悪魔と契約した少女

ばんご

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叶わぬ恋

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樹の身に降りかかった経緯を全て語り終わった後、二人の間に沈黙が流れた

言葉を交わすことさえも許されるのかわからない空気の中、陽菜は俺に抱きついた

彼女の急な行動に俺は何も言えなかった
その前に陽菜は言葉を紡いだから

『何も言わなくていいよ、ただ少しの間だけ
 抱き締めさせて』

俺は陽菜の言葉に、気持ちに答えるように
抱き締め返したかった
けれど、今の俺にそれはできなかった

きっと陽菜も分かった上でそう言ったのだろう
哀しい気持ちが胸の中で溢れるようだった

しばらくして陽菜は顔を上げて、俺の頬を撫でた

心配そうな瞳で俺を見つめる
その瞳は虚ではなくて、陽菜らしく温かい瞳で溢れていた

その瞳の中に映る俺は、無慈悲な悪魔の姿
滑稽な姿に俺は苦笑いするしかなかった

『樹君、話してくれてありがとう
 私の為に、こんな…
 辛かったよね、苦しかったよね』

『…陽菜の方が苦しんだろう
 俺の苦しみなんて些細な物だ』

『けど、一人ぼっちだったでしょう?
 私は両親や、ヘルパーさんがいたけど
 樹くんはずっと…』

『…一人じゃないよ』

確かに俺は悪魔になって一人だった
けれど、陽菜の存在が俺を孤独から救ってくれた

『陽菜が生きていてくれたから
 俺は今まで自分を保っていられたんだ

 確かに陽菜が俺を認識できなくて
 触れること、温もりを感じることさえ
 できなかった

 けど陽菜が一生懸命生きて、笑顔で毎日を
 過ごせてるならって
 他には何もいらなかったんだ』

陽菜が一生懸命、毎日過ごしてる姿を見るたびに俺は絶望しないよう奮い立たせた

控え目で遠慮がちな陽菜が、健気に毎日を生きてる
なら、俺は陽菜を見守っていこうと
見えなくても心は繋がっているはずだからと

心の繋がりだけは誰にも負けない
悪魔でさえも、心の繋がりの縁は断ち切れないはずだ

『どうして、そこまで私の事を?』

『陽菜が大事だからだよ
 陽菜が俺に温かい気持ちを教えてくれた
 だから、苦しみから笑顔に変えたかった

   こんな形で叶う事になるとは
 思わなかったけどな』

陽菜を大事だと思う気持ちはきっと、恋なのだろう
恋に理由などはない、必要ないのだ
だって当の本人にしかそれを感じることができないから
そしてそれは自分には過ぎた物、叶うことのない恋

俺も悪魔になって気づいた
その姿、見守っていくたびに陽菜は女性らしくなって、愛しさが溢れていった

こんな形で自分が陽菜に対する思いを気づくとは思わなかった

けれどそれでいい
思うことだけは自由だから
この思いを陽菜に伝える必要はない
陽菜には俺じゃない人と結ばれて欲しいから

『わ、私も樹君が大事だよ
 だから、だから…!』

顔を真っ赤にして頑張って思いを伝えようとしてる健気な姿が可愛らしかった

けど陽菜は最後の言葉を紡ぐことは、できなかった
時間が迫っていたから

陽菜の言葉を遮るように、空間が歪んでいく
当然のことに驚きを隠せない陽菜
その歪みが俺に警告をしてるようだった


『陽菜…君と過ごす時間はもう後残り少ない
 そして危機も迫っている』

そして俺は名残惜しそうに陽菜の頬に触れた
血色なく青白い手、魂を容易く狩れる伸び切った指先

自分ごときが触れるべきではないと、物語ってるように俺の目には映った
だからそっと触れて離した
 
『樹君…残り時間って、それに危機って?』

『俺と陽菜は契約上の関係
 もう陽菜の願いを叶えてしまった
 だから、もう…』

これ以上は言わなくても分かるだろう
陽菜は悟ったように頷く

『わかった、じゃあ私は今から樹くんに
 魂をあげなくちゃいけないのね
    せっかく会えたのに…』

俺は無言を貫いた
何かを言って仕舞えば、決意が揺らいでしまいそうだったから

だから俺は、自分の為に陽菜を利用する
今の俺は、非道で最低な悪魔のリアムだから

だから、これでいいんだ

『陽菜、リアムとして問う
 心残りはないか?』

 『私はもうたくさん貰ったから、十分ほどに
 もう、何もいらない』

そう言い、陽菜の言葉に頷いて
俺は雛の魂を刈り取る儀式をする

最初の契約の時に、おでこに口付けをした
それは俺にしか見えない契約の証
俺の所有者という意味も含まれる

陽菜の前髪をかき上げて、おでこに口付けをする
その感触に陽菜が体がビクリと震えたが一瞬のこと

それに構わず、魂の取引をしようとしたその時俺の思惑通りに彼女が乱入してきた

俺を絶望の底に落とした悪魔、アリアだ
この空間の中では契約者同士しか入れない

けれど、魂の縛りが結ばれている樹がいるから アリアは入ってこれるのだった

『さぁ、私の為に魂を捧げてちょうだい?』

その勝ち誇った妖艶な瞳に、魂を捧げる価値はあるのだろうか
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