仮の面はどう足掻いても。

しの

文字の大きさ
上 下
15 / 60

歪んだ量産品。

しおりを挟む

 《》は正義感の強い妖精だった。 本性は『正義』、性質は『実直』で気質は『多血』。 まっすぐで嘘の吐けない、サポートの妖精というよりは正義の味方に向いていそうな妖精だった。

 《》が真っ直ぐだったそれは、過ぎたことだった。 《》は歪んでしまった。 歪まされてしまった。

 膨大な時の流れが生む堕性と、そこで行われる教育との方向性の違いで。 堕性は強い変化や異質な物を拒み、教育は、変身する相手魔法少女自身よりも、自身ら妖精達の都合のみを考える力を授けた。

 お陰で、《》は、自身に教育されたものを相手に押し付け、それを拒むものは排除する、とても厄介なモノとなっていた。

 しかしそれはその教育機関で生成された他の妖精達も例外では無く、変わり映えしないどころか、判で押したかのようにそっくりだった為、誰もおかしいことに気付けず、誰も気にすることはなかった。


×


 少し昔の人間のように、妖精には序列が存在している。 国を治めるモノ、政治に関わるモノ、司法を司るモノ、多くの資産を持つモノ、外敵から国を護るモノ。

 その中で、『魔法少女と契約出来るモノ』は、かなり高いくらいに位置する。 それは無論、魔法少女と契約することによって妖精達の国に訪れる益は、文字通り万物に値するからだ。

 『契約出来るか否か』は、妖精ならば誰でも出来ることではない。 それはその妖精自身の持つ『素質』なのだ。 どんなに高い位に居ても、どんなに金を積んでも、『素質』がなければ、魔法少女を生み出すことはできない。

 そのため、妖精の国では『素質』を持つモノたちは、どんな身分であっても国全体で歓迎され、特別な教育機関へ送られていく。

 特別な教育機関内では、『素質』を持つ妖精達は何がなんでも少女達と契約し、魔法少女を生み出させる為に、演技力や話術などを身に付けることが迫られる。

 思想が合わない、辛い等の理由でその施設から逃げ出そうものならば、妖精の国全体から指名手配をされ、見つかれば強制的に矯正プログラムを受ける事になる。

 妖精達は『穢れ』にめっぽう弱く、また、『穢れ』の中に住うバケモノ達に単体で勝つのはとても難しい。 その為、通常の思考の妖精ならば、まず妖精の国からは出ようとしない。 だから、逃げ出せば必ず捕まるし、契約出来る妖精達は、必ずこの施設の思想を持っているなのだ。

 巧みな話術と演技力で、魔法少女になれそうな夢を持った少女達哀れな生贄魔法少女の世界こちら側に引き込む。 魔法少女達に自身を疑われないように、彼女達やその周辺の上手くコントロールするのも大事だ。 尤も、この部分については、『仮の面』等の妖精の国魔法少女達と敵対する組織がある為、そこまで大変ではない。

 妖精の国の外こちら側の世界は大抵『穢れ』に満たされている。 『穢れ』に汚染された達は大抵、攻撃性や残虐性の高い気質になる為にこちら側が何もしなくても、勝手に人間の世界で侵略や虐殺をしてくれる。 なんとも便利な舞台装置だろうか。

 あとは、上手く魔法少女達を誘導して敵対組織と戦わせれば、妖精の国我々の目的は達成される。


×


 妖精の国が魔法少女達から魔法のエネルギーキラキラを得る方法は、実はかなり簡単に出来ている。

 それは「魔法少女と契約すること」、「契約した魔法少女達が周囲に魔法を振り撒くこと」。 そして、「契約した魔法少女達が健康で前向きで居続けること」だ。

 肉体的にも精神的にも健康な魔法少女達の正の魔力キラキラは、とても質が良い。 そして、質の良い魔力はエネルギー効率が大変良く、少量で様々なことができる。

 契約妖精による、魔法少女のエネルギー徴収の仕組みは、魔法少女の変身アイテムにある。

 魔法少女の変身アイテムは、妖精の持つ、エネルギーを保管する道具に繋がっており、魔法少女の生み出す魔力キラキラ使採取するようになっている。

 実際、魔法少女は正の魔力キラキラを大量に生み出す為に、変身前と比べて回復速度や筋力、能力がかなり上乗せされる。 また、変身中の魔法少女は溢れる魔力で恐怖心やコンプレックスなどの負の感情を(ある程度)打ち消されている。 そのおかげで魔法少女達は、ますます正の魔力キラキラを生み出しやすい状態になる。

 しかし、生み出された魔力は戦闘で使う以上の量が生産されてしまう為、放っておくと変身や戦闘に夢中中毒になったり、魔法の補正によって成長速度や寿命が変化して周囲との成長に差が出てしまったり、といった問題が起こる。

 元々はそれを防ぐ為のシステムだったが、魔法少女の魔力キラキラのエネルギー効率の良さが発見されてからはエネルギー回収がメインの目的にすり替わってしまったようだ。

 そして現在、エネルギーで満タンになったその道具を妖精の国に献上するのが、契約妖精達の主な仕事になっている。


×


 《》は自尊心の高い妖精だった。 『特殊な才能少女と契約できる能力がある自分は特別なのだ』と、自負していた。

 契約妖精を養成する機関でもそれなりに優秀な成績を修め、そこを出てからも様々な夢をもつ少女達と契約し、素晴らしく妖精の国に貢献してきた。

 しかし、誰も評価してくれなくなった。

 養成機関で素晴らしい結果を出すと、もれなく指導する妖精や、妖精の国の重鎮位の高い妖精に褒めてもらっていた。 《》はそれに自身の存在価値を見出していた。

 養成機関を出ると、自身のような妖精は思っていた以上にありふれていることを突きつけられた。 自身と同じ人数契約できる妖精、自身と同じ量のエネルギーを回収出来る妖精。 ――自身と同じ個性能力の妖精。

 自身が大勢の中に埋もれてしまう。 「絶対的唯一」だと信じて過信していた己を失ってしまう。

 《》は焦っていた。

 『どうすれば、褒めて認めてもらえるのだろうか』、と。


×


 《》は噂で聞いた事があった。 『仮の面』の施設には、棒大な量の魔法少女の粉キラキラが保管されているらしいことを。

 妖精の国が、『仮の面』に何かしらの援助を行なっている事を。

 何処から流れてきた情報かは忘れてしまったが、それは確かな記憶だった。

 そして、それを知った《》は誤解をした。

 『仮の面』が、魔法少女の粉キラキラを盗み取っているのだと。

 『仮の面』は妖精の国を脅して搾取しているのだと。

 そして、『仮の面』から妖精の国を解放すればきっと、存在価値を認めて褒めてもらえるだろう、と。

 《》は勘違いをした。 短絡的な思考のままに、余計なことその事象の理由を考えられない頭のままで。

 「『穢れ』から生まれたモノは、『穢れ』が混ざっているモノは、残虐性のある嗜好を持っているから」と、理性的な思考があるとは思いもしていなかった。


×


 まず、《》は『お前達仮の面のために用意』食料を減らして、弱らせようと考えた。

 巧みな話術で普通の無能な妖精達をたぶらかせ、書類を改変させた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

ある平民生徒のお話

よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。 伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。 それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

処理中です...