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前編
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”いつまでこの関係を続けるの…”
ベッドから出て服を直していると後ろからそう問われた。
「身体だけの関係は…もう嫌」
『じゃぁもう会わなくてもいいですよ』
僕は振り返ることなくジャケットに袖を通した。
「…っ!待ってよジン!」
『この関係を貴女が望んだんでしょう?』
「…そうだね。ごめん」
『いい子で待っててくれたらまた連絡しますよ』
頭に手を置くと彼女の濡れた瞳が僕を見据える。
「ジンもう一度だけキスして」
『…それはまた次回においておきます』
その言葉を残して僕はホテルの部屋を後にした。
きっと貴女はこの後部屋で一人で泣くんだろうね。
こんなひどい男さっさと捨てればいいのに。
貴女がいらないと言えば、もう二度と会わないのに。
自分に選択権があるのにそれを選ばないのは…貴女でしょ。
”ジンの特別になれないなら都合のいい相手でもいいから”
そう言われて「いいよ」と返事したのは、その時は気まぐれだと思っていたけど、相手が貴女じゃなければ自分は首を縦に振ったのだろうかなんて余計なことを考えてしまう時もある。
今の自分には恋人は必要ない…これは仕事をしながらいつも思っていたことで、堂々と何かが出来るわけでもないし面倒くさいとすら思う。
何よりも、大切なものを傷つけたり失うことが怖い。
余裕のない自分が大切なものを守れる自信もない。
割り切った都合のいい関係があるなら、それが一番いいと思った。
貴女だってそれを望んだのだから…。
終わりにしたいなら貴女が終わりにしたらいいよ。
いつでも捨ててくれたらいい。
そんな関係を続けて一年が経とうとしてる。
そしてあの日から一か月。
僕からしか連絡をしない約束になっているのに突然携帯に届いたメッセージ。
”会いたい”
無視することもできたのに。
そもそもルール違反なのだから。
一旦手元から離した携帯を鞄の奥底に沈ませたけど、ため息をついた後結局僕はそのままホテルへ向かった。
ここへ来るといつも思うことがある。
ホテルの部屋の前に立ってそのドアを見つめた。
なんて、無機質なドアなんだろう。
会いたいと言われてここへ来たのに、僕たちは幸せな気持ちで身体を重ねたりはしない。
この部屋のドアが僕の部屋のドアなら、彼女の部屋のドアなら…
二人が愛し合う温かくて幸せな部屋に繋がるドアになるのだろうか。
「…ジン会いたかった」
ドアを開けると駆け寄ってきた彼女が僕の首に腕を回した。
『会いたいなんてワガママですね』
「でもジン来てくれた…」
『たまたま。僕の会いたいタイミングと重なったから』
そう言いながらベッドへ彼女を倒した。
『もう、お喋りはいいでしょう』
首筋に顔を埋めていつものように服を脱がして、慣れた手つきで自分の服にも手をかけると彼女の手がそれに重なる。
「今日は…ジンの服私が脱がせてもいい?」
『…どうぞ』
ゆっくり彼女の指がシャツのボタンを外していく。
その姿を眺めていると、胸の奥が小さく疼いた。
一枚二枚と脱がされて指が素肌へ近づくと、一気に身体が熱くなっていく。
勢いよくベッドに身体を押し付けて欲のままに求めれば、静かな部屋に彼女の声が響いた。
「ん…っ…」
当たり前のように甘い声を飲み込んで深く唇を重ねるけど…僕はキスが好きじゃない。
キスなんてしなくても身体を重ねることはできるのに、彼女の唇が欲しくなる自分が嫌になるから。
まるで、この行為に意味があるような気にさせられる。
意味なんて持ってはいけない。
そんなもの僕たち二人の間に必要ない。
僕たちはお互いの欲求を満たすためだけに身体を重ねているのだから…。
「ん…ぁ、ジンお願いが…あるの」
『何ですか』
「一度でいいから…好きって言って欲しい」
『は…何言って…』
「嘘でいいの。嘘でいいから…一度だけ」
そんな嘘に何の意味がある。
そんな言葉言えるはずない。
確かに頭の中ではそう感じているのに、何故か今日は心がいつものように言うことを聞いてくれない。
『…僕の上に来てください』
戸惑う彼女の腕を引っ張って強引に身体を向き合わせると
その重みでさっきより深い快感が全身を駆け巡る。
「んっ、や…ジン」
『今日…ワガママですよね』
「…ごめん」
恥ずかしそうに涙を溜めて目を伏せる彼女を見てると、無性に言ってあげたくなる。
『好きです』
「…っ!ジン…」
『嘘だと知っているのに何でそんな嬉しそうな顔するんですか?』
「…私も好き」
『………』
無表情を装うけど、胸の中はそうじゃない。
『そんなことで貴女が興奮するなら何度でも言ってあげますよ』
これはこの行為を楽しむためのただのあそびに過ぎない。
気持ちが入っていなければ、こんな言葉になんの意味もない。
自分の気持ちを誤魔化すように何度も必死に身体を動かした。
僕は…一体誰に言い訳をしてる…?
