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第3章 淫武御前トーナメントの章
71話 ラストバトル5♥ 恋に落ちた樽男の目の前で、龍司とやらされるナツキ
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71話 ラストバトル5♥ 恋に落ちた樽男の目の前で、龍司とやらされるナツキ
オネエの音声を使われて、ナツキは傀儡と化した。
命令に逆らえない状態で、樽男を好きにさせられ、そして完堕ちしてしまったのだ。
当初、ナツキは、仮想空間内で体力を回復し、龍司との決戦に望むつもりでいた。
しかし、その願いはナツキが望まぬ形で叶えられることとなったのだ。
休憩を取る時間も身体を洗い流す時間も無いまま、ナツキは鏡の世界から出るなり龍司とまぐわう事となったのだ。
樽男からの逆らえぬ命令によって……。
「あ、ひっ、あ、あぁんっ♥ だ、だめっ、み、見ないで樽男っ、あ、あぁああ♥」
「はははっ、すっげぇな! 未だに樽男にぞっこんか! どんなマジック使った? こんな極上まんこを手玉に取りやがって!」
ナツキが持っていた厄介極まりない三種の忍術。
【影遁、淫遁、無感】
それら全ての力が開花している。
まともにやり合ったなら、龍司といえど使い物にならないくらいに絞り取られていただろう。
最悪ナツキ無しじゃ生きられなくなる。
それほどまでの女と化していた。
そんな忍びの最高峰へと化けたナツキを、樽男はこれ以上ないほどに堕落させた。
龍司が手を下してもここまで堕ちなかったと思うほどに。
龍司の感嘆の声は、心からの敬意だった。
ナツキと初めて立ち合った時、翔子を人質にして動揺を誘えなかったらやられていた。
龍司が抱いたナツキの印象だった。
万が一、ナツキが樽男を堕として異空間から出てきたならば、淫魔は全滅させられる。全てが終わりだ。
ナツキが樽男と一緒に仮想空間に消えてから生まれた、龍司の一抹の不安。
しかし、それら全ての不安は、ナツキを貫いたところで掻き消えた。
不安すら忘れてしまう、慈愛に満ちた肉棒への抱擁だった。
紛れもない淫魔に堕ちて卑猥さを増した絡まりだった。
「ナツキと一緒に消えやがったから、裏切ったんじゃネェかと思ったけど、上出来じゃネェか!」
「……あぁ。そう言ってもらえて光栄だね。わたしも、服部とやれて、ナツキさんともまたやれたんだ。心残りが無いくらいだよ」
「心残り? 縁起でもねぇ。――どうだ? 何か欲しいものあるか? なんでもくれてやるぞ? 今日のオレ様は気分が良い! うぉっ」
ドビュドビュドビュッ!
龍司主体で腰を振っていたにもかかわらず、突然絶頂への臨界へと一っ飛びしたように射精が起きて、龍司は軽い目眩を起こす。
「はぁ…………はぁ、おぉ……、どうしたぁ? ナツキ。中に出されてもっと欲しくなったのか?」
クラクラしていると、精液注いだばかりのナツキがゆっくり身体を起こしてきたのだ。
まるでさらなる精をせがむかのように。
「うっ……」
目眩のせいか、ナツキの身体が二重、三重にぼやけて見えた。
まるで残像を纏っているかのように揺れを刻んでいる。
「あ、あぁんっ? なんだ……こりゃ?」
ついさっき起き上がってきて座位になったばかりだというのに、気付けば腰の上に跨がられていて、龍司は素っ頓狂な声を上げた。
「中出しされて完堕ちか? ……さっそく樽男から乗り換えってかぁあ?」
嘲る口調で問い掛ける。
しかし、龍司の声は普段の人を小馬鹿にするようなトーンでは無く、答えを待ち望んでいることを隠せない、余裕の無さが滲んだ声色だった。
「ふふっ……そんな訳ないでしょ? 射精で堕ちたのはどっち?」
口紅でも塗るように己の唇を指先で撫でたナツキから、子ども臭さ皆無に見下ろされ――ジュボンンッ! 突然、飛び上がるように肉棒を引っこ抜かれた。
「ンゴォォオオオオおおおおおおおおおおおおお゛っ!?」
ビチャビチャ! ビチャアアアッ! ビチャッビチャッ!
肉棒を覆う薄皮を削ぎ取られたような刺激に、龍司の肉棒がまるで手放したホースのような勢いで暴れ狂う。
四方八方に跳ね回り、膣肉から逃げられた肉先が精液を撒き散らす。
それも一度や二度の射精で終わらない。
射精の余韻にもかかわらず、射精が止まらない。
「ぐおっ!? オォッ! な、ナツキィイ!? やめろぉおおおおおおおお!!」
ビチャ! ビチャッ! とナツキの股間目掛けて起こる、噴水のような激しい射精。
真下から照らすスポットライトのような射精がナツキの裸体を妖しく煌めかせた。
大戦の終焉を迎えた感慨深さに、挿入による深い悦楽。
それらによって濁らされていた危機感が蘇り、龍司は必死になって身体を起こそうとするも――
「ウッ゛!?」
グブオッ! と膝を折ったナツキにまたもや肉棒を飲み込まれて、根本から千切らんばかりの力でギヂギヂ締め上げられて、身体をガチガチに硬直させられていた。
「ゥウ゛あ、あ゛ぐ、う、ア゛、あ゛」
――な、何が起きている!?
