仮の面はどう足掻いても。

しの

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鶏というか軍鶏っぽい。

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 子の研究所を出た卯は、自身に充てがわれた持ち場に行こうとしたが、思った場所になかなか到着出来ないでいた。 この施設は少し大きめの身体を持つモノ達に合わせて作られているため、組織内では少々小柄な卯は迷ってしまったようだ。

「(……無駄に距離があるのよね)」

子みたいな小柄なモノ達の為に、何らかの移動手段でもあれば良いのに、と考えたところで、

「どうしたんだい?」

 再び聞き覚えのある声を掛けられた。

「……」

 振り返ればやはり、酉が居た。 この男は何故だかよく分からないが、妙な不気味さがある。 なんとなく、何かがやばいやつな事は分かるが、何がやばいのかは分からなかった。

 少し戸惑った風に酉を見上げる卯を、にこにこと(口元だけに)笑みを浮かべて面白そうに見ている。

「また、君が何処か困っているような気がしたからさ」

丑ほど大柄ではないが背の高いこの男は、少し屈むようにして卯の側に立つ。 少し距離が近い気がして卯は一歩横にずれた。

「そんなに警戒しなくったって、取って食いやしないのに」

くすくすと笑う酉は、卯の前にある大きめの案内板を見て

小さい構成員君達にも見易いものを作った方が良さそうだねぇ」

そう、少し優しい声色で言った。

「君は何処に行きたいのかな?」

「……ここよ」

酉の問いに、(ずっと身構えていてもしょうがないので)卯はそろそろと自身に充てがわれた持ち場である情報棟を指差す。 普通の状態では手が届き難かった為に大きめの案内板に近付き、少し背伸びをして腕を伸ばして、どうにか指した。 指した箇所を見、酉は納得したように頷いた。

「丁度、オレも図書館に行きたかったから、そのまま案内するよ」

 卯のその行動を目を細めながら(仮面で完全に目元は隠れているが、そんな気がした。)見ていた酉は、卯に提案をする。 よく見れば、酉は両の腕にファイリングされたものや紙の束を抱えていた。 羽織っているクロークの内側にある所為で、かなり見え辛かったが。

「ついておいで。 ちゃんと案内してあげるから」

 酉は卯の少し前を歩き出す。 卯は遅れないように、見失わないように、慌ててその後を付いて行った。


×


「君も大変な役目を負わされたねぇ」

 情報棟、通称『図書館』に向かいながら酉は言う。 気が付けば、卯は酉と並び歩いていた。 明らかに足の長さ歩幅が違うので、わざわざ合わせてくれているようだ。

 酉は卯の方を見やしなかったが、話を続ける。

「他だったら、まだ楽だったかもしれないのに」

『子』、『卯』、『午』、『酉』の4名は、特殊な役割が課せられている。 ただでさえ『丑寅』『辰巳』『未申』『戌亥』と違い、単独で行動するのに、だ。

 責任ある職を持たない8名は誰かの手伝いをしたり、自分で役割を見つけたり、と、かなり自由に暮している。

 役割として、子は『生産』、卯は『情報』、午は『食事』、酉は『調査』を担っている。 子と酉はお互いに研究所のようなものを持ち、卯は情報棟、午は食事処(と、試験場)を持つ。 どちらかと言えば、子の研究所は技術研究所のようなものである。

「今日は、調査や研究の結果を持って来たんだよ」

こういうことはあんまり他の人に言っちゃいけないんだけど、と呟いたが、

「君が管理者だから問題ないよねぇ」

酉は気にした風もなかった。


×


 図書館の入り口は、丁度、子の研究所とは逆に、正面の出入り口から入ると左手(此方も勿論、どちらかと云えば左手後方)にある。 特に位置的には意味は無く、ただ単に、子が欲しい資料をすぐに得やすいからかもしれない、と卯はなんとなく思った。

「さて、『図書館司書』の卯クン。 君はもうここの管理人だから、この資料は何処に持って行けば良いか判るよね?」

 酉の声にはっと顔を上げると、酉は持っていた資料の束を卯に差し出していた。 笑みを浮かべる口元が少し、意地が悪そうに歪んで見えたのは気にしないことにした(一応、助けてもらったので)。


×


 卯は酉から渡された資料達を資料室に持っていき、そのまま分類の作業を始めることにした。資料の一つひとつに目を通し、冷静に分類していく。

「……(これは、確か)」

素早く機械に分類情報を入力し、分類シールを背表紙の、あまり邪魔にならない箇所に貼る。 勿論、分類シールと共に排出される貸出しコードのシールも忘れずに貼った。 その後、類似した資料を近くに纏め、専用の本棚へと似たような内容同士を傍に置いたり、名前順、記録順などと予め並べておいたりして、効率良く収納する。


「流石、新人クンでもちゃんと管理人してるねぇ」

 資料をきちんと分別して収納した後、再び戻ると酉は感心したように言った。 どうやら、カウンター付近にある読書スペースで、卯の様子を観察していたらしい。卯が今までいた資料室は外からは見えないような位置にあったはずなので、どうやって観察していたのかは不明だが。

「……あなた、いつまで図書館ここにいるの」

暇なのだろうか。 少し、じと目で酉を見る。 流石に、最上位幹部なりたてひよっこの分際で以前からの最上位幹部ベテランを睨み付ける程の勇気は、卯には無かった。

「だって、気になるじゃないか。 話に依ると、図書館業務情報管理するのは初めてだって聞いたものだから」

卯の(可愛らしい)睨みじと目も意に介さず、酉は楽しそうにくすくすと笑う。

「優秀そうで良かったよ」

それも、と随分と嬉しそうだった。

「情報の管理がきちんと出来てるなら、問題無さそうだ」

酉は席から立ち上がり、卯の方を向く。卯と酉には随分と身長の差があるために、卯は酉を見上げる。

「オレも普段は研究所にいるから、興味があったら会いに来てね」

なんてね、と笑って酉は本を魔法で元の位置に直し帰っていった。
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