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第2章 忍の章

20話 懇願できない状況で懇願するまで♥

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 水分の枯渇。それは、食以上に生存本能に訴えかける責めだった。
 オネエの救出、エリナの救出。今のナツキにとって何よりも優先されるべき二つの命だ。しかし、当然ながらそれら二つの命よりも、それらを達成する為に不可欠な自分の命が最優先となる。


 舌を絡めて口に移ってきた茂の唾液を飲み込むでは飽き足らず、ナツキはジュルルッジュルルッと唾液を啜り始めていた。
 ぼんやりとした視界を凝らしる細めた瞳でのキスは、陶酔しきっているようにしか見えない。


「んじゅっ、っちゅ、る、んっ、んっ、ちゅ、あぁあん♥」


 しかしまだ挿入はおろか、数ある性感突起さえも弄られていない。
 だが弄られていなくとも、白地の水着を押しあげる乳首が、薄ピンクの色味をはっきり分からせるくらいに尖っている。
 下半身を隠す水着に至ってはさらに淫猥であった。
 陰唇の形がはっきり浮かぶくらいにびちょ濡れで、役目を果たしていない。
 そんな熟れきった身体は、茂から触れ回られると寝かせられたマリオネットのように不器用に跳ねていた。


(またっ、また、おまんことお尻のあいだを…………と、と、とおってくだけっ……っあぁ……はぁ……)


 手の平全てを使って、指圧でもするようにぐにーーっと内腿を上ってきたかと思うと、突然股間の溝で弱まって、2本の指へと変わりながらに2穴の間をギリギリ触れずに通り抜けていくのだ。
 そんな焦らしがかれこれ30回以上続けられている。


 最初は陰部に寄ってくる指に、本格的な愛撫が始まると期待した身体が反射的にクンッ、と腰を突き出して喜んでいた。
 しかし、通り抜けるだけでもう片方の足へと移ってしまい絶望した。
 繰り返される度に絶望が強まっていった。希望が薄れている筈なのに、――期待が薄まっている筈なのに回を増す毎に絶望が強まっていた。


 弄ってもらえる希望が何度も何度も裏切られ、期待はしなくなった。
 期待からの絶望は弱くなった。
 しかし、触って欲しいのに触ってもらえない絶望が強まり続けていたのだ。


(い、弄って弄って、少し触れるだけでもいいからっ、はぁ、はぁ……さ、触って欲しいのにっ、はぁ、はぁ……)


 貞操観念が極端に小さい自覚はある。
 オネエに徹底的に開発されて、一度殺した政治家金田樽男に自ら股を開く羽目になった。挙げ句ずっと仲良かった友達カップルから、さらに開発された。


 はっきり言ってこの状況で懇願しない自分の意志の強さに敬意を表したい。
 何もなかったらとっくの前に求めている。
 しかしナツキには懇願したくても出来ない理由があった。


 ――数時間前。キスで殆ど堕ちてしまった状況で、茂から言われたのだ。


「こんなに堕ちても強請らないのォ~? 仕方ないタイトル変えて再チャレンジ!」


 ――くノ一拷問。懇願できない状況で懇願するまで――


 言われて悪寒が走り、半堕ちしていたナツキに理性が戻る。
 大画面に、巨大な大仏の隣にぽつんと立たされているエリナが映し出されたのだ。
 どこに行っていたのかと思ったら、ガラスケースのような物に入れられていて、その回りでは歪で黒く汚い魚がうようよ徘徊している。


 見るまで想像さえ難しかったが、ほんとうにオネエは大仏と化していて、それでいて深海にいた。
 そして質問さえ許す間もなく茂が言ってきたのだ。


「懇願したらあの強化ガラスを割る。どぉおー? 凄いでしょ♥」


 何が凄いのかは分からない。
 茂は友達の親の仇で、日常から切り離された、それら全ての元凶と言い切っていい男だ。それを分かっても孕んでも良いからめちゃくちゃにズボズボして欲しい、そう思ってしまうくらいに身体は堕ちている。


 それでも、2人の命をまる見えにされて脅されたら、辛抱強くだってなる。


 唾液で水分補給して、脱水症状は軽くなった。身体は凄く楽になっている。
 身体が全然苦しくないせいで、――危機が去ったせいで性欲を満たしたくて堪らなくなっていた。


 極限状態から解放された人間がなぜ恋をするのか分からせられた。
 死への恐怖によって感じられなかった飢えが、一気に押し寄せてきたのだ。
 これが恋慕と勘違いを起こさせてくる。


 ――でも、懇願は、絶対しないっ……。


「凄いねェ~、まだ耐えるんだねェくノ一さん」


(……耐え、……られる。この程度の焦らしなどっ…………余裕、だっ……、いくら触って欲しくなってもっ、耐えられルッ……)


 ――欲しい気持ちが沸き上がるも、それを理性で抑えつけて不安定な思考に陥りながらも耐えるナツキであったが、その決意は徐々に崩れ堕ちていく。
 キスと2穴の間を通るだけでしかない焦らしが、次のステップへと進んだのだ。
 

「う、うぅう、あ、はぁああっ……、んぅう♥」


 水着に浮かんだ陰唇を隠すように手の平に覆われて、それが上下してくる。
 おまんこを直接触れられている訳ではない。水着越しにも触れられていない。
 足の付け根の溝を、親指と小指を使ってしゃくるように焦らしてくるだけだ。