疑問を抱くも、首を絞められての窒息プレイ以上の呼吸困難に、脳から酸素が消えていく。
浮かんだ疑問さえも混濁させられる。
急激な酸欠に、ナツキの身体がさらに五重、六重に見え始めた。
ナツキ相手に6人プレイをしているかのような贅沢な快感。
苦痛と快楽に板挟みにあって生命の危機を覚えた身体が、子種を残そうと濃い精液を作り出す。
ペニスに血液が雪崩れこみ、そのせいで身体は酸欠が酷くなって、苦痛と快楽が極限まで高まった。
ペニスはペニスで強烈な締め付けに対抗しようと両足がピンッ、と棒のように突っ張り伸びる。
両足の筋肉の筋が、浮き上がるほどに硬直して、足が攣るほどに力が入り、絶頂まで一気に接近する。
「いぎぃ!? や、やめろっ、ぅぉおおお……」
射精を寸前に控えて、肉棒がガチガチに硬直しているなか、突然脱力したナツキ。
その脱力と一緒に龍司の身体からも力が抜けてしまう。
身体から全ての力が溶け落ちていく……、そう錯覚させる脱力感。
射精欲求だけが残され、強烈な絡まりを求めたところで、ギュギュギュウッッ……、雑巾を千切らんばかりに悪魔的な締め付けがやってくる。
「ンゴ、オ、オ、オオオオオオオオオッ!」
全力の硬直と脱力を五度六度と繰り返されて、まるで肉棒をパン生地でも捏ねるかのようにぐにゅりぐにゅりと揉み捏ねられて、へろへろにされた中。
被さるように迫ってきたナツキから唇を奪われ、抵抗の出来ない心までもを蕩かされてしまう。
ま……まずいっ……お、堕ちるっゥウオオオッ!!
「ど、どういうことだぁ! …………た、たるおぉ、や、や、めさせろぉ…………、命令してやめさせろぉ…………」
残った力全てを使って、ヒュル……ヒュル……、と笛の音のような掠れた音を混ぜながら、龍司は助けを求める声をひり出して、樽男に助けを乞うた。
しかし、樽男は返事をしようとしない。
ま、まさか……。
「う、うらぎった……のかぁ…………、な、ナツキを閉鎖空間に連れ込んだのはっ、こ、このためかぁ……!! ナツキを、て、手駒にするっためカアアッ! う、裏切ったのカアァアアッ! ふぐおとこガァアアアアアッ!」
喉が裂けたような声で龍司は樽男を罵った。
しかし、樽男は不気味に笑うでも、勝ち誇るでもなかった。
まるで哀れんだような表情で見下ろしきたのだ。
「違うよ……。龍司さん」
「なにが違うだぁごらぁあ……だるおッ!」
「龍司さん――わたし達の負けなんだよ……」
「ど、どういう意味だっごるぁあっ!?」
まさか……。
「堕ちているのはナツキじゃなくて……樽男、なの……か? っんがっ!?」
仮想空間内で、堕ちたのはナツキでは無く樽男?
樽男が堕とされて、こんな事態に陥っているのか……?
疑問が脳裏で閃き、言葉にした瞬間――、肉棒を食い千切らんばかりの勢いで、ナツキから締め付けられた。
「堕ちているんじゃない。元から樽男が好きだよ?」
会話に割りこんできたナツキに肉棒を根本から先端まで均等に締め上げられて、逃げ場を失った血管が破裂しそうになる。
「ンォオゴ……ご、ごぉ……ゴ、ゴゴ……」
破裂しても、使い物にならなくなっても構わないから放出させたい排泄欲求に駆られていた。
この極上の女の中で果てたい欲求に駆られていた。
吐き出したものが魂でも構わない。
しかし全てを捨てても構わない性欲以上に、性欲を満たす以上に知らずにいられない!
「ドウイウコトダァアアアアアアアアアア!!?」
ナツキが樽男に堕ちている、それは疑いようが無かった。
やっぱり樽男が裏切った!?
……樽男がこの期に及んで嘘をつくか!?
「わたしたちの負けなんだよ」
どういう……いみだ……?
「ワケワカランダロ!!!!!!!!!!」
混乱の渦中、見下ろす冷淡な女から首筋に指先を立てられた。
「ぐゴっ……、が、っハッ……やべ、ろぉ……お゛……」
「さっきから樽男のこと呼び捨てにしてるけど、それ気に入らないんだよね」
「ぐぅあ゛ア゛ア゛アッ゛!? ど、どういうことだっドウイウコトダァアアッ!? なんでだ!? 樽男! コタエロ!!」
未だかつて無い窮地に追い込まれ、龍司は狂ったように叫んでいた。
しかし肉欲に狂って叫んだのではない。
死への恐怖を叫んだのでもない。
「納得……せん……ぞぉ……」
このような失態犯したことなど過去に1度たりとも無い。
だからこそ納得のいく説明が必要だ!
何が起きているのか納得させろ!!!
「ダルオォオオオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛ッ゛!!」
空気を散り散りに切り裂く龍司の叫び。
見かねたように樽男が、はぁ……、と1度深くため息を吐いた。
そしてぼそりと呟いたのだ。
「服部だ。……きみの妹の服部翔子だ」
「妹がなしたってーーーーーー!? なんでアイツがいまさらでてくんノ!!?」
「ナツキさんにワープゲートを作らせたのは、服部からの命令だ。
ゲートの中でナツキさんを堕としたのも、きみの妹、服部翔子からの命令なんだよ」
「な、にぃいっ!? なに言ってやがる!
