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不調な量産品。
しおりを挟むああ痛い痛い痛い。 あたまがいたい。 身体がいたい。
「なんだかイライラする」
ころがったって痛みは取れないけど。
やっぱり壊れちゃったかな。
「こわれてなんかないよ」ただ頭と身体が痛いだけだ。
「そういえば、契約器官は大丈夫かな」
身体の中心のすぐ前にある、とっても大事なところ。 これがなきゃ、契約妖精でいられなくなっちゃう。
「だいじょうぶ」
いたくないよ、痛いはずがないんだもの。
「だいじょうぶ」
だって、
「だいじょうぶ。」
もう少しで、いたみはとれるはずだもの。
×
「やっぱり、葉妖精は脆いね」
若い子供の声がする。
「まあ仕方ないだろ、作り物なんだし」
若い男の声がする。
「それを承知で始めたんでしょ」
若い女の声がする。 作り物って、なんのこと?
「次どうする?」
子供の声は訊く。
「そりゃあ、実力行使だな」
若い男の声は告ぐ。
「こっちは実力使ってないのにね」
若い女の声は笑う。
これって何の音だっけ?
×
リミッターを解除した魔法少女達達は、間違いなく強くなっている。 動きが早いし、力も上がっている。 魔法の出力も上がっているから、どんどん、悪い奴らを倒して行く。
「ねぇ。 私達、強くなってるよね!」
「なんだか調子良いかも!」
「この調子なら、もっとたくさん倒せるわね!」
嬉しそうな魔法少女達の声が聞こえる。 みんな、みんな喜んでる。 やっぱり、間違っていなかったんだ。 その事に心底、安心した気持ちが湧いた。
強くなった魔法少女達は、どんどん、たくさんの悪い奴らを倒していく。
×
「やっぱり、妖精ってちょろいモンだな」
若い男はその様子を見て嗤う。
「俺達に操られていることなんて、全然気付いていやしないんだぜ」
「もっと、いろんな妖精で試してみようよ!」
子供は心底楽しそうに仲間に提案する。
「この調子なら、あの国も乗っ取れるんじゃない?!」
「あまり調子に乗りすぎないように、慎重にね」
若い女は仲間を牽制するが、その声は弾んでいる。
「あの組織もついででつぶせるんだもの。 こんなに素敵なことってない」
苦しむ《》を見る3人は、実に楽しそうであった。
×
彼らは、とある組織の幹部だった。 数ヶ月前までは。
彼らの所属していた組織は、『仮の面』の手によって潰されてしまった。 ――正しくは、“その組織の存在を忌避した妖精の国から命令を受けた『仮の面』”だったが、そんな事を彼らは知る由もないし、実際に手を下したのは『仮の面』だ。
解体された事によって、組織の構成員達は居場所を失い、散り散りになってしまった。 だが、殆どの構成員達は心を入れ替えて真っ当に生きていたり、次の所属先を見つけて働いていたりと、そこそこに上手く新しい道を見つけていた。
3人は、その『殆ど』に含まれる事が出来なかった者達だった。
以前の好き放題に暴虐の限りを尽くした、何処へ行こうとも、何をやっても(魔法少女達による粛清は多少なりともあったものの)自由でいられた生活が捨て切れず、彼らは真っ当に生きることも、他の組織に与する事も良しとしなかった。
彼らは己が身の不幸を、組織を潰した『仮の面』の所為だと喚き、同じ目に遭わせてやろうと、企てた。
×
「ほんと、この薬ってすごい効果がある」
若い女は、丁度手に収まるくらいの小瓶を3つほど取り出し、それを子供と若い男に手渡した。
「あの怪しい薬屋が馬鹿みたいな高額で売り捌くのも、なんだか納得できちゃう」
自身の手元に残った色の無い小瓶を振って、中の液体を揺らす。 それは紫の色味が強い青の色をしており、光を受け妖しく煌めいた。
「『幸せになれる水』、『幸運の水』とか、そんな怪しい名前だったけどね」
子供は女から渡された瓶を開ける。 瓶のラベルには、嘲笑うかのような、眼の印が付けられている。
「使用者の血を混ぜて、少量でも相手に飲ませると飲ませた相手を操れる薬になるだなんて、誰も知ってる訳ないだろうなぁ」
だって、偶然見つけたんだもんね、と子供は笑う。 油紙と紐で封じられたそれを開けると、清流のような爽やかな香りが周囲に広がった。
「ま、高額だといえども俺達は一文も払ってないけどな」
3人は自身の指先を切り、溢れた血液を液体に一滴、垂らした。 血の混ざった液体は、少し赤みを帯びた紫色に変わり、香りは、爽やかなものから濃厚な、芳しいものへと変化する。
「あの時の薬屋の慌てようったらねぇよなぁ」
変化した液体を半分ほど別の入れ物に移し、《》に話しかける。
「おい、コレ飲んでおけよ?」
意識を朦朧とさせている《》は、素直に液体を飲んだ。
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