「っう、はぁああ♥ あくぅうっ……」


 指使いに慣れて、次どう動くのかを察するとその予測を外される。
 足の付け根の溝から内側に入ってきて、期待に緩んだ声を漏らすとVラインの浅瀬へと戻っていく。


 あ、ふぅ……、と苦悶の呻きを漏らしたところで、膨らみきった小陰唇のすぐ隣を擽ってきた。それも、客にぬいぐるみを取らせる気の一切無い悪質なUFOキャッチャーのクレーンよりも遥かに弱い力で、もじもじしながら擽ってくるのだ。


「っう、あ、はぁああっ……あ、あはぁあ♥」


 親指と小指に囲われた陰唇が、2指の動きに引っぱられるようにぱくっ、ぱくっ、震える。手の平に隠されていても、陰唇の開閉運動が分かってしまうくらいに感度が引き上がっていく。
 急所とも言えるクリトリスはさらに快感を欲してビクビク訴えている。
 手の平から僅かに生まれる熱線に、もわっ……、もわっ……と舐められて、茂の手の平一つで腰をへこへこさせられてしまう。


 性器に一切触れない焦らし。
 ここまで感度が鋭くなっていなかったら、焦らしにだってならない。しかし、達する以外何をされても焦らしになってしまうほどに性感が茹だっていた。


 逆さ手招きしている手の平がゆっくり離れていき、水着越しではあるがおまんこと対面して愕然とする。
 水着の意味を成していない。
 大人の階段を上りきったような、淫猥なおまんこの形が浮かび上がっていた。


「っう、あ、はぁああ、あぁあ♥ あぁあ……♥」


 しかし、焦らしはまだ終わっていなかった。
 腰を突き出しても届かないところから、逆さ向きの手招きが続けられていた。
 その温い微風による愛撫が続いていたのだ。


「あ♥ らぁめ……いやぁらぁ……」


 指先に誘い出されるように、白桃をすり潰したように濁った愛液が溢れてくる。
 お漏らししていくように、どろどろとシーツに範囲を広げていく。
 手の平に隠されていないせいで、愛液の漏れる様子がまる見えだった。
 その卑猥な光景が撮影されていく。


 それも、ガリ、メガネ、デブ、――AVを作ることしか出来ないどんくさそうな男達によってだ。こんな男達にさえ、今弄られたら達してしまうだろう。
 こんなAD相手でも、全てを忘れてしまえるくらいに飛べるだろう。
 何も考える必要が無いところにまで逝けるだろう。


 おねだりしちゃいけないのは、茂……、だけ……。だから……、この3人なら、ねだっても、いい……。この3人なら、えっちしても、いぃ……。
 はぁ、はぁ……。
 そんな……、屁理屈……通るわけ無い……か……。


 茂からだけではなく、ADに犯される妄想までが混ざり始めていた。
 そのくらい思考がぼやけていたのだ。
 茂の手の平から生まれる温風が、透明な大きい舌に思えた。
 そこをチクチクと男達の視線で弄くられている。


(屁理屈……もなにも……っ、口約束らしっ……、だいたいっ……オチンポおねだり我慢してもぉ……、エリナとオネエが助かる保証……無いっ……)
 

「やくそく…………絶対……、守ってくれる保証らんれ、……らぃ……も……」


 いつしか約束を破る口実ばかり考えていて、頭で呟き続けていた台詞が言葉になってしまっていた。それに気付いたのも、小さいどよめきが聞こえてきてだった。
 しかしこれが転機となる。


「約束しよォ? また暗示の補助を使ってきっちり約束しよォオ~? ねぇ? 凄く良い条件で契約しよぉおお?」


 約束……? よく分からないまま、頷きそうになる。
 約束したら弄ってもらえる、そんな過去の陵辱の経験が、顎を引かせようとしていた。そのくらいに頭の中が、股から漏れ出た愛液によって煮立たせられて、ぼんやりとした朧気な世界に引き込まれていたのだ。


「――あそこにいるAD三人に一時間ずつ好きにさせて、『ちんぽに屈服』宣言しなかったらナツキちゃんも服部もエリナも解放してあげるよ」


 ふぇ……。ほ、ほんきらの……? 本気なのっ、か……?


 即答しかねないほどのいい話だった。ドロドロに溶けた思考さえも纏まってくる。
 ――AD三人を見直すが、やはりどう考えても素人。
 暗殺者特有の忍者臭さは皆無だった。


 1人1時間と言わずに1日でもおつりが来る。


 メガネ、ガリ、デブ。完全に別世界に住むオタクの人だ。
 身体を侵食し尽くした狂いそうな性欲を解消しつつ、再起を図れる。
 それも『ちんぽに屈服』を宣言しないだけでだ。
 

 理性が戻ってくるのが分かるくらいに、気分が昂ぶった。


「えっち、して、全部解決できるっ……♥」


「ただし、屈服宣言した場合は何でも言うことを聞いてもらうよぉー、いいー?」


 どうせ負けない。屈服宣言しないだけで済むならいくらでも耐えられる。
 理性がまともに働いていると思っているナツキは、二つ返事で答えた。


 そんなナツキを尻目に、茂はADにしか聞こえぬ小さな声で言った。


「がっつり堕としておいて。淫魔の力を味合わせてあげてね」


 そう、男達は榎本と同じで、忍者でありつつ力に恵まれなかった者である。   榎本同様淫魔と化した忍者である。
 忍び臭さが皆無で怪しむことさえしなかったナツキは、過去最大のピンチを承諾してしまうのであった。


 判断の甘さが一生分の後悔を伴うものになるとは、このときのナツキが知る由も無かった。そして考えの甘さを、ものの数分で知らしめられるのであった。



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