何言ってんの!? あ、アホらしいッ! な、なにをいってやがる!!?」
「――ほんとうなんだ」
つ、付き合いきれない。ば、バカバカしい!!
「はっきり言えヤ゛ッ゛!! ドウイウコトダァアア!? ナニガドウシテコンナンナッテ゛ンノ゛!?」
あらんばかりの怒声を張り上げる龍司。
陸に釣り上げられて暴れる魚のような身体を囲い込むように、白い霧が立ち籠める。
その霧の中に人影が浮かび、非人間的にぼやけた声で喋り始めた。
「――本領を発揮したナツキには誰も勝てませんわ。ですが。力を全く使いこなせないので、誰かに操らせるのが最善手――。操らせて、龍司を倒す。それが服部翔子の描いた絵図。そうでしょう? 樽男」
どこに隠れていたのかと思えば、白い霧を集めて形を形成した白無垢姿の女・ナツキの母親でもある葉月が、言いながらに姿を現した。
「あぁ……。その通りだよ」
「くっくっくっ…………カーッハッハッハッ!!
ギャアアアッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
完全に侮っていた。
翔子の奴、完全にいかれてやがる。
樽男に完堕ちしたと思っていたが、まさか堕ちていたのは翔子じゃなく樽男だったなんてな……。
翔子のヤロウ……。いつからこんな絵図を描いてやがった。
樽男を堕として、その樽男にナツキを堕とさせるだとぉ?
誰が、こんな何重にも掛けられた鍵のような策を見破れる!?
――しかし詰めが甘い。
全ての鍵を握っている肝心の翔子は龍司の手駒だった。
記憶を失わせ、完堕ちさせた翔子へと視線を向けた。
尻を向けたままぐったり横たわっているが、命令すれば動くだろう。
『樽男を殺せ』
この一言で片が付く。
全てに片が付く。
樽男が死んでしまえば、籠絡されたナツキも術から解放される。
――そうなれば俺の勝ちだ。
ナツキが恐ろしいのは、力を使いこなした場合だけだ。
樽男から解放されたならば、まだ恐れるほどではない。
それでいて、最強の駒になる。
いや、最高の種馬になる。
――ったくややこしいことになりやがって……。
「翔子! 樽男をッ゛!?」
合図を待っていたように、『樽男を殺せ』と言い終える前に、翔子が樽男へ音も無く駆け寄る。
グサッッ!
そんな翔子の眉間にクナイが刺さる。
悲鳴さえ出せないまま倒れていく翔子。
追い打つように、ナツキの指先から飛ぶクナイがグサ、グサッ! と両目を貫き、トドメと言わんばかりにグサッ! と心の臓を射貫いた。
ぴくっ……ぴくぴくっ――。
僅かに起こった痙攣が止まり、死を確認したところでナツキが妖しく笑った。
「……うふふ」
ナツキのやつ、やりやがった……。
操られているとはいえ、主君を躊躇いなく殺しやがった。
翔子に不死鳥が無ければ、この上無しの不忠の臣だ。
まぁそんなことはどうでも良い。
翔子のことだ、死んだ振りして樽男をやる。
それでこの戦いは終わりだ。
今度こそ。
……ったくハラハラさせやがって。
龍司が思っている中、ナツキは妖しい笑みを称えたままに言った。
「オネエの弱点は知り尽くしてる。不死身でも蘇れない」
――……はーんっ………………。
なに!?
耳を疑う台詞を、口元に笑いを称えながらながら吐かれた。
「もう誰も樽男を止められない」
「ま、待てや!? 不死鳥でも蘇れない、……だと……?」
「不死鳥の対策なら打ってある。オネエの不死身は、息絶える前に細胞が異常増殖して命を取り留めるところが肝。命を繋ぎ止めてから身体の再生を始める――。つまり、死を免れるときに起こる肉体の超再生を止めればオネエは死ぬ」
「お、おまえ自分が何をしたかっ、分かってんのか!? 全部終わりだぞ!? なにもかも!! お前は樽男を好きなままで、樽男も翔子に堕ちたまま! 翔子が死ぬってそういうことだぞ!? 一生!!」
「最高♥」
死ぬまで付き纏いそうな、――手に入らないなら樽男を殺すと本気で考えていそうな、そんな猟奇を感じさせるうっとりとした声色だった。
それも悲しいのか嬉しいのか分からない不気味な表情で言って退けてきたのだ。
「た、樽男っ! どうにかしろ!! おまえ翔子に堕とされたんだろ!? 翔子が死んでも良いのか!? よくねぇよな!? 翔子が主だろ!?」
「これでいいらしいんだよ……。この結末も……服部からもらった筋書き通りなんだよ……」
「なんだ……と……」
*****
「樽男先生、腰振りやめないまま聞いてもらえるかしら?」
「なんだね? あまり詰め込まれると肝心なことも忘れてしまうよ。ただでさえ覚えることが多くて大変なんだ……」
「この計略には続きがあるのよ。――この大計が成ったときにはアタシは多分死んでいるわ」
「んんぅ? 龍司を倒した後蘇るんだろう? それを死ぬとは言わないんだよ」
「襲い掛かってくるアタシから先生を守るってことは、ナツキちゃんがアタシを殺すってことよ? ――だからアタシは死ぬ。――ナツキちゃんの手によって死ぬ」
「何を馬鹿なことを……。ナツキさんは服部や、エリナさんと比べて情に脆い……。そんなことにはならないだろう……? ナツキさんには服部は殺せないよ」
「あのー、先生……? そんな甘さを消すために、先生がナツキちゃんを堕として力を引き出すのよ? ほんと大一番を前にして……。しっかりしてほしいものねぇ」
「はは、何を馬鹿げたことを……」
(――服部は本気で死ぬつもりなのかね……)
いくらなんでもそんなはず……。
兄貴を殺すために死ぬ?
