当の本人にしかそれを感じることができないから
そしてそれは自分には過ぎた物、叶うことのない恋
俺も悪魔になって気づいた
その姿、見守っていくたびに陽菜は女性らしくなって、愛しさが溢れていった
こんな形で自分が陽菜に対する思いを気づくとは思わなかった
けれどそれでいい
思うことだけは自由だから
この思いを陽菜に伝える必要はない
陽菜には俺じゃない人と結ばれて欲しいから
『わ、私も樹君が大事だよ
だから、だから…!』
顔を真っ赤にして頑張って思いを伝えようとしてる健気な姿が可愛らしかった
けど陽菜は最後の言葉を紡ぐことは、できなかった
時間が迫っていたから
陽菜の言葉を遮るように、空間が歪んでいく
当然のことに驚きを隠せない陽菜
その歪みが俺に警告をしてるようだった
『陽菜…君と過ごす時間はもう後残り少ない
そして危機も迫っている』
そして俺は名残惜しそうに陽菜の頬に触れた
血色なく青白い手、魂を容易く狩れる伸び切った指先
自分ごときが触れるべきではないと、物語ってるように俺の目には映った
だからそっと触れて離した
『樹君…残り時間って、それに危機って?』
『俺と陽菜は契約上の関係
もう陽菜の願いを叶えてしまった
だから、もう…』
これ以上は言わなくても分かるだろう
陽菜は悟ったように頷く
『わかった、じゃあ私は今から樹くんに
魂をあげなくちゃいけないのね
せっかく会えたのに…』
俺は無言を貫いた
何かを言って仕舞えば、決意が揺らいでしまいそうだったから
だから俺は、自分の為に陽菜を利用する
今の俺は、非道で最低な悪魔のリアムだから
だから、これでいいんだ
『陽菜、リアムとして問う
心残りはないか?』
『私はもうたくさん貰ったから、十分ほどに
もう、何もいらない』
そう言い、陽菜の言葉に頷いて
俺は雛の魂を刈り取る儀式をする
最初の契約の時に、おでこに口付けをした
それは俺にしか見えない契約の証
俺の所有者という意味も含まれる
陽菜の前髪をかき上げて、おでこに口付けをする
その感触に陽菜が体がビクリと震えたが一瞬のこと
それに構わず、魂の取引をしようとしたその時俺の思惑通りに彼女が乱入してきた
俺を絶望の底に落とした悪魔、アリアだ
この空間の中では契約者同士しか入れない
けれど、魂の縛りが結ばれている樹がいるから アリアは入ってこれるのだった
『さぁ、私の為に魂を捧げてちょうだい?』
その勝ち誇った妖艶な瞳に、魂を捧げる価値はあるのだろうか
言葉を交わすことさえも許されるのかわからない空気の中、陽菜は俺に抱きついた
彼女の急な行動に俺は何も言えなかった
その前に陽菜は言葉を紡いだから
『何も言わなくていいよ、ただ少しの間だけ
抱き締めさせて』
俺は陽菜の言葉に、気持ちに答えるように
抱き締め返したかった
けれど、今の俺にそれはできなかった
きっと陽菜も分かった上でそう言ったのだろう
哀しい気持ちが胸の中で溢れるようだった
しばらくして陽菜は顔を上げて、俺の頬を撫でた
心配そうな瞳で俺を見つめる
その瞳は虚ではなくて、陽菜らしく温かい瞳で溢れていた
その瞳の中に映る俺は、無慈悲な悪魔の姿
滑稽な姿に俺は苦笑いするしかなかった
『樹君、話してくれてありがとう
私の為に、こんな…
辛かったよね、苦しかったよね』
『…陽菜の方が苦しんだろう
俺の苦しみなんて些細な物だ』
『けど、一人ぼっちだったでしょう?
