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陽菜の為に
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『これでよかったんだよな…』
リアムは呟くように、契約した少女、陽菜のことを思い浮かべていた
今は夜、そして満月
悪魔にとっては魂を刈り取るに持ってこいの
環境だが、彼は無闇に無謀に魂を狩らない
悪魔らしくなかった
それもそのはずだ、元は人間なのだから
人間の心を持ったまま、悪魔になった
悪魔達からはいい印象を持たない
だから今夜も一人、悪魔達の冷ややかな視線を浴びるのだ
いつものように満月を見ているが、妙に騒がしくなった
原因は、あの女が来たからだ
『リアム、お久しぶり 元気にしてた?
聞いたわよ、あの子と契約したん
ですって?』
悪魔すらも魅了する、妖艶な雰囲気を持って
俺に接触する彼女は、アリア
悪魔より夢魔の方が合っている気がする
彼女は当然のように俺の隣へ座り、腕を絡めてくる
『悪魔同士で獲物の詮索はしないと
悪魔の中の掟だろ?
それを教えたお前が破るのか、アリア?』
甘い微笑みで彼女は誤魔化す
その表情は俺は不快で仕方がない
『ふふっ、ごめんなさい 風の噂で、ね?
だって滅多に魂の取引ををしない貴方が
するなんて、どんな子か気になって
やっぱりあの子なのね、運命は残酷ね』
楽しそうに語る彼女に嫌気がさすが、アリアが何をしでかすかわからないので、警告だけしておく
『一つだけ言っておく、あの子に干渉
するなよ
干渉したら迷わずお前の存在ごと
消してやる』
『怖い顔…せっかくの綺麗な顔が台無しよ』
アリアは俺の頬をつついて遊んでいる
弄ばれているのだろう、彼女とは馬が合う日は来ないだろう
少し睨むと彼女は竦んだ仕草をしたが、すぐに口を尖らせた
『わかったわよ、一様耳に入れとくわ
あの時のこと知られたらただじゃ
置かないし ねぇ、樹君?』
俺だけに聞こえるように、小さくその名を呼んだ
勝ち誇ったように微笑んで、アリアはその場を去った
そう、陽菜が会いたいのはこの俺だった
容姿が変わり、悪魔になって生き延びた樹
俺は意図的に仕組まれて、人間としての生を終わらせた
悪魔の容姿は酷いものだ
人間の面影を全て失くしてしまうのだから
全てを無にして、新たな体で悪魔としての生を全うする
自分の容姿を見て、最初に感じたのは恐怖だ
本当に自分なのかもわからなかった
中身は俺でも、外見は違うものだから
疑うしかなくて、感情がごちゃごちゃになった
絶望した、苦しんだ
死にたくもなった、けれど悪魔は心臓もないから簡単に死ねない
何度も自死をしても蘇りの繰り返し
絶望しきった俺はふと、陽菜のことを思い出した
泣いてないだろうか、苦しんでないだろうか
そう思っているうちに俺は人間界に降りていた
一目見るだけに
少し見るだけでいいと思ったのに
一目見れば見るほど、欲が出てしまい
絶望した俺には陽菜の存在が支えになっていた
病気と闘いながら陽菜は懸命に生きていた
けど、彼女の命の灯火が消えかけていることが分かり、俺はいても立ってもいられなくて
接触した
きっと俺のことは見えないだろうと思いながら彼女を見ると、陽菜は気づいてくれた
その虚な瞳は、絶望に満ちていた
悪魔になった俺と同じように
陽菜には幸せになってもらいたかった
笑顔でいてもらいたかった
だからその為に、陽菜の願いを叶えたかった
分かりきったことなのに、陽菜の願いは
俺自身のことだって
けど、陽菜が望んでいるんだ
いつも控えめで遠慮がちのあの子が
初めて願ったことだ
だからどんなことになっても、叶えてあげたかった
『その為だったら、俺は身を犠牲にしたって
叶えてやる 陽菜』
リアムは呟くように、契約した少女、陽菜のことを思い浮かべていた
今は夜、そして満月
悪魔にとっては魂を刈り取るに持ってこいの
環境だが、彼は無闇に無謀に魂を狩らない
悪魔らしくなかった
それもそのはずだ、元は人間なのだから
人間の心を持ったまま、悪魔になった
悪魔達からはいい印象を持たない
だから今夜も一人、悪魔達の冷ややかな視線を浴びるのだ
いつものように満月を見ているが、妙に騒がしくなった
原因は、あの女が来たからだ
『リアム、お久しぶり 元気にしてた?
