仮の面はどう足掻いても。

しの

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このはなしのおおまかなせかいせってい。

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 酉は組織の建物への出入口である『丑寅』の方向へ歩いていく。 と、直接外に出られる少し大きめの出入り口には向かわずに、その横に有った不思議な文様の入った壁のほうを向く。 よく見れば、先程渡された鍵と同じような材質でできているのが確認できた。 それに、鍵穴のようなものも空いているようだ。

「先ずは『ゲートの開け方』。 ま、ただ鍵を刺して魔力を込めて回すだけだけど」

と、酉はクロークの下から大きめの鍵を出した。 しかし、卯が受け取ったものとデザインや色が違う。 なんだか黒っぽい色をしていた。

「……ああ、鍵のデザインは『役職』によって違うんだよ。 オレのは『にわとり』の意匠なんだ」

卯の視線に気づいたのか、酉は卯によく見えるように鍵を見せる。

「君のは『うさぎ』で、巳クンのは『へび』だよ」

白金に輝く鍵を取り出し改めて確認してみると、確かにそのような意匠だった。 

「鍵の色に関してはオレの魔力の色に染まってるだけだから、使い続けていれば、君の鍵もいつか色が変わると思うよ」

 鍵を持ち直し、酉は壁のほうに向き直す。

「仕切り直し」

 そう言い、手に持った鍵を酉は壁の穴に差し込んだ。 鍵は半分程まで壁に埋まり、捻るとガチャリと金属がかみ合うような音が鳴った。

「さ、これから少し、忙しくなるよ」


×


 ゲートをくぐると、何処かの建物の中に入っていた。

「本番まではまだ時間があるから、今日は『上』の話をしようか」

新人クンはまだ何も知らないみたいだからね、と酉は卯を見つめ、胡散臭く笑った。


 酉に付いて建物の中を歩く。 この建物は古い洋館のようで、少し埃っぽく湿った空気が充満していた。 伽藍堂な建物に、足音が響いた。

「ついでに『世界の設定』のこととか、色々話すけど」

 食堂にあたる広い空間に着くと、そこの調度品だけが綺麗になっていた。 

「君達はそこに座ってて」

 酉に勧められた席も、綺麗に整えられていた。 屋敷内は殆ど手入れされていないように見えたのに、どうして、まるで作られたばかりかのような家具が置いてあるのだろう。 気にせずに酉は椅子に座り説明を続ける。 それに倣って卯と巳も勧められた椅子に座る。 なんだかとても座り心地が良い、気がする。 まるでオーダーメイド品のように。 『お茶菓子がでないねこ』と不満そうにつぶやいたねこの顔を卯は指で摘まんだ。

「まず、『上』っていうのはその世界の本当の持ち主で、オレ達はその上の希望に沿った設定で世界を整えるんだ」

話を始めて数分後、奥の調理場のようなところから何か物音が聞こえてきた。 そして、アルミのワゴンが出てきた。 ワゴンの上にはアフタヌーンティーのセットが乗っており、『ふにー』と、ねこはつぶらな目を輝かせた。 それを深い青に目を光らせる、影のように真っ黒な小さな猿達がテーブルの上に並べていく。

「……これは?」

不思議そう(というより不気味そう)に巳が酉を見ると、

「……申クンに聞いて」

小さな猿達を眺め、溜息を吐いた。 サンドイッチやタルト、ケーキ等の乗ったトレイが目の前にのテーブルに並べられていく。

「どうせ暇つぶしで作ったやつを消費してほしいってだけだと思うけど」

「それは兎も角」と、酉は話の続きを始める。

「『仮の面及び他の組織オレ達に管理が任される世界』っていうのは、大抵が世界の魔力が正か負の方向に傾き世界か、精霊及び妖精側が管理しきれずに放置した世界だよ」

折角申クンが作ったんだから食べてあげて、と、卯と巳に目の前のアフタヌーンティーたちを勧める。 が、酉自身は一向に食べるような気配がなかった。

「負に傾き過ぎた世界は崩壊してしまう上に、他の世界を蝕むからねぇ」

敵対組織私達は負の魔力の専門家……ということで任されるらしいんだ」

本当に厄介だよね、と言葉をこぼす酉に巳が付け加えてくれる。 卯はスコーンに手を伸ばそうとトレイに手を伸ばすと、既にねこが一つ平らげていたところだった。『とってもおいしいねこ』

「正に傾き過ぎた世界は……大量に妖精が発生してそれはそれは不愉快で逆に手に負えなくなる気持ち悪い世界になるんだよねぇ」

『ほんねがだだもれねこ』と呟くねこの口回りを拭いつつ、卯はミルクティーに口を付けた。 巳も恐る恐るといった様子でカップに口を付ける。

世界の持ち主は世界の種を作るか維持するだけで、あとは何もせずにただそれを見ているだけ。 稀にちょっかいをかけていくのもいるけど」

「あとは『神様のようなもの』としか言いようがないかな」と、酉はようやくカップをソーサーから持ち上げ中身に口を付けた。

「世界を抱えているけど、それを大きくどうこうできるような力は持っていない、少し中途半端な力の持ち主だ」

酉が静かにカップをソーサーに戻した途端、どこからともなく先程も見た影のような小猿が現れ、カップの中に黒い何かを放り込んでいった。 「……余計なことするね」と呟きつつ酉は小さいフォークを(サイズはティースプーンだったが先がよく見たらフォークだった)魔法で生み出し、カップの中に突っ込んだ。 ……何かが潰れる音と……兎に角、通常ではカップの中からしないであろう音が聞こえた、気がするが聞かなかったことにした。 巳も少し目を逸らしていた、けど何もなかった。

「そして、姿は一切見せてくれないから、文句の言いようもない」

をしばらくかき混ぜた後、

「でも、子クンなら一応にある程度の会話ができるらしいから、この設定変えてほしいって時は、子クンに頼んでみるといいよ」

酉は(元)紅茶を飲み干した。

「管理者は担当世界の魔力のバランスを整える管理者でもあるんだ」

少し色が付いてしまった口元を指で拭うと、化粧のように淡く黒い色が残っていた。 何だか変なものを見た気がして、思わず卯は目を逸らす。

「演劇風に例えると、ここはオーナーから借りている整えられていない舞台で、オーナー兼クライアントを楽しませながら舞台の状態を整えるってことかな?」

 胡散臭く笑う酉に再度目を向けると、口元に付いていた色はなくなっていた。 それに少し安堵しつつ、卯は再びミルクティーに口を付る。 『ふにっ』ラズベリークリームの濃い色のマカロンを食べようとしたねこをトレイから引きはがした。 『もっと食べたいねこ』「……もうやめなさい。五つ目は流石に多いのよ」

「世界を任されるってことは、その世界の人達の命や人生に責任を持つってこと。 だから結構重要なポジションなんだよね」

卯とねこの様子を眺め、

「――だから。 中途半端な奴らただの星官に任せる訳にはいかないんだよ、ね」

酉は目を細めた。 つまり、昔、噂で聞いた『優秀な星官なら世界を任される』というのは、只のうわさでしかない、ということだろうか。
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