私は両親や、ヘルパーさんがいたけど
樹くんはずっと…』
『…一人じゃないよ』
確かに俺は悪魔になって一人だった
けれど、陽菜の存在が俺を孤独から救ってくれた
『陽菜が生きていてくれたから
俺は今まで自分を保っていられたんだ
確かに陽菜が俺を認識できなくて
触れること、温もりを感じることさえ
できなかった
けど陽菜が一生懸命生きて、笑顔で毎日を
過ごせてるならって
他には何もいらなかったんだ』
陽菜が一生懸命、毎日過ごしてる姿を見るたびに俺は絶望しないよう奮い立たせた
控え目で遠慮がちな陽菜が、健気に毎日を生きてる
なら、俺は陽菜を見守っていこうと
見えなくても心は繋がっているはずだからと
心の繋がりだけは誰にも負けない
悪魔でさえも、心の繋がりの縁は断ち切れないはずだ
『どうして、そこまで私の事を?』
『陽菜が大事だからだよ
陽菜が俺に温かい気持ちを教えてくれた
だから、苦しみから笑顔に変えたかった
こんな形で叶う事になるとは
思わなかったけどな』
陽菜を大事だと思う気持ちはきっと、恋なのだろう
恋に理由などはない、必要ないのだ
だって当の本人にしかそれを感じることができないから
そしてそれは自分には過ぎた物、叶うことのない恋
俺も悪魔になって気づいた
その姿、見守っていくたびに陽菜は女性らしくなって、愛しさが溢れていった
こんな形で自分が陽菜に対する思いを気づくとは思わなかった
けれどそれでいい
思うことだけは自由だから
この思いを陽菜に伝える必要はない
陽菜には俺じゃない人と結ばれて欲しいから
『わ、私も樹君が大事だよ
だから、だから…!』
顔を真っ赤にして頑張って思いを伝えようとしてる健気な姿が可愛らしかった
けど陽菜は最後の言葉を紡ぐことは、できなかった
時間が迫っていたから
陽菜の言葉を遮るように、空間が歪んでいく
当然のことに驚きを隠せない陽菜
その歪みが俺に警告をしてるようだった
『陽菜…君と過ごす時間はもう後残り少ない
そして危機も迫っている』
そして俺は名残惜しそうに陽菜の頬に触れた
血色なく青白い手、魂を容易く狩れる伸び切った指先
自分ごときが触れるべきではないと、物語ってるように俺の目には映った
だからそっと触れて離した
『樹君…残り時間って、それに危機って?』
『俺と陽菜は契約上の関係
もう陽菜の願いを叶えてしまった
だから、もう…』
これ以上は言わなくても分かるだろう
陽菜は悟ったように頷く
『わかった、じゃあ私は今から樹くんに
魂をあげなくちゃいけないのね
せっかく会えたのに…』
俺は無言を貫いた
何かを言って仕舞えば、決意が揺らいでしまいそうだったから
だから俺は、自分の為に陽菜を利用する
今の俺は、非道で最低な悪魔のリアムだから
だから、これでいいんだ
『陽菜、リアムとして問う
心残りはないか?』
『私はもうたくさん貰ったから、十分ほどに
もう、何もいらない』
そう言い、陽菜の言葉に頷いて
俺は雛の魂を刈り取る儀式をする
最初の契約の時に、おでこに口付けをした
それは俺にしか見えない契約の証
俺の所有者という意味も含まれる
陽菜の前髪をかき上げて、おでこに口付けをする
その感触に陽菜が体がビクリと震えたが一瞬のこと
それに構わず、魂の取引をしようとしたその時俺の思惑通りに彼女が乱入してきた
俺を絶望の底に落とした悪魔、アリアだ
この空間の中では契約者同士しか入れない
けれど、魂の縛りが結ばれている樹がいるから アリアは入ってこれるのだった
『さぁ、私の為に魂を捧げてちょうだい?』
その勝ち誇った妖艶な瞳に、魂を捧げる価値はあるのだろうか
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
悪魔騎士の愛しい妻
NA
恋愛
望まない結婚を強いられそうになった没落令嬢ヴァイオレットは、憂いを帯びた美貌の貴公子エリックに救われた。
しかし、彼は不老の悪魔だった。
ヴァイオレットが彼の横で胸を張っていられる、若く美しい時間はあっと言う間に過ぎ去った。
変わらぬ美貌のエリックに群がる女たちへの嫉妬で、ヴァイオレットはやがて狂っていく。
しかし、エリックはいつまでも優しく、ヴァイオレットに愛を囁き続けて……
これは、悪魔に魅入られた女の物語。
および、召使いによる蛇足。
★ご注意ください★
バッドエンドのろくでもない話です。
最後に笑うのは悪魔だけ。
一話1000字前後。
全9話で完結済。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
【完結】夫は王太子妃の愛人
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。
しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。
これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。
案の定、初夜すら屋敷に戻らず、
3ヶ月以上も放置されーー。
そんな時に、驚きの手紙が届いた。
ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。
ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる