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悪魔の出会い、そして契約
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私は産まれつき弱かった
病気に体が蝕まれていたからだ
外にも出れない、いつも見るのは窓から見える景色と、空気が重たい部屋
小さいころから両親に言われた
『安静にしてれば治る』
いつも大人しくベッド上で横になってるのに
我儘も言ったこともない
けれど容態はいつも変わらない
治ったと思ったら熱が出て、その繰り返し
いつになったら私は、良くなるの?
子供心に両親に泣きついたことがあった
けれど両親は困ったように、笑って誤魔化すだけ
きっと両親もわからないのだ
だからかな、苦しい毎日嫌気がさして
希望よりも、絶望が勝ってしまい願ってしまった
このまま迷惑かけて、ずっと生きていくだったら もういらないから、殺してほしいと
その願いを聞き届けたように、羽ばたく音がし窓に視線を向けるとそこには、一人の青年がいた
青年の背中には、黒い翼が生えていて時折羽ばたく度に羽が床に落ちていた
その髪は漆黒で、瞳は赤かった
驚くほどの容姿に彼は、天へと導く使いなのかと思ったほどだ
青年の瞳が私を写すと、羽をしまい私に近づいた
観察されているようで、とても居心地が悪かった
『貴方は…誰? 私を迎えにきたの?』
弱々しい声で言葉を発すると彼は驚いたようで
『俺が…視えるのか そうか、死期が近づいた
人間は稀に視えると言っていたな
絶望が深い人間ほど…』
その意味深な物言いに、私は何も言えなかった
そんな私の心情もお構いなしに彼は私を見据えた
『俺は悪魔、お前の魂がもうすぐ尽きるので
刈り取りにきたのだが…視えるとなれば
話は別だ』
悪魔、魂を刈り取りにきた
聞き覚えのない言葉に、私は動揺を隠せず
彼の話にもついていけなかった
けど悪魔と名乗った青年は続ける
『取引をしよう、何大したことではない
寿命を迎える哀れな娘、陽菜(ひな)。
最後の刻を過ごす為に、お前の願いを
叶えよう
願いを叶えた暁には、お前の魂を
俺が貰い受ける』
現実味のない話についていけずに、私は何も言えなかった
悪魔と名乗る彼の赤い瞳に、魅了されているように私は彼を見つめ続けた
その瞳は初めて見るのに、懐かしむ自分がいた 何故だろうか?
『どうして…私の名前を…?』
『お前は俺の獲物だ、お前のことは全て
知っている、当然のことだ
さぁ、願え』
当然のように語る悪魔に唖然としながらも
流されないように自分を奮い立たせた
『私は…願うことなんてないわ
もう尽きる命なら、この場で終わらせて…』
言い切る前に彼は私の唇の動きを止めるように指で言葉を制した
『お前は望んでるものがあるだろう
命を捨てたくても、心は捨てられない
お前の中にあるはずだ、陽菜』
陽菜、と名前を呼ばれるとある人を思い出した
今はもう亡き人、私の大切な思い人
樹(いつき)君
近所の付き合いで私を気にかけて、仲良くしてくれた
外に出れない私に、話し相手になってくれた
私にとって初恋の人だった
樹君は大学生で、医学部を目指していた
きっかけは私だったけど、苦しんでる人達を助けてあげたい、その志はとても素敵だった
けれど、樹君は亡くなってしまった
何故かはわからない、真実は隠されたまま
両親に聞いても苦笑いするだけで、当時12歳の私にとっては衝撃的な出来事だった
私の中にある心残りはそれだけ
けれど、それは叶えられることなのか
疑心暗鬼だった
いきなり現れた悪魔
しかも自分の魂を貰うために、願いを叶えてやるなんて、怪しむ人が大半だと思う
『本当に叶えられたとしても、私は
あなたを信用できない』
『信用できないなら、お前が安心できる
条件を追加すればいい』
そして悪魔は、透明な紙をとペンを一瞬で出した まるで魔法のようだった
『俺がお前を裏切ることや、意にそぐわない
ことをした場合、俺はお前に二度と
干渉しない、魂の取引も白紙にする
これでどうだ?』
悪魔は私に紙を見せた
紙に記されていたのは、彼が私の魂を貰う為の契約内容だった
一通り目を通して、彼に視線を向ける
『これは?』
『契約書だ、この内容でよければお前の
名前をサインすれば契約成立になる
それを決めるのはお前だ』
判断を委ねられ、私は困惑した
いや、迷ったのだ
願いを叶えて死ぬか、そのまま自然に死ぬか
そのどちらの選択
今まで自分で決めたことがない彼女にとっては難しい選択だった
『もし、私が拒否をしたら?