死んでは元も子もない……。死んだら、復讐対象がどうなるかも分からないじゃないか……。
流石にそんな馬鹿なことは考えないだろう。
そんな馬鹿なこと……。
服部もかまってちゃん臭いところがあるのかもしれないな……。はは……。
はっ!?
死んでもやるに決まっている!
兄貴が作った淫魔を殺すために、服部は400年間彷徨ってきたんだ。
それだけの為に生きてきたんだ……。
兄貴を殺せるなら死をも厭わないに決まっている。
……服部は……、本気で死ぬ気だ。
「……ちょっと待ってくれ。――服部、死なない方法は無いのかね……?」
――服部は本気だ。本気で死ぬつもりだ。
どうにか、どうにかしなくては。
「前に、そのー言っていただろ。自殺とか自爆とか良くないって、前に言っていただろう……? 実はねぇ、そのはなしなんだが、――わたしも同感なんだ」
「……先生?」
「命の大切さとか、教えてくれただろう……? 教えてくれた人が、命を粗末にしちゃダメじゃ無いか……説得力もなくなるよ」
「ふふっ。そうね。――でも欲張れないわ」
「服部!」
「あの子は、アタシの恐ろしさを一番分かっている。だから本気で襲い掛かってくるわ。龍司に向かっていく以上の強さでアタシに襲い掛かってくるわ。――だから死ぬのは避けられない」
「服部……なんか一緒に考えよう。協力できると思うんだよ。裏切ったこととか謝らせてくれ。もう絶対裏切らない。だから……」
「樽男先生落ち着いて。先生は魅了の術が掛かっているせいでアタシにぞっこんみたいになってるけど、アタシが死んだら魅了の術も解けるから大丈夫よ?」
……とてもじゃないがそうは思えないんだが……。
この気持ちが偽物とは思えないんだが。
術って知ってても関係ないと思うんだが。
*****
はぁ……。現に気持ちに術は関係なかったよ、服部。
「――分かったかね、龍司さん。だから服部が死ぬのも……、そして龍司さんが死ぬのももう止められないんだよ」
「ぐぅ……ど、どうなっでもっ……し、しらねぇ……ぞっ……お、お゛まえらぁ゛……おれが死んで、取り返しのづがないごどになっでも……知らんぞぉ゛……」
不安を炙り出すような、まるで地の底から響いてくるような低くおぞましい声。
負け惜しみにしてはやけに迫力のある辞世の句。
勝敗は決している。
にもかかわらず、それでも聞いたものの心をざわつかせた。
龍司が怨嗟を吐いている中、葉月が樽男に指示を飛ばす。
「トドメを。――無駄に長引かせる必要はありませんわ」
「あ、あぁ……ナツキさん」
「わかった」
「グォゴッギィイッ!?」
天国と地獄が龍司を襲う。
ギヂギヂッ……、ギヂギヂッ……
喋ることさえ許さぬ締め付けで、肺の中にある酸素全てを呻きに変える。
「グゥゴ! オォゴギャア、アガガァガギャ!」
悪魔の産声のような呻きだった。
吐き終えたからと言って吸うことは許されない極限の苦痛。
それが極限の快楽によって中和されるも、このままでは怒りだけは収まらない。
「ゴガァ……ガ……ァガ……ァ……ガァツ! 覚悟ッ、しどげやァ、終わらんゾォ……お゛……ドウナッデモォ゛お゛……オ゛シランゾォオオオオオ――――ッ」
首だけ起き上がろうとしていた身体が、ガグンッ! と1度跳ねて、直後力を失った。
ナツキに跨がられたまま、龍司は痙攣さえしていない。
ただ繋がりあったままの接合部からは、魂を形にしたような、まるでエクトプラズムのような薄い精液が漏れ出ていった。
「お、終わった……のかね……?」
肩の荷が下りて、ぐたっ、と尻餅を付きながらに、樽男は疲労感を隠せずぼそりと呟いた。
龍司は、淫魔の父である。
死んだと思っても油断ならない存在だ。
人知を超えた力を得た樽男であったが、呼吸を止めて死後硬直した龍司を見ても安堵出来ずにいた。
「……えぇ……終わりましたわ」
「はぁ……」
葉月に答えられて、樽男からも魂が抜け出ていそうな重たいため息が漏れた。
しかし、終わったとはいえこの惨事は……。
集団レイプされて捨てられたようなエリナ。
両目を失い、息を引き取った翔子。
そのすぐ隣では龍司が骸と化していて、その腰の上にナツキが跨がっている。
道場の薄暗さも際立って、地獄に見えた。
いくらこうなると知っていたとしても、想像と現実とではあまりにも違う。
想像は現実には遠く及ばない。
――誰か何か喋ってくれ……。会話を続けてくれ。
樽男の思いを察したように、葉月がナツキに寄って手を差し出した。
「ナツキ……、帰りましょ。――いつまでその男の上にッ!?」
ザシュウウッ!!
