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歪んだ量産品。
しおりを挟む《》は正義感の強い妖精だった。 本性は『正義』、性質は『実直』で気質は『多血』。 まっすぐで嘘の吐けない、サポートの妖精というよりは正義の味方に向いていそうな妖精だった。
《》が真っ直ぐだったそれは、過ぎたことだった。 《》は歪んでしまった。 歪まされてしまった。
膨大な時の流れが生む堕性と、そこで行われる教育との方向性の違いで。 堕性は強い変化や異質な物を拒み、教育は、変身する相手よりも、自身らの都合のみを考える力を授けた。
お陰で、《》は、自身に教育されたものを相手に押し付け、それを拒むものは排除する、とても厄介なモノとなっていた。
しかしそれはその教育機関で生成された他の妖精達も例外では無く、変わり映えしないどころか、判で押したかのようにそっくりだった為、誰もおかしいことに気付けず、誰も気にすることはなかった。
×
少し昔の人間のように、妖精には序列が存在している。 国を治めるモノ、政治に関わるモノ、司法を司るモノ、多くの資産を持つモノ、外敵から国を護るモノ。
その中で、『魔法少女と契約出来るモノ』は、かなり高い位に位置する。 それは無論、魔法少女と契約することによって妖精達の国に訪れる益は、文字通り万物に値するからだ。
『契約出来るか否か』は、妖精ならば誰でも出来ることではない。 それはその妖精自身の持つ『素質』なのだ。 どんなに高い位に居ても、どんなに金を積んでも、『素質』がなければ、魔法少女を生み出すことはできない。
そのため、妖精の国では『素質』を持つモノたちは、どんな身分であっても国全体で歓迎され、強制的に特別な教育機関へ送られていく。
特別な教育機関内では、『素質』を持つ妖精達は何がなんでも少女達と契約し、魔法少女を生み出させる為に、演技力や話術などを身に付けることが迫られる。
思想が合わない、辛い等の理由でその施設から逃げ出そうものならば、妖精の国全体から指名手配をされ、見つかれば強制的に矯正プログラムを受ける事になる。
妖精達は『穢れ』にめっぽう弱く、また、『穢れ』の中に住うバケモノ達に単体で勝つのはとても難しい。 その為、通常の思考の妖精ならば、まず妖精の国からは出ようとしない。 だから、逃げ出せば必ず捕まるし、契約出来る妖精達は、必ずこの施設の思想を持っているはずなのだ。
巧みな話術と演技力で、魔法少女になれそうな夢を持った少女達を魔法少女の世界に引き込む。 魔法少女達に自身を疑われないように、彼女達やその周辺の思考を上手くコントロールするのも大事だ。 尤も、この部分については、『仮の面』等の妖精の国と敵対する組織がある為、そこまで大変ではない。
妖精の国の外は大抵『穢れ』に満たされている。 『穢れ』に汚染されたもの達は大抵、攻撃性や残虐性の高い気質になる為にこちら側が何もしなくても、勝手に人間の世界で侵略や虐殺をしてくれる。 なんとも便利な舞台装置だろうか。
あとは、上手く魔法少女達を誘導して敵対組織と戦わせれば、妖精の国の目的は達成される。
×
妖精の国が魔法少女達から魔法のエネルギーを得る方法は、実はかなり簡単に出来ている。
それは「魔法少女と契約すること」、「契約した魔法少女達が周囲に魔法を振り撒くこと」。 そして、「契約した魔法少女達が健康で前向きで居続けること」だ。
肉体的にも精神的にも健康な魔法少女達の正の魔力は、とても質が良い。 そして、質の良い魔力はエネルギー効率が大変良く、少量で様々なことができる。
契約妖精による、魔法少女のエネルギー徴収の仕組みは、魔法少女の変身アイテムにある。
魔法少女の変身アイテムは、妖精の持つ、エネルギーを保管する道具に繋がっており、魔法少女の生み出す魔力を使わなかった分だけ採取するようになっている。
実際、魔法少女は正の魔力を大量に生み出す為に、変身前と比べて回復速度や筋力、能力がかなり上乗せされる。 また、変身中の魔法少女は溢れる魔力で恐怖心やコンプレックスなどの負の感情を(ある程度)打ち消されている。 そのおかげで魔法少女達は、ますます正の魔力を生み出しやすい状態になる。
しかし、生み出された魔力は戦闘で使う以上の量が生産されてしまう為、放っておくと変身や戦闘に夢中になったり、魔法の補正によって成長速度や寿命が変化して周囲との成長に差が出てしまったり、といった問題が起こる。
元々はそれを防ぐ為のシステムだったが、魔法少女の魔力のエネルギー効率の良さが発見されてからはエネルギー回収がメインの目的にすり替わってしまったようだ。
そして現在、エネルギーで満タンになったその道具を妖精の国に献上するのが、契約妖精達の主な仕事になっている。
×
《》は自尊心の高い妖精だった。 『特殊な才能がある自分は特別なのだ』と、自負していた。
契約妖精を養成する機関でもそれなりに優秀な成績を修め、そこを出てからも様々な夢をもつ少女達と契約し、素晴らしく妖精の国に貢献してきた。
しかし、誰も評価してくれなくなった。
養成機関で素晴らしい結果を出すと、もれなく指導する妖精や、妖精の国の重鎮に褒めてもらっていた。 《》はそれに自身の存在価値を見出していた。
養成機関を出ると、自身のような妖精は思っていた以上にありふれていることを突きつけられた。 自身と同じ人数契約できる妖精、自身と同じ量のエネルギーを回収出来る妖精。 ――自身と同じ個性の妖精。
自身が大勢の中に埋もれてしまう。 「絶対的唯一」だと信じていた己を失ってしまう。
《》は焦っていた。
『どうすれば、褒めてもらえるのだろうか』、と。
×
《》は噂で聞いた事があった。 『仮の面』の施設には、棒大な量の魔法少女の粉が保管されているらしいことを。
妖精の国が、『仮の面』に何かしらの援助を行なっている事を。
何処から流れてきた情報かは忘れてしまったが、それは確かな記憶だった。
そして、それを知った《》は誤解をした。
『仮の面』が、魔法少女の粉を盗み取っているのだと。
『仮の面』は妖精の国を脅して搾取しているのだと。
そして、『仮の面』から妖精の国を解放すればきっと、存在価値を認めてもらえるだろう、と。
《》は勘違いをした。 矯正された短絡的な思考のままに、余計なことを考えられない頭のままで。
「『穢れ』から生まれたモノは、『穢れ』が混ざっているモノは、残虐性のある嗜好を持っているから」と、理性的な思考があるとは思いもしていなかった。
×
まず、《》は『お前達のために用意してやっている』食料を減らして、弱らせようと考えた。
巧みな話術で普通の妖精達を誑かせ、書類を改変させた。
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