仮の面はどう足掻いても。

しの

文字の大きさ
上 下
17 / 60

何に使うの。

しおりを挟む

「すみません、子様は何やらお忙しいために、『誰も入れるな』とおっしゃっています」

 子の研究所に着くなり、部下らしき構成員にそう告げられた。 丑と寅は怪我を癒すために、自室で養生中だとか。


×


 「……はぁ」

 そのまま自分の持ち場情報棟まで着いたので、卯はそのまま仕事を始める事にした。


 『幹部らしい威厳』とは何だ。 どうすれば魔法少女や妖精共おめでたい奴らから話しかけられないで済むだろうか。

「……(どうせなら、出来る限りの権力を使っ私の力でて色々調べてみようかしら)」

 いつも手元にいるはずの『ねこ』はツンと澄ました顔で情報棟入り口のカウンターに鎮座していた。


×


「……やっぱり、権力って良いわ」

 最上位幹部のみの閲覧が許可されている資料を手に取る。 中身は『仮の面』以外の、他の敵組織の内部情報等の資料だった。 何処の組織にどんな奴が居て、性格はこう、戦闘スタイルはこう、『仮の面うち』にとって脅威となり得るか。 そしてその理由は、等、プライバシーに疑問を持つようなかなり細かい情報が記載されている。

 やはり、大抵の女性幹部は、大人の姿をしている。 それもそうか。 魔法少女になれそうなぐらいの年齢の少女ならば、まず妖精に引き抜かれるだろうし。 あと精神的にも、そこまで組織に忠誠は誓わないだろう。

 女性幹部だけではなく、男性幹部、下級の戦闘員等、様々な組織の資料を見る。 敵組織の建物の形状だとか、かなり内部に入り込めないと知り得ないような情報が事細かに記載されている。 こんなに細かい資料なんて、どうやって取ってくるのだろうか。

 意外と興味深い資料の内容に、思わずのめり込んでしまう。 

「ねぇねぇ。 君が持ってるその資料みたいなやつ、他にも色々あると思うんだけどさ、それ、貸してくれないかな?」

「ひゃっ?!」

 思いの外近い所からの声に思わず跳ねてしまった。 誰も入って来ない筈だ、と思っていたのに。

「そこまで驚かれるとは思いもしなかったよ」

 笑う酉を睨み付け

「……許可が無いと入れない筈なのだけど」

そう訊くと、酉は

「あの子に許可して貰ったよ?」

と、胡散臭い笑みをそのままに、酉は少し首を傾げる。 長身の胡散臭い男やっても、ただただ怖いだけだ。 『ねこ』の方を見遣ると、ほっぺたを膨らませて何かを味わっている。 ……食い物で買収されたか。

「あんまり熱心に読んでるものだから、声をかけるのを少し憚っちゃったけど、オレ今あんまり時間ないから声掛けさせて貰ったよ」

ごめんね、と胡散臭い笑みを浮かべる酉から距離を取ろうとして一歩後ろに下がると、資料室の壁に背がぶつかった。

「そんなに怯えなくていいのに」

 酉は大袈裟に溜息を吐くが、卯の耳には「もっと虐めたくなるじゃないか」とかいうとんでもない発言がはっきりと聞こえた。 やはり録でもない奴のようだ。

「勝手に取るけど、手続きはちゃんとするから」

 そう言い酉は、卯の身長では台に乗らなければ届かないような箇所の資料を容易にいくつか抜き出す。 嫌味だろうか(被害妄想)。

「あと、」

 酉は卯の方を向くと、近づいて来た。 吐息がかかりそうなくらい近づいて――

「――これ。 借りて良いかな?」

 卯の頭のすぐ近くにあった資料を抜きだし、卯に見せる。

「……良いけど、それ何に使うの」

 資料の題名は『ドキドキ♡女の子の攻略本』だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

処理中です...