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調査結果。
しおりを挟む『ねこ』に体当たりされる前に目が覚めた。
「ふふ、勝ったわ」
体当たりを外してベッドの端に転がる『ねこ』を見下し、卯は胸を張る。 転がった姿勢のまま『ねこ』は悔しそうな顔をし、尻尾でベッドを叩いた。
時計を見ると卯の刻。 会議の時間どころか、始業時間にも十分に余裕がある。 さっさと身支度を済ませて、ゆっくりしよう。
×
巳は辰の後を、周囲を警戒しながら付いて行く。 巳は辰の護衛だ。 「一体、いつ、どこで、誰に狙われているのか」そう問われても、答えなんて出やしないが。 そもそも辰は一人でも十分に腕が立つ。 その為、巳は時折、自分が何のために其処にいるのかが分からなくなる。
「どうした。 ……顔色が悪いな」
ふと立ち止まり、辰は云う。 拍子に揺れた白銀の髪が光を受けた水面のように煌き、光が散った。
「いえ……私はいつも通り…のつもり、ですが」
刺さる光を避けるように、巳は目を閉じる。 実際には巳の薄花の虹彩には刺さりはしなかったが、巳はその光を視界の端にすら入れたくなかった。 理由はきっと、
「無理をしていないか」
見ていなくても、辰の強い眼差しに見つめられているのが分かる。 居心地が悪くなり、巳は何かを発しようと口を開いたとき
「一度、其方の仕事を休むと良い」
静かに、辰は云った。 巳は思わず顔を上げ、思いの外顔が近かった事に後退る。 辰が少し状態を屈め、巳をのぞき込んでいたようだ。
「しかし…」
「儂を護るのならば、先ずは其方が健勝である事が重要だと分かっているだろう」
すっと目を細め、辰は僅かに圧を放った。 その途端、巳は何も言い返せなくなる。 自身のすべての支配が、辰に取り上げられ、辰の指示に従ってしまうような感覚。
「…………はい」
力なく俯いた視界の端に、柔らかな生成り色の髪が映った。 辰もその存在に気が付いたようで、何事もなかったかの様子で其方を見た。
×
「其方、巳と最近良くしてもらっていると聞く」
卯は随分と背の高い男を見上げた。 ……バランスを崩しそうになったので、一歩後ろに下がった。
辰のその顔は、布の面……雑面で隠されている。 雑面には、札のような紋様に、その上から、嘲笑うように目の絵が描かれてある。
「ふむ、座って話したほうが良いか」
後退った卯に辰は苦笑しつつ訊く。
「いえ、そろそろ会議の時間です」
硬い声の巳が言葉を挟んだ。 ふと卯は『ねこ』を見る。 時計のふりをした『ねこ』の短い尾は真横よりほんの少し、上を指していた。 今は辰の下刻のようだ。 確かに、あともう少しで会議の開始時刻になる。
「仕方あるまい。 では簡潔に話そう」
その声に卯は辰に向き直し、強い眼差しと視線が重なった。
「巳の事を此れからも、宜しく頼むぞ」
辰は朗らかに笑っていたが、少し寂しそうに見えた。
×
「……という訳で、」
調査結果を持ってきたらしい酉は告げる。
「どうやら、少なくなっていた食糧の問題は、『書類の書き換えがあった』事が原因のようだよ。 勿論、『仮の面』じゃなくて、妖精側の方だよ。 間違った書類が、午クンの方に届けられていたってコト」
管理が杜撰だよねぇ、と笑い、その分厚い資料を子の前に置いた。 今回は幹部全員を集めての会議だったので、再び会議室に全員が揃う。
会議室の座席の並びは卯を紹介した時と同じように子から亥まで並んでいる。 しかし、前回は完全に円卓だったが、今回はCのような形で並んでおり招集をかけた酉の席がない。
Cの形の空いている側にはスクリーンのようなものがあり、その近くに複数の資料を置いた台と共に酉の席があった。
「記憶を改竄されてたっぽいのもなーんか、きな臭いよねん」
資料をぱらぱらめくって子は中身を確認する。 次いで資料の簡易版が他の最上位幹部達の前に配られ、最上位幹部達も概要を確認した。
「あともう一つ」
酉は言う。
「どうしてだか分からないけど、最近、収穫できる魔法少女の粉の量が減ってるみたいだねぇ」
「そこを調べるのがオマエの役割だろ」
ぼそりと申が野次を飛ばす。
「……煩瑣いなぁ。 じゃあ君が調査してくれるのかい?」
特に苛立った様子ではなかったが、酉は申に言う。
「は? 何言ってるんだ? んなめんどくせーこと、オマエがやれよ」
その返答に、つまらないなぁ、と笑ったところで
「……攻撃性に関してはどうなんだい」
亥が問う。
「いいこと聞くねぇ」
酉はくるりと亥の方を向き、亥を指す。
「指すな」
「すごい上がってるんだよね」
亥の言葉を無視して酉は言う。
「ほら、オレ達が手伝う事で成長するやつとは、なんだか種類が違うみたいで」
『手伝うことで成長する』というのは特別なアイテムによるパワーアップの事を言っているようだ。
「落とす量は寧ろ、通常よりも少ないんだ。 それで、」
酉は亥と未の方を見た。
「攻撃力は上がっているのに、落とす魔法少女の粉の量が少ない。 これってどう言うことか分かるかな?」
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