鮮血の花びらが舞い、葉月の白無垢がまだらな紅色に染められた。
「「「ナッ!?」」」
ナツキに葉月が斬り付けられたのだ。
「うふふふふっ……。みんな殺してあげる」
まだ地獄は終わっていなかった。
オネエの音声を使われて、ナツキは傀儡と化した。
命令に逆らえない状態で、樽男を好きにさせられ、そして完堕ちしてしまったのだ。
当初、ナツキは、仮想空間内で体力を回復し、龍司との決戦に望むつもりでいた。
しかし、その願いはナツキが望まぬ形で叶えられることとなったのだ。
休憩を取る時間も身体を洗い流す時間も無いまま、ナツキは鏡の世界から出るなり龍司とまぐわう事となったのだ。
樽男からの逆らえぬ命令によって……。
「あ、ひっ、あ、あぁんっ♥ だ、だめっ、み、見ないで樽男っ、あ、あぁああ♥」
「はははっ、すっげぇな! 未だに樽男にぞっこんか! どんなマジック使った? こんな極上まんこを手玉に取りやがって!」
ナツキが持っていた厄介極まりない三種の忍術。
【影遁、淫遁、無感】
それら全ての力が開花している。
まともにやり合ったなら、龍司といえど使い物にならないくらいに絞り取られていただろう。
最悪ナツキ無しじゃ生きられなくなる。
それほどまでの女と化していた。
そんな忍びの最高峰へと化けたナツキを、樽男はこれ以上ないほどに堕落させた。
龍司が手を下してもここまで堕ちなかったと思うほどに。
龍司の感嘆の声は、心からの敬意だった。
ナツキと初めて立ち合った時、翔子を人質にして動揺を誘えなかったらやられていた。
龍司が抱いたナツキの印象だった。
万が一、ナツキが樽男を堕として異空間から出てきたならば、淫魔は全滅させられる。全てが終わりだ。
ナツキが樽男と一緒に仮想空間に消えてから生まれた、龍司の一抹の不安。
しかし、それら全ての不安は、ナツキを貫いたところで掻き消えた。
不安すら忘れてしまう、慈愛に満ちた肉棒への抱擁だった。
紛れもない淫魔に堕ちて卑猥さを増した絡まりだった。
「ナツキと一緒に消えやがったから、裏切ったんじゃネェかと思ったけど、上出来じゃネェか!」
「……あぁ。そう言ってもらえて光栄だね。わたしも、服部とやれて、ナツキさんともまたやれたんだ。心残りが無いくらいだよ」
「心残り? 縁起でもねぇ。――どうだ? 何か欲しいものあるか? なんでもくれてやるぞ? 今日のオレ様は気分が良い! うぉっ」
ドビュドビュドビュッ!
龍司主体で腰を振っていたにもかかわらず、突然絶頂への臨界へと一っ飛びしたように射精が起きて、龍司は軽い目眩を起こす。
「はぁ…………はぁ、おぉ……、どうしたぁ? ナツキ。中に出されてもっと欲しくなったのか?」
クラクラしていると、精液注いだばかりのナツキがゆっくり身体を起こしてきたのだ。
まるでさらなる精をせがむかのように。
「うっ……」
目眩のせいか、ナツキの身体が二重、三重にぼやけて見えた。
まるで残像を纏っているかのように揺れを刻んでいる。
「あ、あぁんっ? なんだ……こりゃ?」
ついさっき起き上がってきて座位になったばかりだというのに、気付けば腰の上に跨がられていて、龍司は素っ頓狂な声を上げた。
「中出しされて完堕ちか? ……さっそく樽男から乗り換えってかぁあ?」
嘲る口調で問い掛ける。
しかし、龍司の声は普段の人を小馬鹿にするようなトーンでは無く、答えを待ち望んでいることを隠せない、余裕の無さが滲んだ声色だった。
「ふふっ……そんな訳ないでしょ? 射精で堕ちたのはどっち?」
口紅でも塗るように己の唇を指先で撫でたナツキから、子ども臭さ皆無に見下ろされ――ジュボンンッ! 突然、飛び上がるように肉棒を引っこ抜かれた。
「ンゴォォオオオオおおおおおおおおおおおおお゛っ!?」
ビチャビチャ! ビチャアアアッ! ビチャッビチャッ!
肉棒を覆う薄皮を削ぎ取られたような刺激に、龍司の肉棒がまるで手放したホースのような勢いで暴れ狂う。
四方八方に跳ね回り、膣肉から逃げられた肉先が精液を撒き散らす。
それも一度や二度の射精で終わらない。
射精の余韻にもかかわらず、射精が止まらない。
「ぐおっ!? オォッ! な、ナツキィイ!? やめろぉおおおおおおおお!!」
ビチャ! ビチャッ! とナツキの股間目掛けて起こる、噴水のような激しい射精。
真下から照らすスポットライトのような射精がナツキの裸体を妖しく煌めかせた。
大戦の終焉を迎えた感慨深さに、挿入による深い悦楽。
それらによって濁らされていた危機感が蘇り、龍司は必死になって身体を起こそうとするも――
「ウッ゛!?」
グブオッ! と膝を折ったナツキにまたもや肉棒を飲み込まれて、根本から千切らんばかりの力でギヂギヂ締め上げられて、身体をガチガチに硬直させられていた。
「ゥウ゛あ、あ゛ぐ、う、ア゛、あ゛」
――な、何が起きている!?