あなたは困るんじゃないの…』
『そりゃあ困るさ、悪魔にとって魂は
ご馳走だ
その為に、お前と今交渉している
お前の魂はそれほどに価値があるんだ
最後の刻を、生きててよかったって
思って逝ってもらう為に
俺は陽菜の為に願いを叶える』
その言葉に、樹君の面影と重なった
泣いてる私を慰めるように、彼も同じように言ってくれた
『陽菜、僕はずっと君の味方だ
君が笑顔でいてくれるなら
僕は陽菜の為に願いを叶えるよ』
そう言って優しく微笑むのだ
目の前にいる悪魔も、表情は硬いけど優しく微笑んだ
だからかな、もうこの思いは抑えきれなかった
『樹君に会いたい
何故亡くなってしまったのか知りたい』
そして私は契約書にサインをした
迷いはなかった
『その願いを叶えれば、お前の魂を貰い受け
られるなら、光栄だ』
そう言って微笑み、私のおでこに口付けを落とした
一瞬の出来事で何をしたのか、わからなかった
悪魔は何事もない表情をして、跪く
『我、陽菜の魂を貰い受ける 悪魔、リアム
これより契約は成立した
陽菜の願いを叶える為に、誠意を尽くす』
これが私と彼、リアムと契約が成立した瞬間だった
病気に体が蝕まれていたからだ
外にも出れない、いつも見るのは窓から見える景色と、空気が重たい部屋
小さいころから両親に言われた
『安静にしてれば治る』
いつも大人しくベッド上で横になってるのに
我儘も言ったこともない
けれど容態はいつも変わらない
治ったと思ったら熱が出て、その繰り返し
いつになったら私は、良くなるの?
子供心に両親に泣きついたことがあった
けれど両親は困ったように、笑って誤魔化すだけ
きっと両親もわからないのだ
だからかな、苦しい毎日嫌気がさして
希望よりも、絶望が勝ってしまい願ってしまった
このまま迷惑かけて、ずっと生きていくだったら もういらないから、殺してほしいと
その願いを聞き届けたように、羽ばたく音がし窓に視線を向けるとそこには、一人の青年がいた
青年の背中には、黒い翼が生えていて時折羽ばたく度に羽が床に落ちていた
その髪は漆黒で、瞳は赤かった
驚くほどの容姿に彼は、天へと導く使いなのかと思ったほどだ
青年の瞳が私を写すと、羽をしまい私に近づいた
観察されているようで、とても居心地が悪かった
『貴方は…誰? 私を迎えにきたの?』
弱々しい声で言葉を発すると彼は驚いたようで
『俺が…視えるのか そうか、死期が近づいた
人間は稀に視えると言っていたな
絶望が深い人間ほど…』
その意味深な物言いに、私は何も言えなかった
そんな私の心情もお構いなしに彼は私を見据えた
『俺は悪魔、お前の魂がもうすぐ尽きるので
刈り取りにきたのだが…視えるとなれば
話は別だ』
悪魔、魂を刈り取りにきた
聞き覚えのない言葉に、私は動揺を隠せず
彼の話にもついていけなかった
けど悪魔と名乗った青年は続ける
『取引をしよう、何大したことではない
寿命を迎える哀れな娘、陽菜(ひな)。
最後の刻を過ごす為に、お前の願いを
叶えよう
願いを叶えた暁には、お前の魂を
俺が貰い受ける』
現実味のない話についていけずに、私は何も言えなかった
悪魔と名乗る彼の赤い瞳に、魅了されているように私は彼を見つめ続けた
その瞳は初めて見るのに、懐かしむ自分がいた 何故だろうか?
