桜の約束

ばんご

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当然の来訪者

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アルバムを閉じると、小鳥は心配そうに
俺の手のひらに乗った
きっと酷い顔をしていたのかもしれない

安心させるように微笑んだつもりだったが
それでも小鳥は僕を見つめ続けた

小さな瞳で何を考えているだろう
小鳥は完治したら、元いた場所に飛び立つのだろう
それを考えると、とても寂しく感じてしまう

僕はもう小鳥に愛着が湧いてしまったのだ

『いっそ、僕もお前と一緒に飛び立てたら
 いいのに
 何も考えず、自由な空へと
 いや、これは現実逃避だな』

小さく笑い、僕はアルバムをしまった
本棚にはまだ家族との思い出の写真が詰まっていたが、もう見る気にはなれない

思い返すだけ、その分僕の心は受け止めきれない
こんなに愛されていた、と思うほどに

一日は早いもので、もう日が暮れようとしていた
そんな時だ、インターホンが鳴った

誰だろうと、少しドアを開けると見知った顔
大人びた女性に成長した、幼なじみの美和がいた

『久しぶり、海里。相変わらず辛気臭い顔して
 ねぇ、入れてよ』

彼女は強引な為、押し返しても諦めがないので
仕方なく家に招き入れた

美和は、家に入ると紙袋一つ僕に突きつけてきた
中身を見ると、タッパーに入ったおかずが諸々

『お母さんが、海里に持っててあげてって
 あんたが一人暮らししてるから心配なのよ
 もう子供じゃないのにね』

『そう思うなら、持ってこなきゃいい
 じゃないか』

『あんたが地元に帰ってくれば、そんな心配
 減るのよ、嫌だったら帰ってくることね』

彼女の母は、僕の母とは姉妹だ
両親が死んだ後、僕の面倒を見てくれたのだ
きっと姉の息子だから、という名目もあったのだろう

けれど、いつまでも迷惑かけてはいられないから
家を出て、今は地元と少し離れたところに暮らしている

定期的に連絡が来るので、返事は返しているが
心配らしい

『てか、海里がこの時間に家にいるなんて
 珍しいわね
 いつもはもっと遅い気がしたけど?』

美和は勘に鋭い、誤魔化しても無駄なのは長年の付き合いで理解している
幼馴染なのもある、彼女は僕より2つ年下なのに
それだけは、納得いかなかった

『…会社をクビになった』

『淡々と喋ることじゃないでしょ!?
 いつよ、クビになったの!』

『…2日前、美和が大袈裟すぎるんだよ』

『あんたが、無頓着すぎるのよ!
 もうーほんと海里は…!』

美和は自分のことのように、顔を真っ赤にして怒りを露わにする
その音に反応したのか、小鳥が鳴いた

僕の手のひらに乗り、感高く泣き続ける
まるで僕を守るかのように

美和は小鳥を目の前にして、今度は愛おしそうに顔を赤らめた
表情が変わる忙しい幼馴染だ

『可愛い!何これ、生きてるの?』

『生きてるに決まってるだろう
 怪我してたから面倒見てる
 完治するまでの間だけだ』

小鳥は主張するように、もう一度鳴いた
 
『ねぇ、触らして!いいでしょ?』

『警戒心強いから、触れないと思うよ』

そう言いながら、美和の前に小鳥を差し出す
予想通りに、身を細くして警戒心を曝け出した

その様子に美和も困り果てたようで、残念そうな表情をしながら、触れそうにないことを理解した

『大丈夫だよ、美和はお前に危害を加えない
 仲良くなりたいだけなんだ』

小鳥に語りたけると、理解したように小鳥はゆっくりと美和の元へとジャンプしながら、進んでいく

そして美和の指先へ少し甘噛みをして、手のひらへ乗った
美和は感動し、身を悶えながら嬉しそうな笑みを浮かべていた

『やばい、可愛いんだけど
 もういっそのこと、飼おうよ!』

『何言ってんだか、駄目に決まってるだろ
 小鳥は野生なんだ、自然に生きるのが
 一番だ』

暫く美和は小鳥と戯れた
相当気に入ってしまったらしい

『美和、それはそうと届け物だけ渡しに
 きたわけじゃないんだろ?』

『なんだ、わかってるじゃない
 そこは無頓着じゃないわね』

美和は小鳥を巣に戻し、僕に向き直る

『海里が仕事を辞めたことは知ってる
 会社の方から家に電話してきたからね

 それで?あんたはこれからどうするの?』

『…考えてるところ』

その答えに、美和は呆れたような表情で僕を見た
ため息も聞こえてきた気がする

『…あまり言いたくないけど
 海里、あんた叔父さんと叔母さんが
 亡くなってから、変わったわ

 いつまであんたはそうし続けるの?
 私達、立派な社会人よ
 過去を引きずってないで、前をむきなさい

 クビになった理由も考えた?
 海里自身が招いた結果よ』

その言葉に、僕は何も言えなかった
美和の言ってることは、正しかったから

僕は高校3年生の時のままで、前を見ようとも
進もうともしない
ただ、その場に佇むことで、自分を守っている

けれど、何故だろう
死にたいとは、思えないのだ
 

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