疑問を抱くも、首を絞められての窒息プレイ以上の呼吸困難に、脳から酸素が消えていく。
浮かんだ疑問さえも混濁させられる。
急激な酸欠に、ナツキの身体がさらに五重、六重に見え始めた。
ナツキ相手に6人プレイをしているかのような贅沢な快感。
苦痛と快楽に板挟みにあって生命の危機を覚えた身体が、子種を残そうと濃い精液を作り出す。
ペニスに血液が雪崩れこみ、そのせいで身体は酸欠が酷くなって、苦痛と快楽が極限まで高まった。
ペニスはペニスで強烈な締め付けに対抗しようと両足がピンッ、と棒のように突っ張り伸びる。
両足の筋肉の筋が、浮き上がるほどに硬直して、足が攣るほどに力が入り、絶頂まで一気に接近する。
「いぎぃ!? や、やめろっ、ぅぉおおお……」
射精を寸前に控えて、肉棒がガチガチに硬直しているなか、突然脱力したナツキ。
その脱力と一緒に龍司の身体からも力が抜けてしまう。
身体から全ての力が溶け落ちていく……、そう錯覚させる脱力感。
射精欲求だけが残され、強烈な絡まりを求めたところで、ギュギュギュウッッ……、雑巾を千切らんばかりに悪魔的な締め付けがやってくる。
「ンゴ、オ、オ、オオオオオオオオオッ!」
全力の硬直と脱力を五度六度と繰り返されて、まるで肉棒をパン生地でも捏ねるかのようにぐにゅりぐにゅりと揉み捏ねられて、へろへろにされた中。
被さるように迫ってきたナツキから唇を奪われ、抵抗の出来ない心までもを蕩かされてしまう。
ま……まずいっ……お、堕ちるっゥウオオオッ!!
「ど、どういうことだぁ! …………た、たるおぉ、や、や、めさせろぉ…………、命令してやめさせろぉ…………」
残った力全てを使って、ヒュル……ヒュル……、と笛の音のような掠れた音を混ぜながら、龍司は助けを求める声をひり出して、樽男に助けを乞うた。
しかし、樽男は返事をしようとしない。
ま、まさか……。
「う、うらぎった……のかぁ…………、な、ナツキを閉鎖空間に連れ込んだのはっ、こ、このためかぁ……!! ナツキを、て、手駒にするっためカアアッ! う、裏切ったのカアァアアッ! ふぐおとこガァアアアアアッ!」
喉が裂けたような声で龍司は樽男を罵った。
しかし、樽男は不気味に笑うでも、勝ち誇るでもなかった。
まるで哀れんだような表情で見下ろしきたのだ。
「違うよ……。龍司さん」
「なにが違うだぁごらぁあ……だるおッ!」
「龍司さん――わたし達の負けなんだよ……」
「ど、どういう意味だっごるぁあっ!?」
まさか……。
「堕ちているのはナツキじゃなくて……樽男、なの……か? っんがっ!?」
仮想空間内で、堕ちたのはナツキでは無く樽男?
樽男が堕とされて、こんな事態に陥っているのか……?
疑問が脳裏で閃き、言葉にした瞬間――、肉棒を食い千切らんばかりの勢いで、ナツキから締め付けられた。
「堕ちているんじゃない。元から樽男が好きだよ?」
会話に割りこんできたナツキに肉棒を根本から先端まで均等に締め上げられて、逃げ場を失った血管が破裂しそうになる。
「ンォオゴ……ご、ごぉ……ゴ、ゴゴ……」
破裂しても、使い物にならなくなっても構わないから放出させたい排泄欲求に駆られていた。
この極上の女の中で果てたい欲求に駆られていた。
吐き出したものが魂でも構わない。
しかし全てを捨てても構わない性欲以上に、性欲を満たす以上に知らずにいられない!
「ドウイウコトダァアアアアアアアアアア!!?」
ナツキが樽男に堕ちている、それは疑いようが無かった。
やっぱり樽男が裏切った!?
……樽男がこの期に及んで嘘をつくか!?
「わたしたちの負けなんだよ」
どういう……いみだ……?
「ワケワカランダロ!!!!!!!!!!」
混乱の渦中、見下ろす冷淡な女から首筋に指先を立てられた。
「ぐゴっ……、が、っハッ……やべ、ろぉ……お゛……」
「さっきから樽男のこと呼び捨てにしてるけど、それ気に入らないんだよね」
「ぐぅあ゛ア゛ア゛アッ゛!? ど、どういうことだっドウイウコトダァアアッ!? なんでだ!? 樽男! コタエロ!!」
未だかつて無い窮地に追い込まれ、龍司は狂ったように叫んでいた。
しかし肉欲に狂って叫んだのではない。
死への恐怖を叫んだのでもない。
「納得……せん……ぞぉ……」
このような失態犯したことなど過去に1度たりとも無い。
だからこそ納得のいく説明が必要だ!
何が起きているのか納得させろ!!!
「ダルオォオオオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛ッ゛!!」
空気を散り散りに切り裂く龍司の叫び。
見かねたように樽男が、はぁ……、と1度深くため息を吐いた。
そしてぼそりと呟いたのだ。
「服部だ。……きみの妹の服部翔子だ」
「妹がなしたってーーーーーー!? なんでアイツがいまさらでてくんノ!!?」
「ナツキさんにワープゲートを作らせたのは、服部からの命令だ。
ゲートの中でナツキさんを堕としたのも、きみの妹、服部翔子からの命令なんだよ」
「な、にぃいっ!? なに言ってやがる!
何言ってんの!? あ、アホらしいッ! な、なにをいってやがる!!?」
「――ほんとうなんだ」
つ、付き合いきれない。ば、バカバカしい!!