聞いたわよ、あの子と契約したん
ですって?』
悪魔すらも魅了する、妖艶な雰囲気を持って
俺に接触する彼女は、アリア
悪魔より夢魔の方が合っている気がする
彼女は当然のように俺の隣へ座り、腕を絡めてくる
『悪魔同士で獲物の詮索はしないと
悪魔の中の掟だろ?
それを教えたお前が破るのか、アリア?』
甘い微笑みで彼女は誤魔化す
その表情は俺は不快で仕方がない
『ふふっ、ごめんなさい 風の噂で、ね?
だって滅多に魂の取引ををしない貴方が
するなんて、どんな子か気になって
やっぱりあの子なのね、運命は残酷ね』
楽しそうに語る彼女に嫌気がさすが、アリアが何をしでかすかわからないので、警告だけしておく
『一つだけ言っておく、あの子に干渉
するなよ
干渉したら迷わずお前の存在ごと
消してやる』
『怖い顔…せっかくの綺麗な顔が台無しよ』
アリアは俺の頬をつついて遊んでいる
弄ばれているのだろう、彼女とは馬が合う日は来ないだろう
少し睨むと彼女は竦んだ仕草をしたが、すぐに口を尖らせた
『わかったわよ、一様耳に入れとくわ
あの時のこと知られたらただじゃ
置かないし ねぇ、樹君?』
俺だけに聞こえるように、小さくその名を呼んだ
勝ち誇ったように微笑んで、アリアはその場を去った
そう、陽菜が会いたいのはこの俺だった
容姿が変わり、悪魔になって生き延びた樹
俺は意図的に仕組まれて、人間としての生を終わらせた
悪魔の容姿は酷いものだ
人間の面影を全て失くしてしまうのだから
全てを無にして、新たな体で悪魔としての生を全うする
自分の容姿を見て、最初に感じたのは恐怖だ
本当に自分なのかもわからなかった
中身は俺でも、外見は違うものだから
疑うしかなくて、感情がごちゃごちゃになった
絶望した、苦しんだ
死にたくもなった、けれど悪魔は心臓もないから簡単に死ねない
何度も自死をしても蘇りの繰り返し
絶望しきった俺はふと、陽菜のことを思い出した
泣いてないだろうか、苦しんでないだろうか
そう思っているうちに俺は人間界に降りていた
一目見るだけに
少し見るだけでいいと思ったのに
一目見れば見るほど、欲が出てしまい
絶望した俺には陽菜の存在が支えになっていた
病気と闘いながら陽菜は懸命に生きていた
けど、彼女の命の灯火が消えかけていることが分かり、俺はいても立ってもいられなくて
接触した
きっと俺のことは見えないだろうと思いながら彼女を見ると、陽菜は気づいてくれた
その虚な瞳は、絶望に満ちていた
悪魔になった俺と同じように
陽菜には幸せになってもらいたかった
笑顔でいてもらいたかった
だからその為に、陽菜の願いを叶えたかった
分かりきったことなのに、陽菜の願いは
俺自身のことだって
けど、陽菜が望んでいるんだ
いつも控えめで遠慮がちのあの子が
初めて願ったことだ
だからどんなことになっても、叶えてあげたかった
『その為だったら、俺は身を犠牲にしたって
叶えてやる 陽菜』
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