『どうして…私の名前を…?』
『お前は俺の獲物だ、お前のことは全て
知っている、当然のことだ
さぁ、願え』
当然のように語る悪魔に唖然としながらも
流されないように自分を奮い立たせた
『私は…願うことなんてないわ
もう尽きる命なら、この場で終わらせて…』
言い切る前に彼は私の唇の動きを止めるように指で言葉を制した
『お前は望んでるものがあるだろう
命を捨てたくても、心は捨てられない
お前の中にあるはずだ、陽菜』
陽菜、と名前を呼ばれるとある人を思い出した
今はもう亡き人、私の大切な思い人
樹(いつき)君
近所の付き合いで私を気にかけて、仲良くしてくれた
外に出れない私に、話し相手になってくれた
私にとって初恋の人だった
樹君は大学生で、医学部を目指していた
きっかけは私だったけど、苦しんでる人達を助けてあげたい、その志はとても素敵だった
けれど、樹君は亡くなってしまった
何故かはわからない、真実は隠されたまま
両親に聞いても苦笑いするだけで、当時12歳の私にとっては衝撃的な出来事だった
私の中にある心残りはそれだけ
けれど、それは叶えられることなのか
疑心暗鬼だった
いきなり現れた悪魔
しかも自分の魂を貰うために、願いを叶えてやるなんて、怪しむ人が大半だと思う
『本当に叶えられたとしても、私は
あなたを信用できない』
『信用できないなら、お前が安心できる
条件を追加すればいい』
そして悪魔は、透明な紙をとペンを一瞬で出した まるで魔法のようだった
『俺がお前を裏切ることや、意にそぐわない
ことをした場合、俺はお前に二度と
干渉しない、魂の取引も白紙にする
これでどうだ?』
悪魔は私に紙を見せた
紙に記されていたのは、彼が私の魂を貰う為の契約内容だった
一通り目を通して、彼に視線を向ける
『これは?』
『契約書だ、この内容でよければお前の
名前をサインすれば契約成立になる
それを決めるのはお前だ』
判断を委ねられ、私は困惑した
いや、迷ったのだ
願いを叶えて死ぬか、そのまま自然に死ぬか
そのどちらの選択
今まで自分で決めたことがない彼女にとっては難しい選択だった
『もし、私が拒否をしたら?
あなたは困るんじゃないの…』
『そりゃあ困るさ、悪魔にとって魂は
ご馳走だ
その為に、お前と今交渉している
お前の魂はそれほどに価値があるんだ
最後の刻を、生きててよかったって
思って逝ってもらう為に
俺は陽菜の為に願いを叶える』
その言葉に、樹君の面影と重なった
泣いてる私を慰めるように、彼も同じように言ってくれた
『陽菜、僕はずっと君の味方だ
君が笑顔でいてくれるなら
僕は陽菜の為に願いを叶えるよ』
そう言って優しく微笑むのだ
目の前にいる悪魔も、表情は硬いけど優しく微笑んだ
だからかな、もうこの思いは抑えきれなかった
『樹君に会いたい
何故亡くなってしまったのか知りたい』
そして私は契約書にサインをした
迷いはなかった
『その願いを叶えれば、お前の魂を貰い受け
られるなら、光栄だ』
そう言って微笑み、私のおでこに口付けを落とした
一瞬の出来事で何をしたのか、わからなかった
悪魔は何事もない表情をして、跪く
『我、陽菜の魂を貰い受ける 悪魔、リアム
これより契約は成立した
陽菜の願いを叶える為に、誠意を尽くす』
これが私と彼、リアムと契約が成立した瞬間だった
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