「はっきり言えヤ゛ッ゛!! ドウイウコトダァアア!? ナニガドウシテコンナンナッテ゛ンノ゛!?」
あらんばかりの怒声を張り上げる龍司。
陸に釣り上げられて暴れる魚のような身体を囲い込むように、白い霧が立ち籠める。
その霧の中に人影が浮かび、非人間的にぼやけた声で喋り始めた。
「――本領を発揮したナツキには誰も勝てませんわ。ですが。力を全く使いこなせないので、誰かに操らせるのが最善手――。操らせて、龍司を倒す。それが服部翔子の描いた絵図。そうでしょう? 樽男」
どこに隠れていたのかと思えば、白い霧を集めて形を形成した白無垢姿の女・ナツキの母親でもある葉月が、言いながらに姿を現した。
「あぁ……。その通りだよ」
「くっくっくっ…………カーッハッハッハッ!!
ギャアアアッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!」
完全に侮っていた。
翔子の奴、完全にいかれてやがる。
樽男に完堕ちしたと思っていたが、まさか堕ちていたのは翔子じゃなく樽男だったなんてな……。
翔子のヤロウ……。いつからこんな絵図を描いてやがった。
樽男を堕として、その樽男にナツキを堕とさせるだとぉ?
誰が、こんな何重にも掛けられた鍵のような策を見破れる!?
――しかし詰めが甘い。
全ての鍵を握っている肝心の翔子は龍司の手駒だった。
記憶を失わせ、完堕ちさせた翔子へと視線を向けた。
尻を向けたままぐったり横たわっているが、命令すれば動くだろう。
『樽男を殺せ』
この一言で片が付く。
全てに片が付く。
樽男が死んでしまえば、籠絡されたナツキも術から解放される。
――そうなれば俺の勝ちだ。
ナツキが恐ろしいのは、力を使いこなした場合だけだ。
樽男から解放されたならば、まだ恐れるほどではない。
それでいて、最強の駒になる。
いや、最高の種馬になる。
――ったくややこしいことになりやがって……。
「翔子! 樽男をッ゛!?」
合図を待っていたように、『樽男を殺せ』と言い終える前に、翔子が樽男へ音も無く駆け寄る。
グサッッ!
そんな翔子の眉間にクナイが刺さる。
悲鳴さえ出せないまま倒れていく翔子。
追い打つように、ナツキの指先から飛ぶクナイがグサ、グサッ! と両目を貫き、トドメと言わんばかりにグサッ! と心の臓を射貫いた。
ぴくっ……ぴくぴくっ――。
僅かに起こった痙攣が止まり、死を確認したところでナツキが妖しく笑った。
「……うふふ」
ナツキのやつ、やりやがった……。
操られているとはいえ、主君を躊躇いなく殺しやがった。
翔子に不死鳥が無ければ、この上無しの不忠の臣だ。
まぁそんなことはどうでも良い。
翔子のことだ、死んだ振りして樽男をやる。
それでこの戦いは終わりだ。
今度こそ。
……ったくハラハラさせやがって。
龍司が思っている中、ナツキは妖しい笑みを称えたままに言った。
「オネエの弱点は知り尽くしてる。不死身でも蘇れない」
――……はーんっ………………。
なに!?
耳を疑う台詞を、口元に笑いを称えながらながら吐かれた。
「もう誰も樽男を止められない」
「ま、待てや!? 不死鳥でも蘇れない、……だと……?」
「不死鳥の対策なら打ってある。オネエの不死身は、息絶える前に細胞が異常増殖して命を取り留めるところが肝。命を繋ぎ止めてから身体の再生を始める――。つまり、死を免れるときに起こる肉体の超再生を止めればオネエは死ぬ」
「お、おまえ自分が何をしたかっ、分かってんのか!? 全部終わりだぞ!? なにもかも!! お前は樽男を好きなままで、樽男も翔子に堕ちたまま! 翔子が死ぬってそういうことだぞ!? 一生!!」
「最高♥」
死ぬまで付き纏いそうな、――手に入らないなら樽男を殺すと本気で考えていそうな、そんな猟奇を感じさせるうっとりとした声色だった。
それも悲しいのか嬉しいのか分からない不気味な表情で言って退けてきたのだ。
「た、樽男っ! どうにかしろ!! おまえ翔子に堕とされたんだろ!? 翔子が死んでも良いのか!? よくねぇよな!? 翔子が主だろ!?」
「これでいいらしいんだよ……。この結末も……服部からもらった筋書き通りなんだよ……」
「なんだ……と……」
*****
「樽男先生、腰振りやめないまま聞いてもらえるかしら?」
「なんだね? あまり詰め込まれると肝心なことも忘れてしまうよ。ただでさえ覚えることが多くて大変なんだ……」
「この計略には続きがあるのよ。――この大計が成ったときにはアタシは多分死んでいるわ」
「んんぅ? 龍司を倒した後蘇るんだろう? それを死ぬとは言わないんだよ」
「襲い掛かってくるアタシから先生を守るってことは、ナツキちゃんがアタシを殺すってことよ? ――だからアタシは死ぬ。――ナツキちゃんの手によって死ぬ」
「何を馬鹿なことを……。ナツキさんは服部や、エリナさんと比べて情に脆い……。そんなことにはならないだろう……? ナツキさんには服部は殺せないよ」
「あのー、先生……? そんな甘さを消すために、先生がナツキちゃんを堕として力を引き出すのよ? ほんと大一番を前にして……。しっかりしてほしいものねぇ」
「はは、何を馬鹿げたことを……」
(――服部は本気で死ぬつもりなのかね……)
いくらなんでもそんなはず……。
兄貴を殺すために死ぬ?