それに合わせて漏れる彼女の声は泣き声にも聞こえた。
『好きです。貴女が…好き』
「ジン…っ、うっ…ふぅ…」
『…なんで泣くの…泣くほどいいんですか?』
彼女は何も言わず頷く。
嘘つき。
僕分かっているんだから。
僕たち…
今日が最後なんでしょ?
「ジン、寝てる?」
着替え終わった彼女がベッドにいる僕に問いかけるけど、僕は目を開けずに耳を傾けた。
「…ジン。私はあなたのこと本当に好きだった」
「ごめんね。やっぱり私は都合のいい女になりきれなかった…」
「ジンの特別な人に…なりたかった…」
彼女の声は震えてた。
そう貴女は僕にとって都合のいい相手…恋人ではない。
「嘘でも好きだって聞けて幸せだった」
「ジン…さようなら」
しばらくして静かな部屋にドアの閉まる音が響いた。
いつかはこんな都合のいい関係終わると分かっていた。
最初から選択権は彼女にあったのだから。
貴女がそれを選んだのならそれでいい。
こんな酷い男好きになったこと後悔したらいいんだ。
憎んで僕のことなんて早く忘れて他の誰かと…幸せになって。
そう思うのに。
身体を起こしてドアを見つめると涙が頬を伝う。
『…何で泣くの…』
そんなこと自分に問いかけても誰も答えてくれない。
この無機質なドアを開けて追いかければ…間に合うの…?
臆病な自分を捨てれば…貴女は…離れていかない…?
こんな状況にならなきゃ自覚できないなんて。
急いで脱ぎ捨てていたシャツを羽織る。
まだエレベーターを待っているかもしれない。
今ならまだ…間に合うかもしれない。
怖かったんだ。
”都合のいい関係”そう割り切らなとだめだったんだ。
好きになれば苦しむだけだから。
傷付けるだけだと思ったから。
嫌いだったそのドアを勢いよく開けると
廊下の角を曲がる彼女の後ろ姿が見えて駆け出した。
『…っ行かないで!!』
ベッドから出て服を直していると後ろからそう問われた。
「身体だけの関係は…もう嫌」
『じゃぁもう会わなくてもいいですよ』
僕は振り返ることなくジャケットに袖を通した。
「…っ!待ってよジン!」
『この関係を貴女が望んだんでしょう?』
「…そうだね。ごめん」
『いい子で待っててくれたらまた連絡しますよ』
頭に手を置くと彼女の濡れた瞳が僕を見据える。
「ジンもう一度だけキスして」
『…それはまた次回においておきます』
その言葉を残して僕はホテルの部屋を後にした。
きっと貴女はこの後部屋で一人で泣くんだろうね。
こんなひどい男さっさと捨てればいいのに。
貴女がいらないと言えば、もう二度と会わないのに。
自分に選択権があるのにそれを選ばないのは…貴女でしょ。
”ジンの特別になれないなら都合のいい相手でもいいから”
そう言われて「いいよ」と返事したのは、その時は気まぐれだと思っていたけど、相手が貴女じゃなければ自分は首を縦に振ったのだろうかなんて余計なことを考えてしまう時もある。
今の自分には恋人は必要ない…これは仕事をしながらいつも思っていたことで、堂々と何かが出来るわけでもないし面倒くさいとすら思う。
何よりも、大切なものを傷つけたり失うことが怖い。
余裕のない自分が大切なものを守れる自信もない。
割り切った都合のいい関係があるなら、それが一番いいと思った。
貴女だってそれを望んだのだから…。
終わりにしたいなら貴女が終わりにしたらいいよ。
いつでも捨ててくれたらいい。
そんな関係を続けて一年が経とうとしてる。
そしてあの日から一か月。
僕からしか連絡をしない約束になっているのに突然携帯に届いたメッセージ。
”会いたい”
無視することもできたのに。
そもそもルール違反なのだから。
一旦手元から離した携帯を鞄の奥底に沈ませたけど、ため息をついた後結局僕はそのままホテルへ向かった。
ここへ来るといつも思うことがある。
ホテルの部屋の前に立ってそのドアを見つめた。
なんて、無機質なドアなんだろう。
会いたいと言われてここへ来たのに、僕たちは幸せな気持ちで身体を重ねたりはしない。
この部屋のドアが僕の部屋のドアなら、彼女の部屋のドアなら…
二人が愛し合う温かくて幸せな部屋に繋がるドアになるのだろうか。
「…ジン会いたかった」
ドアを開けると駆け寄ってきた彼女が僕の首に腕を回した。
『会いたいなんてワガママですね』