死んでは元も子もない……。死んだら、復讐対象がどうなるかも分からないじゃないか……。
流石にそんな馬鹿なことは考えないだろう。
そんな馬鹿なこと……。
服部もかまってちゃん臭いところがあるのかもしれないな……。はは……。
はっ!?
死んでもやるに決まっている!
兄貴が作った淫魔を殺すために、服部は400年間彷徨ってきたんだ。
それだけの為に生きてきたんだ……。
兄貴を殺せるなら死をも厭わないに決まっている。
……服部は……、本気で死ぬ気だ。
「……ちょっと待ってくれ。――服部、死なない方法は無いのかね……?」
――服部は本気だ。本気で死ぬつもりだ。
どうにか、どうにかしなくては。
「前に、そのー言っていただろ。自殺とか自爆とか良くないって、前に言っていただろう……? 実はねぇ、そのはなしなんだが、――わたしも同感なんだ」
「……先生?」
「命の大切さとか、教えてくれただろう……? 教えてくれた人が、命を粗末にしちゃダメじゃ無いか……説得力もなくなるよ」
「ふふっ。そうね。――でも欲張れないわ」
「服部!」
「あの子は、アタシの恐ろしさを一番分かっている。だから本気で襲い掛かってくるわ。龍司に向かっていく以上の強さでアタシに襲い掛かってくるわ。――だから死ぬのは避けられない」
「服部……なんか一緒に考えよう。協力できると思うんだよ。裏切ったこととか謝らせてくれ。もう絶対裏切らない。だから……」
「樽男先生落ち着いて。先生は魅了の術が掛かっているせいでアタシにぞっこんみたいになってるけど、アタシが死んだら魅了の術も解けるから大丈夫よ?」
……とてもじゃないがそうは思えないんだが……。
この気持ちが偽物とは思えないんだが。
術って知ってても関係ないと思うんだが。
*****
はぁ……。現に気持ちに術は関係なかったよ、服部。
「――分かったかね、龍司さん。だから服部が死ぬのも……、そして龍司さんが死ぬのももう止められないんだよ」
「ぐぅ……ど、どうなっでもっ……し、しらねぇ……ぞっ……お、お゛まえらぁ゛……おれが死んで、取り返しのづがないごどになっでも……知らんぞぉ゛……」
不安を炙り出すような、まるで地の底から響いてくるような低くおぞましい声。
負け惜しみにしてはやけに迫力のある辞世の句。
勝敗は決している。
にもかかわらず、それでも聞いたものの心をざわつかせた。
龍司が怨嗟を吐いている中、葉月が樽男に指示を飛ばす。
「トドメを。――無駄に長引かせる必要はありませんわ」
「あ、あぁ……ナツキさん」
「わかった」
「グォゴッギィイッ!?」
天国と地獄が龍司を襲う。
ギヂギヂッ……、ギヂギヂッ……
喋ることさえ許さぬ締め付けで、肺の中にある酸素全てを呻きに変える。
「グゥゴ! オォゴギャア、アガガァガギャ!」
悪魔の産声のような呻きだった。
吐き終えたからと言って吸うことは許されない極限の苦痛。
それが極限の快楽によって中和されるも、このままでは怒りだけは収まらない。
「ゴガァ……ガ……ァガ……ァ……ガァツ! 覚悟ッ、しどげやァ、終わらんゾォ……お゛……ドウナッデモォ゛お゛……オ゛シランゾォオオオオオ――――ッ」
首だけ起き上がろうとしていた身体が、ガグンッ! と1度跳ねて、直後力を失った。
ナツキに跨がられたまま、龍司は痙攣さえしていない。
ただ繋がりあったままの接合部からは、魂を形にしたような、まるでエクトプラズムのような薄い精液が漏れ出ていった。
「お、終わった……のかね……?」
肩の荷が下りて、ぐたっ、と尻餅を付きながらに、樽男は疲労感を隠せずぼそりと呟いた。
龍司は、淫魔の父である。
死んだと思っても油断ならない存在だ。
人知を超えた力を得た樽男であったが、呼吸を止めて死後硬直した龍司を見ても安堵出来ずにいた。
「……えぇ……終わりましたわ」
「はぁ……」
葉月に答えられて、樽男からも魂が抜け出ていそうな重たいため息が漏れた。
しかし、終わったとはいえこの惨事は……。
集団レイプされて捨てられたようなエリナ。
両目を失い、息を引き取った翔子。
そのすぐ隣では龍司が骸と化していて、その腰の上にナツキが跨がっている。
道場の薄暗さも際立って、地獄に見えた。
いくらこうなると知っていたとしても、想像と現実とではあまりにも違う。
想像は現実には遠く及ばない。
――誰か何か喋ってくれ……。会話を続けてくれ。
樽男の思いを察したように、葉月がナツキに寄って手を差し出した。
「ナツキ……、帰りましょ。――いつまでその男の上にッ!?」
ザシュウウッ!!
鮮血の花びらが舞い、葉月の白無垢がまだらな紅色に染められた。
「「「ナッ!?」」」
ナツキに葉月が斬り付けられたのだ。
「うふふふふっ……。みんな殺してあげる」
まだ地獄は終わっていなかった。
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