「でもジン来てくれた…」
『たまたま。僕の会いたいタイミングと重なったから』
そう言いながらベッドへ彼女を倒した。
『もう、お喋りはいいでしょう』
首筋に顔を埋めていつものように服を脱がして、慣れた手つきで自分の服にも手をかけると彼女の手がそれに重なる。
「今日は…ジンの服私が脱がせてもいい?」
『…どうぞ』
ゆっくり彼女の指がシャツのボタンを外していく。
その姿を眺めていると、胸の奥が小さく疼いた。
一枚二枚と脱がされて指が素肌へ近づくと、一気に身体が熱くなっていく。
勢いよくベッドに身体を押し付けて欲のままに求めれば、静かな部屋に彼女の声が響いた。
「ん…っ…」
当たり前のように甘い声を飲み込んで深く唇を重ねるけど…僕はキスが好きじゃない。
キスなんてしなくても身体を重ねることはできるのに、彼女の唇が欲しくなる自分が嫌になるから。
まるで、この行為に意味があるような気にさせられる。
意味なんて持ってはいけない。
そんなもの僕たち二人の間に必要ない。
僕たちはお互いの欲求を満たすためだけに身体を重ねているのだから…。
「ん…ぁ、ジンお願いが…あるの」
『何ですか』
「一度でいいから…好きって言って欲しい」
『は…何言って…』
「嘘でいいの。嘘でいいから…一度だけ」
そんな嘘に何の意味がある。
そんな言葉言えるはずない。
確かに頭の中ではそう感じているのに、何故か今日は心がいつものように言うことを聞いてくれない。
『…僕の上に来てください』
戸惑う彼女の腕を引っ張って強引に身体を向き合わせると
その重みでさっきより深い快感が全身を駆け巡る。
「んっ、や…ジン」
『今日…ワガママですよね』
「…ごめん」
恥ずかしそうに涙を溜めて目を伏せる彼女を見てると、無性に言ってあげたくなる。
『好きです』
「…っ!ジン…」
『嘘だと知っているのに何でそんな嬉しそうな顔するんですか?』
「…私も好き」
『………』
無表情を装うけど、胸の中はそうじゃない。
『そんなことで貴女が興奮するなら何度でも言ってあげますよ』
これはこの行為を楽しむためのただのあそびに過ぎない。
気持ちが入っていなければ、こんな言葉になんの意味もない。
自分の気持ちを誤魔化すように何度も必死に身体を動かした。
僕は…一体誰に言い訳をしてる…?
それに合わせて漏れる彼女の声は泣き声にも聞こえた。
『好きです。貴女が…好き』
「ジン…っ、うっ…ふぅ…」
『…なんで泣くの…泣くほどいいんですか?』
彼女は何も言わず頷く。
嘘つき。
僕分かっているんだから。
僕たち…
今日が最後なんでしょ?
「ジン、寝てる?」
着替え終わった彼女がベッドにいる僕に問いかけるけど、僕は目を開けずに耳を傾けた。
「…ジン。私はあなたのこと本当に好きだった」
「ごめんね。やっぱり私は都合のいい女になりきれなかった…」
「ジンの特別な人に…なりたかった…」
彼女の声は震えてた。
そう貴女は僕にとって都合のいい相手…恋人ではない。
「嘘でも好きだって聞けて幸せだった」
「ジン…さようなら」
しばらくして静かな部屋にドアの閉まる音が響いた。
いつかはこんな都合のいい関係終わると分かっていた。
最初から選択権は彼女にあったのだから。
貴女がそれを選んだのならそれでいい。
こんな酷い男好きになったこと後悔したらいいんだ。
憎んで僕のことなんて早く忘れて他の誰かと…幸せになって。
そう思うのに。
身体を起こしてドアを見つめると涙が頬を伝う。
『…何で泣くの…』
そんなこと自分に問いかけても誰も答えてくれない。
この無機質なドアを開けて追いかければ…間に合うの…?
臆病な自分を捨てれば…貴女は…離れていかない…?
こんな状況にならなきゃ自覚できないなんて。
急いで脱ぎ捨てていたシャツを羽織る。
まだエレベーターを待っているかもしれない。
今ならまだ…間に合うかもしれない。
怖かったんだ。
”都合のいい関係”そう割り切らなとだめだったんだ。
好きになれば苦しむだけだから。
傷付けるだけだと思ったから。
嫌いだったそのドアを勢いよく開けると
廊下の角を曲がる彼女の後ろ姿が見えて駆け出した。
『…っ行かないで!!』
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